従来身体の弱い私だが、秋深くなっていく庭を見たくなって、縁側まで出てみた。
久しぶりに身体を起こしたからだろう。骨の軋む音がした。
くっきり跡のついた布団を抜け出して、階段がわりの石に爪先を置く。
ひんやりとした石の感触が、気持ち良い。広がる景色は色づいていく葉。
・・・これが紅に染まれば、なんと美しい光景だろうか。想像するだけで、溜息が出そう。
「 起きて大丈夫なのか 」
「 まあ、家康様・・・ 」
縁側に伸ばしていた脚を畳んで、居住まいを正そうとすれば、手で制される。
そのままで構わない、という家康様の言葉に甘えれば、彼は私の真横に腰を降ろした。
驚いたままの私の顔を覗き込むと、
「 ・・・ふむ、顔色は良さそうだが、無理はしない方がいい 」
「 お気遣いありがとうございます。今日は随分と気分がいいんです 」
「 それはよかった。お前が臥せると、夫のワシまで塞いで使い物にならぬからな 」
はは、と笑って、私の前髪へと手を伸ばす。ひと撫ですると額へ当てた。
「 熱もなさそうだな 」
「 ふふ・・・なかなか信じてもらえないんですね 」
「 いや、そんなことはないのだが、やはり心配で・・・あ、そうだ!ほら・・・ 」
と、ぽんと自分の腿を打つ。どういう意味かわからず、首を傾げた私の頭を引き寄せる。
特に強い力で引っ張られた訳ではなかったが、そのままころりと、彼の膝元に横倒しになった。
「 きゃ、わっ・・・っ!! 」
「 どうだ?この態勢なら景色も楽に見れる。一石二鳥だろう! 」
「 い、いけません。家康様みたいな立派な方にひ、膝枕してもらうなんて・・・! 」
「 褒めてもらうのは光栄だが、遠慮はいらぬぞ。妻の身を案じて何が悪い。
俺はお前が無理をするほうが嫌だからな 」
「 ・・・・・・・・・ 」
まだ強張ったままの私の髪を、優しく優しく、撫でていく。
しばらくすると緊張が少しずつ解けていき、彼の膝に完全に身体を預けた。
柔らかく当たる陽の光りが、弱った身体を癒しているようだ。
うたた寝の足音を感じながら・・・私は口ずさむ。
「 家康様は、太陽のような方ですね 」
敵も味方も受け入れて。燦々と輝ける人だ。それが・・・時々、私の目には眩し過ぎる。
私は、焼け焦げるのを覚悟して、真上の光に手を伸ばす。
宙に浮いたそれを、彼が包んで、自分の頬へと誘う。家康様は優しく微笑んで、口を開いた。
「 もしワシが太陽のようだと言うなら、お前がいるからだ。
愛する人、護る人がいるから・・・ワシは、輝ける 」
お前の存在あっての、ワシなのだ。
そう言って・・・家康様の顔が、ゆっくり降りてくる。
彼の瞳には、今にも感動して泣いてしまいそうな自分が写っていた。
( 大きな光の一部に、この儚い身も、命も入っているのだろうか・・・・・・ )
柔らかな唇の感触に、最後の糸が切れて・・・涙がひと雫、頬を伝わった。
貴方に溺れる
03.午後( 徳川家康 )
( 私もいつか彼のようになれるだろうか。命は短くとも、光で満ち溢れた人間に )
( ワシはお前がいるから輝ける。ワシが太陽だというなら、お前はそれ以上の存在なのだ )
泪と砂糖水
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01.朝( 毛利元就 )02.昼( 長曾我部元親 )03.午後( 徳川家康 )
04.夕刻( 風魔小太郎 )05.夜( 石田三成 )
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10.Morning( ? )
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