「 安らいだのは、お茶の香りを嗅いだ一瞬だけだった。


  あああとのことは、そ、某、一切おお覚えておらぬッ!
  かかっ、彼女を前にすると、某は、某は、某はぁぁあああ!!
  うぉおおおお!ぅおやかたさばーッ!この幸村に熱き拳をぅぉおおお!! 」












 はーい、それじゃあテンパり過ぎた旦那のために、俺様が説明しちゃうよ!











 旦那の意中の『 彼女 』は優秀な侍女の一人で、告白はまだしていない
  ↓
 己の煩悩と欲求不満に、旦那は目の当てられないほどムラムラしてるってワケ
 ( 「 佐助!ムラムラ・・・とは何だ? 」「 とりあえず黙っておこうか旦那 」 )
  ↓
 お館様に言われたとおり、ムラムラを吹き飛ばそうと一身に槍を振るう健気な旦那
  ↓
 だがそこへ、欲求対象である『 彼女 』がお茶を持って励ましにやってくる
  ↓
 今、一番逢うのを避けたかった旦那は、それでもお誘いを断れず。
 戦同然の気構えで、お茶に臨んだ・・・・・・←イマココ!








 本当は、いつ襲ってもおかしくないくらい好きで好きで堪らないのに。
 ( 旦那は、最悪そーいうことしても怒られない身分だしね )
 『 彼女 』の気持ちを大切にしたいってところが、旦那らしいよなあ。


 って・・・・・・あ、






「 幸村さまーぁ! 」






 ぶんぶんと腕を振り回した彼女に、隣に座っていた旦那の背筋がぴーんと伸びた。
 真っ赤な顔で、無表情に反応しているけれどポーカーフェイスを気取ってるわけじゃない。
 ( 俺様のご主人様は、そんな器用じゃないしね )
 恥ずかしがりながら、ちぎれんばかりに見えない尻尾を振ってるのがわかる。


「 お台所でお団子をいただいて参りました。幸村さまにどうぞ、って 」
「 そ・・・そうでござ、るか! 」
「 やっぱりお茶に合うのは、お団子ですよねー 」
「 そ・・・そうでござ、るな! 」
「 よもぎと黄粉がありますけど、どちらから召し上がりますか? 」
「 そ・・・そうでござ、るなぁ・・・ 」
「 どちらの方が好き、ですか? 」
「 そ・・・ええぅぇ!? 」


 『 好き 』の単語に反応したんだろうけど、動揺しすぎだっつーの。
 縁側に団子を並べて、上目遣いで見上げた彼女。
 その視線に耐えられなくて、旦那は持っていた茶碗を膝の上に落とす( あーあ・・・ )
 慌てた彼女が布巾で旦那へと手を伸ばすものだから、旦那はそれをかわすのに必死だ。


「 幸村さま!?ど、どうして逃げるんですか!? 」
「 ええええ遠慮いたす!自分で拭ける、ゆえ・・・! 」
「 ダメです!主人にそんなことさせるなど!侍女として失格です!! 」
「 しっ、失格などではない、そなたはいつも・・・いつも・・・・・・ってうわぁあ! 」
「 え、幸村さ・・・きゃあ!! 」


 彼女から追い掛け回されていた旦那が、ちょっと気を緩めた瞬間に背後の石に蹴躓く。
 ひっくり帰りそうになった主の手を掴んだ彼女もろとも、横倒しになった。


 ・・・なーんて・・・ベタな展開。


 でもま、きっかけのひとつでもないと、色恋に疎い旦那は一歩も前に進めないだろ?
 だからそっと影分身で石を置いてやるくらいの、手助けしてやらないとね。
 ( そのかわり、手当ては弾んでくれよ?だ・ん・な! )






 自分の胸の中に閉じ込めた彼女の瞳を、真っ直ぐに見つめた旦那の・・・口が、開く。
 ・・・それでいい。大切な人を得て、強くなりなよ、旦那。
 俺様は、心からそれを応援してやるから、さ!














 ま、あとは仲良くやってちょーだい、と言わんばかりに。


 音も無く、その場から姿を消しました、とさ。













幸福とは何ぞや



( 真田幸村( &佐助 )の場合 )

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