折角のクリスマス・イヴだというのに、曇り空のままだった。
今まで、天候など気にしたことはなかったのに。クラスの女子が『 イヴの夜、晴れて、
夜にデートした時に星空が見れたら嬉しいよね 』と教室で話してたのを思い出したのだ。
殿も、そう思っていたかもしれぬ・・・と思うと、星空を願わずにはいられなかった
( 佐助が言うには、今夜はバイトが大変だったらしく、玄関で崩れ落ちるようにして
眠ってしまったそうだが・・・ )
空を仰いでいると、背後でざっと砂を踏む、力強い足音がした。
「 ・・・幸村よ、準備は出来ておるか 」
「 はっ、お館様!この幸村、全力でお役目を果たす所存でございまする! 」
「 よう言うた・・・幸村ぁあああああ!! 」
「 お館様ぁあああああ!!! 」
「 あのさ・・・二人とも、今、深夜時間帯だってわかってる? 」
赤いサンタ帽子を被った佐助が、大きく溜め息を吐いている。では幸村から行け!という
お館様の号令に、大きく跳躍する。3人お揃いのサンタクロース服が、ひらりと宙を舞う。
武田家の屋根に飛び乗ると、瓦の上を走る。後ろから素早く佐助が追ってきて、
某の袖をちょいと摘んで引っ張った。
「 旦那、そっちじゃないって!こっちだよ 」
「 しょ・・・承知! 」
佐助が指をさす方向に、進行方向を変えた。その時、お館様が瓦に降り立ったのであろう。
ど・・・んっ!と大きく屋根が揺れて、静かだったが屋敷全体を振動が覆う。
ちゃんが疲れ果てた夜でよかった・・・と佐助が零す。
「 さーて、窓は開いているはずなんだけどな・・・ 」
殿を部屋に送った時に、こっそり開けておいたという窓から、こっそり部屋へと侵入する。
まずは佐助、次にお館様、最後に某の順だ。
「 ( ・・・殿・・・ ) 」
ベッドの上で、安らかな寝顔を浮かべる眠り姫。
玄関で倒れるくらいだ。今日のバイトは、相当ハードワークだったのだろう。
普段なら、勉強をしてから眠りについているというが、自分の部屋まで辿りつけないくらい、
働いてきたようだ。
固まったように、その場で寝顔を見下ろしていると、佐助が俺を呼んだ。
「 ほらほら、旦那も。プレゼント持ってきたんでしょ 」
「 ああ・・・ 」
「 ちゃんの枕元に、そっと置いてあげてね 」
佐助の手には、小さな箱がある。それを殿の枕元に置いた。
その隣には、佐助の箱よりひとまわり・・・いや、ずいぶんと大きい箱がある。
右の枕元を占領しているそれは、お館様からの贈り物だ。
「 ・・・大将の、随分と大きくないっスか 」
「 うむ。佐助と服を買いに行ってもらったからの。今回は靴にしてみたわい 」
「 へえ!いいプレゼントじゃないですか。シンデレラみたいだ 」
「 佐助は、に何を送ったのだ? 」
「 んっふっふ・・・練り香水にしました。ちゃんの好きそうな香りをチョイスして 」
「 ほう・・・さすがだな、洒落たものを送るのう 」
「 抱き締めた時に、俺が贈った香りがしたら嬉しいじゃな・・・って、痛! 」
「 さささ佐助!貴様、何たる野心、何たる破廉恥・・・っ!! 」
「 何だよ、旦那ー!じゃあ、旦那は何を送ったんだよ、ちゃんに 」
「 ・・・・・・うっ 」
蹴り倒した佐助に聞かれて・・・返答に、詰まる。
視線がぐるー・・・っと一回りして、じと目で某を見ている佐助に答える。
「 オルゴールだ! 」
「 ・・・それだけ? 」
「 そ、それだけ、とは、どういう意味だ? 」
「 何でさっき詰まったのさ。フツーに答えればいいだけなのに 」
「 ・・・・・・うっ 」
ほ・・・本当は、二人にナイショでもうひとつ用意している、とは言えぬ・・・。
( い、いや、隠す必要はないのだが・・・はっ、恥ずかしかいのだ! )
上手い返答を返すことが出来ず、サンタクロース姿のまま固まっていると、ベッドで寝返りを打つ殿。
びくり、とその場の誰もが肝を冷やした。
二人とも、が目を覚ます前に退散するぞ、とお館様が窓枠に手をかけた。了解、と頷いた佐助は、
某に柔らかく微笑む。
「 旦那も、早くプレゼント・・・オルゴール、枕元に置きなよ 」
「 う・・・うむ・・・ 」
某は胸元から取り出した、てのひらサイズの小箱を・・・彼女の左の枕元に置いた。
よく見れば、口元から涎が垂れそうだ。急に微笑ましい気持ちになって、無意識に手を伸ばす。
つ、と親指で拭ってやれば、むにゃむにゃむにゃ・・・と、もう一度寝返りを打った
( 旦那ー!何してんの!?と佐助の怒ったような声がした )
けれど・・・寝ている殿が、薄っすらと微笑んでいるのを見て。
( ・・・ああ、どうしようもなく、可愛かった )
佐助の叱咤を受けて、彼女の部屋を出て、庭へと降り立つ。
明日の朝・・・枕元のプレゼント見て、殿は、喜んでくれるだろうか。
彼女の、きっと喜んでくれるであろう姿をを想像して。
緩む頬を押さえられず、わくわくして眠れなくなるほど・・・朝が、待ち遠しかった。