室を訪ねると、彼女は窓の桟から冬空を眺めていた。






 それはまるで一枚の風景画のようだった。
 灰色の空を背景に、逆光で黒く見える窓枠が額縁の・・・一枚の絵。
 片手をあげて、控えていた女中たちを下がらせる。
 と、その衣擦れの音に気づいたのか彼女が振り返った。
 墨絵のような白黒の絵に、小さな紅色が宿った。


「 久秀さま 」


 鈴の声音が鳴り、紅は弧を描く。


「 何を見ているのかね。冬の空など雲も厚く、面白味もないだろう 」
「 そう、ですか?またこの雲の厚さも、趣があるように思えるのですけど・・・ 」
「 ほう・・・ 」


 隣に座ると、そっと彼女の腰を引き寄せる。
 重さの感じられない彼女の身体は、あっという間に自分の胸の中に収まった。
 最初は驚いたようだが、恥ずかしそうに微笑むと、ホラ、と空に向かって指をさした。


「 雲の厚さにもいろいろありますし、色も違うんです。だから予想して楽しみます 」
「 ふむ、そんなものかね 」
「 それに時々、雲の隙間から陽の光が差し込むことがあるんです。それは本当に綺麗で・・・。
  雲の色が、神々しく光る様を見ると、神様って本当にいるんじゃないかな、と思います 」
「 神様、ねえ・・・ 」


 ふ、と鼻を鳴らしたのを、私が不機嫌になったのかと思ったのだろう。
 彼女の顔が、まるで外の曇り空のように曇った。


「 ・・・・・・きゃ、っ 」


 胸の中に抱いていた彼女が、声を上げる。
 小さな身体が凝縮されたかのように、胸の中で固くなった。
 ぎゅう、と苦しまないくらいの力で抱きすくめ、その耳元でこっそり『 囁く 』。
 大きな黒い瞳は零れ落ちそうなくらい開いたまま、ぱちぱちと数度瞬きすると・・・。
 じわりと熱を持った涙で満たされ、彼女が腕の中で力を失ったように寄りかかってきた。


「 も、ぉ・・・唐突すぎ、ます、久秀さま・・・ 」
「 不意打ちは、相手を陥落させるに武将が最初に行う戦略だからな。
  苛烈する貴女を見ることこそ、至極の楽しみのひとつなので、容赦して欲しい 」
「 私は、とっくに・・・久秀さまには『陥落』しておりますというのに・・・ 」


 厚く覆われた雲が晴れ、顔を出した太陽は神々しい・・・か。
 今なら、彼女の言うこともわかる気がする。
 そう告げて額にひとつ口づければ、美しく花が咲いた。












 眩しい光に、目が眩む。


 いつの間にか雲の隙間から青空が顔を覗かせ・・・












 白黒の世界は、美しく彩られた。












幸福とは何ぞや



( 松永久秀の場合 )

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