ぼぐ、と鈍い音がして、俺の目線は白から青を彷徨う。






 足先が一瞬浮いたと思う。ひっくり返って、真っ白い雪の上に着地。
 柔らかいけれど、とても冷たい。背筋がぶるりと震えるのがわかった。
 冬の朝より起きるのが億劫に思えたが・・・耳を突く、二人の子供の笑い声。


「 あははは、梵すごーいっ!小十郎に直撃したよー!! 」
「 みたか!これが、てんをかけるりゅうのチカラだッ!! 」


 昔からであるが・・・二人揃うと、最悪だ。
 主君である梵天丸さまは御年6歳。まだまだ遊びたい盛りなのは致し方ない、として。


「 お前まで、一緒になって遊ぶとは、何事だ!
  女童から政宗さま付きの女中になる為、手習いを学びに来ていたのではないのか!? 」
「 だってー、飽きちゃったんだもーん。ね、梵 」
「 おう!おれさまも退屈しておったから、よいのだ! 」


 いいこだねー、ぼんは・・・と彼の頭を撫で回している彼女に怒りの火がついた。
 手当たり次第に雪を掴んで、お返しとばかりに素早く丸めて投げる。
 ( こうやってムキになってしまうところが、自分は・・・まだ幼いと思う部分はあるのだが )
 それは梵天丸さまの右肩に当たり(あ)めらり、と闘志が瞳に宿るのが見えた。
 彼女の手を引っ張り、大きな木の根元に隠れるとせっせと雪玉を作り始める。


「 そうはさせるかッ! 」


 自分が不利になる前に、攻め込む!
 事前に作っておいた雪玉を、両手にひとつずつ持って、敵陣へと突撃する。
 俺の行動は、子供の彼らには予測不能だったのだろう。
 彼女の作った雪玉を投げようと構えていた梵天丸さまが、驚いた顔をした。


「 に、逃げるぞ!撤退だ! 」
「 梵天丸さま!敵に背を見せるは、武士の不名誉にございますぞ! 」


 それでも、咄嗟に彼女を残さず共に逃げようとしたところは・・・評価しても良いと思う。
 だが、俺の投げた雪玉はそれぞれの背中に当たり、二人は共倒れた。
 俺は一息吐くと、雪まみれになったその首根っこを掴んで、雪の中から引き上げる。


「 これが戦なら、梵天丸さまの負け、ですな 」
「 ち、畜生ッ!おに!はげ!! 」
「 ・・・・・・お仕置きが足りぬのでしたら、もう一度雪の中に埋めますが 」
「「 ひっ・・・! 」」


 ひきつったような声が、二人の喉から上がる。
 彼女がちらりと梵天丸さまへと視線を投げた。それに応えるように、彼は私を見上げる。


「 すまぬ。おれたちは、小十郎に遊んでほしかっただけなのだ 」
「 ・・・! 」
「 だって、私も梵も・・・小十郎のこと、大好きなんですもの! 」
「 ・・・!! 」








「「 こじゅうろー、だいすき!! 」」








 まるで台本のように合わせた幼子の声が、余計胸の中に刺さる。
 きらきらと瞳を輝かした二人にそう言われては・・・折れぬ方が、大人気ない・・・。
 大きく溜め息を吐いて、首素を掴んでいた手を緩めたその瞬間。


 ・・・足元の激痛に、堪らず蹲る。


 脛を押さえながら、苦悶の表情で顔を上げると森の中に消えようとする二人の姿。
 きゃははは、と笑い声を上げながら逃げていく二人に・・・とうとう、堪忍袋の緒が切れた。






















「 ・・・てめェら・・・覚悟は出来てんだろう、なぁッ!! 」






















 本日最大の怒号が、森々とした雪景色の中に響いた。














幸福とは何ぞや



( 片倉小十郎の場合 )

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