ただの原野だった土地は整備され、活気溢れる町並みへと変化した。
流れる川の恵みを受け、人々は大地を耕し、安定した生活を営む。
それがこうして・・・当たり前のようにやってくるまで、随分と時間がかかったはずなのに。
昨日のことのように思い出されるのは、何故だろう・・・。
「 ・・・政宗さま 」
ゆっくりと振り向くと、床に伏した彼女がいた。
いつもの忍装束とは違い、喜多に言いつけて、着飾らせた美しい彼女。
片手を挙げ、周囲の家臣を下げる( 彼女が伊達忍だとは、誰も気づいてはいまい )
ぱたり、と扉が閉まったのを確認して、彼女へと手を伸ばした。
顔を上げた彼女は、俺に導かれるまま、天守閣の軒先に並んで立った。
「 見てみろ!これが、俺の作り上げた国だ!! 」
ばっと両手を広げたその先に、広がる奥州の土地。
城に住む彼女にとっては珍しくないが・・・改めて、誇示しておきたかったのだ。
驚いたような彼女の顔が、まるで花がほころぶように、ふわりと微笑む。
そして、恭しくもう一度、床に額をつけた。
「 奥州平定、おめでとうございます、政宗さま 」
「 Thanks・・・どうしてもお前に、見せたかったんだ。天守閣からの、国の姿を 」
「 光栄です。そして、政宗さまがこれから作っていく世を、一民として、応援いたします 」
「 それはもちろん・・・俺の隣で、だよな? 」
「 ・・・・・・・・・ 」
急に押し黙った彼女の顎を、俺は持ち上げる。
押し当てすぎたのだろう。彼女の額には、畳の跡。けれど、真っ赤になってるのは跡だけじゃない。
「 何故、そんな悲しそうな表情をするんだ、Honey? 」
「 ・・・お戯れを。もう私など、争いのない政宗さまには必要のない者 」
「 それを決めるのは、俺だ 」
you see?とウィンクをひとつ。真っ赤に染まった彼女の瞳から、涙が溢れた。
拭っても拭っても、零れ落ちる雫にそっと唇を寄せた。
「 誰よりも奥州を、伊達家を思い、愛したお前が居たから、ここまで来れた。
今まで、お前が俺を護ってくれたように、俺もお前を護っていきたいと思う 」
「 政宗さまは、一国の主。女の為とあっては、家臣の皆様に示しがつきません 」
「 奥州とお前を、天秤にかけるつもりはねえ。両方とも、俺が護ってみせる。
・・・だから、傍に居ろ、一生だ 」
「 政宗・・・さ、ま・・・ 」
伊達忍としてではなく、ひとりの女として・・・これからは、俺を支えて欲しい。
そう言うと、身体を離した彼女の瞳が一瞬輝く。
けれど、はっとして・・・苦しそうに、首を横に振った。
・・・嫌、というわけではない。身の丈に合わない、と言いたいのだろう。
( 彼女はそうやって、自分の意思を殺して生きてきた人間だ )
揺れる心ごと抱き締めるように、震えた身体を胸の中に閉じ込めた。
「 ・・・I Love You 」
それが異国語での、愛の言葉であることは、長年一緒に生きてきた彼女にはわかっている。
今までは寂しそうに微笑むだけだったのに、初めて彼女は拒絶するように首を振った。
・・・だがな、もう遅い。
俺の心は、すでにお前に盗まれている。
お前が・・・俺を護ってくれた日に、命と一緒に、預けちまったようだ。
強く強く抱き締めると、彼女は諦めたように身体を委ねる。
しばらく、そのままで泣いていたが・・・彼女の腕が、おずおずと背中に回された。
掌から伝わる温度に、俺は心の中でガッツポーズをして。
力いっぱい・・・愛しい彼女を、改めて抱き締めた。
05.幸
あなたが居て、わたしが居て
( I promise I'll make you happy )
capriccio
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01.愛( 松永久秀 )02.甘( 片倉小十郎 )03.悲( 猿飛佐助 )
04.恋( 真田幸村 )05.幸( 伊達政宗 )
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10.戀( ? )
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