ぼんやりと・・・硝子窓の向こうに広がる夜景を見つめる。
 煌びやかなネオンサインは、絶景の観光スポットだと聞いたことがある。
 オフィスのあるこのビルの屋上からの眺めを見に、人が集まるというから驚きだ。


 仕事詰めの俺が、ここから見る景色で、癒されたことなんて・・・一度もないからな。


「 お疲れ様です、片倉さん 」
「 ああ、お前か・・・お疲れ 」


 自虐的に笑っていた俺へと近づく、最愛の気配。
 自動販売機に小銭を入れ、かこん、と紙コップの落ちる音の後に、注がれるコーヒー。
 窓辺にいた俺の傍に腰を下ろし、湯気の立つそれへと口をつけた。


「 今夜も随分、遅いみたいですね。もうフロアに誰もいませんでしたよ? 」
「 それは俺の台詞だ。全く、お前も大した奴だよ。時間のかかる仕事は、他の連中に任せて・・・ 」
「 『 女のお前は、早く帰ろ 』でしょ?もう、心配性なんだから! 」


 口を尖らせたかと思えば、次の瞬間、解けたようにクスクスと笑う。
 くるくると表情が変わる様が好きで・・・俺の方から告白して、もう随分になる。


「 ( ・・・そろそろ、お前の生きがいを『 俺 』に定めてくれても、いいような気がする、がな ) 」


 『 仕事 』が生きがいだという彼女の楽しみを、取り上げるつもりはないが。
 こうも遅い時間に変える日が続くと・・・恋人としては、さすがに心配になるのは当然だ。


「 ん、小十郎さん、どうしたの? 」
「 ・・・お前、オフィスだぞ。仕事の時は、名前で呼ぶなとあれほど・・・ 」
「 もう誰もいないってば 」


 ガサガサと手元で音がする、と思えば、彼女が徐に俺の口の中へ何かを放り込んだ。
 何を!?と眉が上がったが・・・よく味わってみれば、チョコレートだった。
 もうひとつポケットから取り出し、今度は自分の口に収める。
 そして、んんー美味しい!と身体を震わせた。


「 疲れた時には、やっぱり『 甘いもの 』が一番ですよね? 」
「 そうだな・・・これ、どうしたんだ? 」
「 同僚の男の子がくれたんです。これ食べて、元気出せって 」
「 ・・・・・・そうか 」


 と言うなり、彼女の腰へと手を伸ばす。
 わ、と小さな悲鳴を上げて、バランスを崩しかけた身体は、そのまま俺の膝へと落ちてきた。
 ちゃぽん、と掌の中で音を立てたコーヒーの入った紙コップを取り上げて、近くのテーブルへ置いた。
 背中から抱き締めた彼女の、耳へと歯を立てる。彼女の背筋が、反り返った。


「 ああ・・・そいつの言う通りだな。甘いものを食べると、生き返るようだ 」
「 や・・・ダメ、こ、じゅ、ッ・・・!誰か、来、たら、ッ!! 」
「 『 誰もいない 』んだろ?お前も、心配性だな・・・ 」


 制服のブラウスから覗いた鎖骨をなぞって、ぷつ、とボタンををひとつだけ外す。
 抵抗するが、彼女の吐息が『 甘いもの 』へと変わる。
 チョコレートとコーヒーの匂いだけでなく、もっと別のものを含んだ、甘い・・・。






 この『 行為 』が終わったら・・・彼女はさすがに仕事場では嫌、とはなんとか言うかもしれないな。






 ・・・いい機会かもしれない。正直に、話してみるかな。
 言い出せなかった俺の気持ちと、鞄に隠したままの、君サイズの指輪を添えて。


















 とっておきの『 プロポーズ 』を考えながら、俺は『 甘い 』彼女を堪能した。








02.甘



チョコレート、声、くちびる

( 俺に黙ってついてこい!・・・ってのは・・・やっぱり古臭い、か? )
capriccio

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01.愛( 松永久秀 )02.甘( 片倉小十郎 )03.悲( 猿飛佐助 )
04.恋( 真田幸村 )05.幸( 伊達政宗 )



10.戀( ? )