傾けた徳利から、こぼれ落ちる。






 並々には注がず、少し唇をつけた時に余裕があるくらいがいいのだと。
 それが彼の・・・三成さまの、飲み方らしい。
 徳利を離すと、一気に煽る。喉を焼いた熱を宙に吐き出す。白い吐息は、直ぐさま闇に溶けた。


「 ( ・・・あ、綺麗 ) 」


 三成さまは、なんというか・・・氷のようだと思うのだ。
 結婚が決まった時に私を襲った感情の名は『 歓喜 』と『 畏怖 』だった。
 白無垢越しに見た瞳を、私は怖いと思った。


 でも・・・このヒトは『 怖い 』だけじゃない( 怖いのは否定できないと思うもの・・・ )


 他人だけに厳しくする人ならいくらでもいるけれど、三成様は自分にも厳しい。
 ・・・それってすごい!人間として、すごく尊敬できることだもの!!
 畏怖しているのは、まだ彼のことを、私は全然知らないってことなんだ。


 折角、縁があって夫婦となったんだもの。
 一緒に時間を過ごして、いっぱい彼のことを知っていきたい。




 そう思った私は、既に旦那様である三成様に・・・『 本当の恋 』に堕ちた。




「 ・・・酒 」
「 へ? 」
「 なくなった。注げ 」
「 あ、は、はい!申し訳ございません 」


 そう言われてみれば、彼の持つ杯には一滴も残っていない。
 私はお調子を斜めにして、慌てて注ぎ・・・。


 というか・・・慌てすぎて、三成様の手にかけてしまったのだ!


「 ・・・・・・貴様、 」
「 きゃーきゃーっ!すみませんすみませんー!! 」


 三成様の左腕から、雫が零れる。その腕を取って、私は自分の着物の袖で拭おうとした。
 彼はやめろ!と声を荒げて抵抗するが、食いついて離さなかった。


 ・・・だって、みっともないじゃない。
 三成様は、他人にも、自分にも厳しい方。
 自分を律せなかったら、三成様に嫌われちゃうじゃない!


「 ・・・貴様ァ!いい加減にしろォオ!! 」
「 ひっ・・・きゃああっ!! 」


 思いっきり振り払われて。さすがの私も、尻餅をつくようにひっくり返った。
 さっきまで三成様を押さえていた腕を捕られ、今度は私が床に縫い付けられる。
 混乱してじたばたと暴れている私の上に馬乗りになり・・・ようやく、私も我に返る。
 あ・・・と吐息が漏れ、見下ろす瞳との温度差に、縮こまりそうになった。


「 ( ど・・・どうしよう、怒られる ) あ、あの・・・ごめんなさい 」
「 ・・・貴様は、謝ってばかりだな 」
「 そ・・・そうですね、すみません・・・ 」


 また、と言われて、三成様の口元が緩む( ・・・あ )
 彼につられて、私も笑う。くすくすと静かに微笑う声が、闇夜に響く。
 馬乗り状態のままで笑うなんて、何か変な状態だけど・・・私、こういう時間が欲しかった。
 ( 三成様と、お互いの瞳を見つめて話す時間が )


 ひとしきり笑った後に、彼がぽつりと漏らす。


「 ・・・お前は、私を怖がっているとばかり思っていた 」


 まあ・・・そうなんですけど、とは流石に答えられず。黙ったままでいたら、彼は私の頬に触れた。
 つ、と頬を撫でるように指を滑らせて、真下の私に宣告するように・・・。






「 貴様は・・・私の傍で、ただ、微笑んでいればよい 」






 泣きそうな瞳が、そのまま降りてくる。
 有無を言わさない、といわんばかりの口づけ。次第に深くなる唇に、甘く、酔いしれる。






 ・・・どうして、そんなに不安がるのですか。私には、貴方しか見えていないのに。
 私自身、三成様のことがもっともっと知りたいのです。
 だから、そんなに貴方が私に、無理に『 縋る 』必要はないんです。













 ( 三成様、三成様・・・みつ、な、り・・・さま・・・・・・・・・ )













 心も身体もいっぱいいっぱいで、何ひとつ答えることは出来なかったけれど。






 互いの愛に飢えて私たちを、夜の闇が包んでいった・・・。








貴方に溺れる



05.夜( 石田三成 )

(( こんなに好きで好きで、好きでたまらないのに、伝えられないのはどうして ))
泪と砂糖水

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01.朝( 毛利元就 )02.昼( 長曾我部元親 )03.午後( 徳川家康 )
04.夕刻( 風魔小太郎 )05.夜( 石田三成 )



10.Morning( ? )