そ、某はどうして、このような場所に座っているのであろうか・・・。
「 揃ったな。始めるぜ 」
目の前に立っていた政宗殿がどかりと腰を下ろす。
まだ3月とはいえ、肌寒い季節だ。それも場所は屋上。
背後の女性陣・・・かすが殿と市殿はマフラーを巻き、コートを着込んで身を寄せ合っている。
コンクリートの床の上に堂々と胡坐を掻いて座る男性陣はいずれも兵揃い、ということか・・・。
その中に驚くべき顔を見つけて、あんぐりと
開いた口から声が出そうになったところで、政宗殿に呼ばれた。
「 ・・・で、真田。お前はをどこに誘うつもりなんだ? 」
「 な、んのことでござろうか 」
「 とぼけても無駄だぜ。教室での、のそわそわしていた様子を見ればわかる。
明日からの春休み、どこにも連れて行かない方がおかしいだろうが 」
本当に嫌そうな顔をした政宗殿が、某に向かって容赦ない舌打ちをかます。
あからさまな悪意に眉を顰めていると、おいッ!!と政宗殿を怒鳴る声があった。
「 なぜ私まで呼ばれるのだッ!も、真田も!私には関係ないだろうがッ 」
「 風魔に調べてもらったぜ。お前の従兄・・・家康、とかいったか。
の元カレだったらしいじゃねえか、ならお前はその代理だ。OK? 」
「 断るッッ!! 」
その場を後にしようとする石田殿。その襟首を摘んだのは竹中殿だ。
決して強い力ではないはずなのに、力の反動を利用してくるりと向きを変えられる。
唖然とした表情の彼を、竹中殿は遠慮なく皮肉をこめた笑みを浮かべて見つめる。
「 石田くん、君はあくまで代理だと言っているじゃないか。全く無関係じゃないんだ。
男なら潔く従兄殿の代理を務め、さんの『 幸せ 』に貢献したまえ 」
「 貴様・・・ッ! 」
「 いい加減にしろ、お前らが争っている場合か! 」
「 かすがちゃんの言う通りよ・・・時間を無駄にするつもりなら、市、許さない・・・ 」
市殿の発言が解き放たれるや否や、ぞわりと悪寒が背筋を通り抜ける。
それはその場にいた全員を駆け抜けたらしく、彼女の隣にいたかすが殿も、顔を引き攣らせて
市殿を見つめていた・・・。
はっと我に返った政宗殿が、仕切りなおし、というように咳払いをひとつする。
「 真田のお粗末なデートプランで、愛しいを悲しい目に合わせたくはない。
それがここに集まった満場一致の意見だ。お前らのデートプランは俺らが立てる 」
「 何と・・・ッ!そ、そなたたちの力を借りずとも、某は・・・ 」
「 Shut up!真田、お前に発言権などないんだぜ。全てはのためだ 」
「 ・・・・・・ぐ、ッ!! 」
たとえそれがどんな不条理だったとしても、殿のため、と言われてしまえば言葉も出てこない。
確かにここにいる全員・・・殿のため、と動いてもおかしくない者たちだ。
政宗殿の言う通り、彼らの言う通りに動いた方が・・・いいのだろうか・・・。
「 ( 殿が遠出を楽しみにしているのは、某も知っている ) 」
先日の夕食後、風呂を出た殿とすれ違った時に、幸村くん、あのね・・・と
小さな声で話しかけられたのだ。
『 もうすぐ春休みだね。そしたら・・・2人でいられる時間、また増えるかな 』
同居している某たちは、普通の恋人たちより長く共に居られるのは解っている。
けれど・・・今は、どれだけ時間があっても足りない気がするのだ。まるで今まですれ違っていた
『 時 』を埋めるかのように。
『 そ、そうでござるな・・・!殿、よ、良ければ、春休みにどこか出かけようか 』
『 ・・・うんっ!! 』
いいの、いいの!?と何度も某に確認して、今度はやったやったと飛び跳ねた。
もっと喜ばせてやりたい。彼女の喜ぶことをしてあげたい。
『 愛 』とか『 恋 』とかより・・・ただ純粋な、その気持ちだけが某を動かす。
愛しい殿の仕草、一挙一動に、某は振り回されてばかりいるのだ。
( でもそれが全然不快ではござらんからこそ・・・某は逆に困っている )
「 ではどこにを連れて行けば悦ぶか、だ。俺は映画館だと思うぜ。
この前もテレビを見ながら、流行の恋愛映画のCMに釘付けだったしな。
それに・・・暗いから、色々と仕掛けやすくていいと思うぜ 」
「 お前の場合だけだろうが!彼女は動物好きだ、故に動物園を推薦するぞ!! 」
「 かすがちゃんに賛成・・・少なくとも、リアル狼の伊達くんの歯牙にかけられることもないと思うの・・・ 」
「 フン、嫌われたな、伊達政宗。そういえば、家康とはよく公園に行ってたらしいぞ 」
「 広い場所か・・・ならば遊園地が、戦略的に良い場所ではないのか? 」
「 毛利、君って割とセオリーな場所を選ぶんだね。これは意外だったな 」
「 ならば竹中、貴様はどうなのだ?我の提案より好い場所があるというのか?? 」
「 そうだね。少し遠出だけれど、スキーでもいいんじゃないかな。まだ雪は残ってる。
この辺りは海の傍だから、山に連れて行ってあげたいな。景色も良いし。
伊達くんじゃないけれど・・・寒いからより密着できるというのも魅力の一つだ 」
「 Great!竹中、てめぇいいセンスしてるじゃねえか!! 」
意気投合して拳を合わせた二人を、毛利殿が睨み、三成殿が溜め息を吐き、
かすが殿が怒鳴って、市殿の黒いオーラが天に昇った。
某はしばらくぽかんと口を開いたまま固まっていたが・・・こ、これはどう考えても
違う方向に話が進んでいる、でござる・・・( な、何故だ!?どうしてこうなった!? )
ま、待ってくだされ!と立ち上がって話を中断させようとしたが、既に踏み込めないほど・・・
場は混乱していた。
「 あ・・・あの、これは・・・某と殿のデートプラン・・・ 」
「 An?誰がてめえの為だっつった!?の為だろうがッ!間違えるな!! 」
「 最もな意見だ。真田くんには悪いけれど、僕は彼女を渡したつもりはないからね 」
「 本音が出たな。竹中、貴様の胸のうちなど、我にはお見通しだ・・・応援はしないがな 」
「 ええい、それで!?真田!!私たちのをどこに連れて行くつもりなんだ!? 」
「 ・・・え、そ、それはこれから殿と相談・・・ 」
「 女に主導権を握らせるとは情けないッ!軟弱者は今すぐ斬滅してやる・・・ッ! 」
「 動物園・・・ちゃんと動物園・・・市、とっても楽しみ・・・ 」
賑やか、なんてものではない。騒音の苦情がいつ来てもおかしくない状況だった。
正直・・・内心、逃げ出したかった。だが( 一応 )皆、殿の『 笑顔 』を見たくて集まったのだと
思うと、渦中の自分がその場を離れることは武士として恥だと思った。
「 ( ・・・早く帰って、殿に逢いとうござる・・・ ) 」
今日は先に帰っていて欲しいと告げた時、少し残念そうな表情をしていたが、ぱっと顔を上げて
殿は優しく微笑んだ。先に帰って、温かいお茶でも入れて待ってるね、と下駄箱で手を振って別れた
彼女の姿を思い出して、少しだけ
肩の力が抜けた。それが表情に出ていたのか、気がつくと全員の視線が痛いほど某へと向けられていた。
「 真田・・・てめえ・・・今、何を考えていやがった? 」
「 ・・・な、何にも・・・ 」
「 嘘を吐くなぁあああ!!! 」
怒声の一斉放火に、さすがの某も肩を竦めて身体を縮ませる。
何千回、何万回とこなしてきたはずの正座なのに、今日ばかりは足が重く感じた。