・・・・・・朝が、訪れる。






 身体を起こす途中で、痛みに顔をしかめる。
 ・・・そういえば、昨夜はずいぶんと爪をたてられた。
 ( まあ、無理を強いたのは俺の方だが )
 武士にとって背の傷は不名誉なことだが、今の俺には勲章だ。
 隣に丸まった、爪の持ち主を見下ろして、俺は微笑んだ。


「 おはよう 」


 彼女は丸まったまま、答える気配もなく、小さな寝息を立てていた。
 スプリングのよく利いたベッドをそっと抜け出して、床に落ちていた服を拾う。
 やっぱり・・・夕べのうちに、風呂に入っておいて正解だった。
 手早く衣服を身に着けると、そのままキッチンへと向かった。
 冷蔵庫に眠っていた野菜をサラダに変え( 当然、野菜はうちで栽培したものだ )
 パンを焼いている間に、作り置きのスープに火を通す。


 朝食の支度が完全に整う、一歩手前で。
 俺は、寝室に戻って・・・まだ眠りの淵を漂う姫君を起こしにかかった。


「 おはよう・・・そろそろ起きねえと、遅刻するぞ 」
「 ・・・う・・・ん・・・も、すこし、だ、け・・・ 」


 寝返りをうって、そのまま枕へと顔を埋めた彼女に。
 溜め息ひとつ零すと・・・とっておきの『 声音 』で、彼女の耳元へと囁いた。




「 ・・・夕べは、最高に気持ちよかったぜ? 」




 そのまま、柔らかい耳たぶを甘噛みすると。
 さっきとは打って変わった様子で、彼女の身体がびくり、と大きく反応した。
 耳から熱が広がったかのように。埋めていた顔を上げると、見事に真っ赤に染まっていた。


「 な・・・っ、ななななんのこ、とですか、こ、じゅ、ろ・・・ 」
「 決まってるだろ、昨日の・・・ 」
「 わーわーわーっ!!! 」
「 お前があんなに乱れたのも久々だったからな。つい俺も興奮して無理をさせ・・・ 」
「 きゃあきゃあきゃああああ!いい!言わなくて、いい!ですっ!!! 」


 ほんの数分前までまどろんでいたのが、嘘のように。
 彼女は飛び起きると、両手を伸ばして俺の口を塞ぐ。
 俺は・・・その手を払わずに、逆に捕まえて。
 もう一度、身体ごとベッドに沈めて、そっと彼女の首筋に唇を寄せた。


「 こ・・・小十郎、さ、ん・・・!? 」
「 ・・・愛してるぜ 」








 昨夜のキミも、今朝のキミも、そして未来のキミも。


 どんなに年月を重ねても、この熱は永遠に冷めないことを、確信しているから。








「 ・・・私も、です。大好きですよ 」


 彼女の、微笑む気配がして。
 首元から顔を上げた俺と彼女の視線が、間近で交差する。
 顔だけを動かして、彼女は唇を自分から重ねた。ちゅ、と唇の離れるリップ音。
 桃色に頬を染めて、ゆっくり笑う彼女に・・・俺は、ありがとよ、と呟いた。


「 さて、と・・・ぐずぐずしていると、遅れるぞ 」
「 は、はい!って・・・えええ、何でもっと早く起こしてくれないんですか!? 」
「 起こしてやっただけでも、ありがたいと思え。ほら、朝食できてるぞ 」
「 ・・・すぐ着替えて、い、行きます! 」


 俺が部屋を出ないと、裸の自分はベッドから出れないと思っているんだろう。
 ( あれだけ魅せておいて、何を今更・・・と思うが )
 こくこくと頷いて見せて、早く部屋を退出してほしいという無言のオーラが出ていた。




 ・・・意地悪して、手を出してやろうかと思ったが、本当に彼女が遅刻してしまう。












( 毎朝『 こうなる 』のがわかってるから・・・やっぱり、風呂は深夜に入っておくに限るな )












 たまらず苦笑して、俺はキッチンへと戻って行った。








貴方に溺れる



10.Morning( 片倉小十郎 )

( これから先も、あいつとこうやって生きていくのだと思ったら、胸の奥が温かくなった )
( これから先も、小十郎さんとこんな朝を迎えるのかと思うと、すっごく恥ずかしいんだけど・・・な )
泪と砂糖水

拍手、有難うございました。貴方の拍手が、私の元気の源です。

01.朝( 毛利元就 )02.昼( 長曾我部元親 )03.午後( 徳川家康 )
04.夕刻( 風魔小太郎 )05.夜( 石田三成 )



10.Morning( ? )