03.It can fly, if it is with you.(12.5)

がらり、と玄関の扉をスライドさせると、板の間に一人の男の人が伏せていた。
ちょっと驚いたようなかすがを横目に、私は彼と視線を合わせるように少し屈む。



「 こんにちは、片倉さん。ご無沙汰しています 」
「 よくぞ参られた、武田のお嬢、若き虎よ。そちらが上杉殿と、竹中殿か 」
「 本日はお招き頂き、恐悦至極にござる、あ、これは某たちから・・・ 」
「 美味しいゼリーなんです。あとで、お屋敷の皆さんで召し上がって下さい 」
「 お心遣い感謝致す。皆も喜ぶでしょう・・・さ、政宗様がお待ちですぞ 」



今日は、文化祭の『 お疲れ様会 』。
政宗くんの提案で、彼がお手製の料理を振る舞ってくれるというのだ。
( 毛利くんも誘ったけれど、忙しいのか断られてしまったので、残念ながら不参加 )

差し出した箱を受け取って、片倉さんが私たちを促す。いつか、小太郎さんの担がれて歩いた廊下を通る。 もう、何だか、随分前のことみたいだ・・・。
案内されたのは、大きな宴会場だった。あまりの広さに驚いていると、片倉さんが苦笑した。 我らが当主は、皆で食事をしたり遊んだりするのが好きなので、家人全員が入れる広間を作ったのですよ、と 少し誇らしげな片倉さん。確かに・・・政宗くんは、当主とか家人とか、そういうの、気にしなさそうだもの。
立ち尽くしていると、襖が開いた。顔を出したのは、噂していた当主・政宗くんだった。



「 よォ、来たな。約束通り、腹は減らしてきたか? 」
「 政宗くん!小太郎さんも!! 」
「 とりあえず、適当に座ってくれ。オイ、風魔、料理を運んでくれ 」
「 ・・・・・・ 」



政宗くんのために上座を避けて、座布団の置かれた場所に座る。片倉さんがそれぞれのコップに飲み物を 注ぎ終わった頃、小太郎さんが料理の乗った大皿をテーブルに並べた。色彩豊かな料理は、 まるで芸術品のよう。これを政宗くんが・・・ほ、本当に作った、の!? 呆気に取られていると・・・小太郎さんが取り分けた小皿を、私に差し出している。



「 ありがとう、小太郎さん・・・あ、れ?少し痩せました?? 」



首を傾げる私の掌を取ると、指を動かす。心配ない、でも、に逢いたかった。
そう書いたのがわかって・・・徐々に、顔が赤くなっていく。 照れ隠しに笑って見せると、小太郎さんの唇が綺麗に弧を描いた。 そこに、邪魔するぜ・・・と政宗くんが割って入ってくる( またヤキモチ妬いたの、かな? )



「 ほら、。これ食べるか?自信作なんだぜ 」
「 へぇ、いただ・・・んむうっ! 」
「 伊達!に何をするんだ!!いきなり口に突っ込んだら、苦しいだろうが 」
「 けほ・・・っ、あ・・・でも、美味しい・・・ 」
「 、ほら、水でも飲みなよ 」
「 ありがとう、竹中くん 」
「 Wait!どうしてお前まで『  』とか呼んでんだよ!! 」
「 構わないだろう?君だって呼んでるんだし 」
「 お前と俺とじゃあ、との距離が違うんだよ、距離がっ! 」
「 真田幸村、てめぇはそんなに慌てて食うと、喉を詰まらせるぞ! 」
「 うう・・・げほっ、ごほっ!、殿ぉ・・・み、ず・・・ 」
「 ゆ、幸村くん、大丈夫!?小太郎さん、お水もらえますか!? 」
「 ・・・・・・ 」



政宗くんの手料理を頬張りながら( でも、本当に美味しかった! )賑やかな時間が過ぎていく。 竹中くんもすっかり溶け込んでいるようで、政宗くんと口論しながらも、料理を食べる手は止めない。 幸村くんの頬張り方は、武田家でも見ているから・・・そんなに、驚かないけれど。 そんな彼を、呆れたように見ているかすが。
片倉さんは少し離れたところで、小太郎さんと一緒に苦笑しながら見守っている。



何だか・・・色々合ったけれど、全部丸く治まった気がする。
こうして、竹中くんと一緒に学校外で遊べる仲になれるとは思わなかったし・・・。



「 殿! 」
「 ・・・幸村くん。お腹いっぱいになった? 」
「 はい!佐助の料理に匹敵するくらい、政宗殿の料理も美味かったでござる 」
「 それ・・・政宗くんに言ったらダメだよ? 」



だって絶対、俺の方が上に決まってんだろ!とか言いそうだもの。
満足そうにお腹を擦っている彼を見て、思わず吹き出す。笑っていると、視線を感じて・・・顔を上げる。 そこには、幸村くんの優しい瞳があって・・・頬が、染まる。

そ、そんな瞳で見つめられると・・・お、落ち着か、ない・・・よ。

俯こうとした首に何か巻きついた、と思ったら、それは小太郎さんの腕だった。
私を抱き締めるように、胸に閉じ込めたのを見て、背後から政宗さんの怒号が響く。
もう収拾がつかなくなって・・・見兼ねた片倉さんが、そこにお座り下さい!と、政宗くんと小太郎さんに説教し始めたのをきっかけに、 私たちもお暇することにした。



武田道場に戻って、お館様や佐助さんにそのことを話すと・・・



「 竜の旦那も、風魔も大人気ないね。同じ世話係として、同情するよ・・・ 」



と、佐助さんが肩を竦めると同時に、幸村くんがうう・・・と唸り声を上げたので、お館様と顔を見合わせて笑った。



今日は何回笑ったか、わからない。

でも、それは・・・なんて、幸せなことなんだろうと思った。