ねえ、つり橋効果、って知ってる??


 つり橋の上で出逢った男女は、他の場所で出逢うよりも好感を覚えるんだって。
 それは、恐怖状態によって上がる心拍を、恋だと勘違いしちゃうから。
 危険な状態で出逢った二人が恋に落ちるなら・・・






 こんな場所で出逢うこと自体、運命なのかもよ??


















「 ・・・・・・っっ!!! 」


 凄まじい音がして、すぐ隣の壁が崩れ落ちる。
 悲鳴も上がらない。あまりの衝撃に、ただ息を呑むことしか出来ない。
 ・・・どこからか、AKUMAの笑い声が聴こえてくる。
 も、もしかしたら、すぐ近くにいるのかもしれない・・・っ!!


「 ( ど・・・どうしよう・・・! ) 」


 うぅっ・・・怖い、怖い!!
 こんなことになるなら、志願しなきゃよかった!!!
 上司に『 一度は戦場と宿敵を見ておくか? 』なんて言われて、
 大人しく頷くんじゃなかった!!


「 ( 念願の・・・黒の教団の科学班に入れて、調子に乗ってたのかも ) 」


 ・・・そう考えたら、何だか自分が酷く惨めに思えてきた。
 入団出来るなんて思ってなかったから、夢心地が抜けきっていなかったんだ。
 今更・・・後悔したって、ここで死んでしまうかもしれないのに・・・。
 纏っていた白衣( もう埃だらけだけど )の裾を、ぎゅ、と握り締める。
 涙がじわりと浮かんだ時・・・壊れた壁が動いたのだ!!


「 ・・・う・・・ 」
「 ( え・・・ヒト!? ) 」


 ガララ・・・と石礫の零れ落ちる音と共に、呻き声が聞こえる。
 ・・・今、この現場にいる人間は、教団関係者だけだ!
 私は竦んだ足を動かして、瓦礫の山をかき分ける。


「 しっかり!しっかりして・・・っ!! 」


 見えてきた、ローズクロイツ。もう少し、もう少しよ・・・!
 かき分ける手に更に力を篭めて、一際大きな石をどかす。


 その途端、ふ・・・と、視界が暗くなった・・・。


 ・・・さっきまで、月の光が煌々と手元を照らしていたというのに。
 私は、恐る恐る・・・振り返る。背後の夜空に浮かんだ、大きな影。
 気味の悪い笑顔には『 人 』だった時の優しさの欠片も・・・ない。
 凍りついた私に・・・AKUMAは、刃を向いた!!


「 ちっ!!! 」


 爆音と、同時だったと思う。
 盛大な舌打ちが聴こえて、私の身体が浮かんだのと・・・。
 ひやり、と冷たい空気が頬に触れて、閉じていた瞳を開く。
 視界に広がる、一面の星空。
 綺麗・・・じゃ、なくて!も、もしかして、浮いて・・・!!


「 わ・・・うわわ、わ、あっっ!! 」
「 うるせぇ、暴れるな! 」


 動揺してもがく私に、喝が入る。
 ぎゅ、と胸板に抱かれた時に目に付いた、梵字のタトゥ。
 そのまま視線を上げる・・・漆黒の髪、漆黒の瞳。


「 ・・・エクソシスト? 」


 オリエンタルな容姿。こんなヒト、うちの支部にはいなかった。
 そういや別の支部のエクソシストが、救援で来てくれるって連絡があったっけ。
 ・・・もしかして、このヒトがそうなのかもしれない・・・。
 なんて、少しずつ思考回路が戻ってきたところで、エクソシストが吼えた!


「 結界装置(タリズマン)を出せ! 」
「 え 」
「 早くしろっ!! 」


 返事も疎かに、私は胸ポケットから小さな結界装置を取り出す。
 ・・・この日のために、作ったものだ。
 一回だけなら、広範囲のモノも防げるという自信作!
 コードを引っ張って、一瞬で発電させる。


「 今だ!! 」


 バチ、と電気の音。私は無我夢中で、発動させたそれを抱き締めた。
 途端、迫っていたAKUMAの攻撃を受けて、結界装置とぶつかる!


「 きゃああああぁぁっ!! 」
「 いくぞ、六幻!抜刀っ!! 」


 反発する力の中心で浴びる衝撃波に耐えられず、悲鳴を上げる。
 そんな私を抱き締める力を強めて、エクソシストのイノセンスが発動した。
 強い発光に、もう一度瞳を閉じた瞬間・・・。




 その腕が、急速に離れていくのに気付いた。




 ちょっ・・・待って!ここって、空の上・・・だ、よねぇっ!?
 彼の腕が完全に私の身体から離れて、一人、虚空に置き去りにされる。
 口が自然に大きく開く。彼を呼び止める、声すら出なかった。
 小さくなっていく背中に伸ばした手が・・・宙を掴んだ。








 ・・・・・・落ちる、っ!








「 よかった!!無事でしたか、さん!! 」


 名前を呼ばれて、顔を上げると、見慣れた探索部隊員さんの顔。
 地面に激突する前に、彼が私の身体を受け止めてくれたらしい。


「 ・・・あ・・・ 」
「 ヨーロッパ支部のエクソシストが来てくれたから、もう心配要りませんよ 」
「 そ、そう・・・ 」


 その瞬間、ドン!と打ち上げられた光の柱。
 AKUMAの潰えた合図に、周囲から歓声が上がった。
 目を細めて、私も天に伸びた光を見つめる。


 ・・・その光の下に、黒い影があった。
 風にたなびく、長い髪の持ち主。
 それが『 彼 』だとわかって・・・私は自分の胸に手を当てる。




「 ( ・・・ドキドキ・・・してる ) 」








 ユラユラ、ユラユラ・・・








 振り子のように、気持ちが揺れている
 苦しくて、切なくて・・・でも、どこか甘い痛みに酔ってしまいそう


 『 つり橋効果 』でも、何だっていい
 恋に堕ちるきっかけなんて、そんなものでしょ?








「 え・・・さんっ!?どうしましたか!? 」














 緊張が解けたのも手伝って、そのまま気を失った私


 閉じられてく瞼の裏に、紺碧の空を舞う・・・美しい貴方を、見た気が、した














どうしよう好きみたい



( 教団に帰ったら、何より先に、貴方のことを調べてみよう )






Title:"確かに恋だった"
Material:"ミントBlue"