「 、せん、ぱーいっ! 」
「 あ、利央だ。やっほー!! 」




 遠くからのオレの呼びかけに、腕を振り回す先輩( くっそ、カワイイ☆ )
 周囲に先生がいないのを確認し、上履きのまま中庭を走り抜けた。
 トン、と彼女の隣に立つと、利央ってば犬みたいだ、と笑った。


「 ご主人様が見えたからさーワンワン 」
「 それはそれは、ご苦労様でした 」
「 あ、貸して下さい。オレが持ちます、ご主人様ワンワン 」
「 あはははっ 」


 彼女の手から、重そうな教材を奪う・・・って、実際持ってみたら、マジ重かった。
 先輩はひとしきり笑って、有難う、と頭を下げた。


「 こんな重いの、女の子に持たせるなっつーの 」
「 でしょ!?野球部で鍛えてなかったら、私だって無理だったかも 」


 ふんっ、と鼻を鳴らして、左腕にちっちゃな力コブを作ってみせる。
 ( オレにしてみりゃ、夏服の袖から伸びた、細い腕のほうが気になった )
 ホラホラ!と言わんばかりに差し出された、その腕に。
 触れようとするオレの手が・・・ぷるぷると震えていた・・・( 情けねェ )


「 ほ、ほほほほ、ほんっとッスね。先輩ってば、たっくましーっ 」
「 ふっふーん♪毎日、マネジのお仕事、頑張ってるもんね! 」


 満足げに笑った彼女の笑顔は、照りつける夏の太陽そのもの。
 今のオレには眩しくて・・・手に届かない、存在のような気がして。




 ・・・・・・少し、目を細める。




「 利央? 」
「 おわっ!はっ、ハイ!! 」
「 ・・・聞いてなかったっしょ?アタシの話 」


 嘘を吐いてでも否定すればよかったのに。
 それが出来ないのは・・・やっぱり、主従関係なのかな。
 オレは顔を青くして、恐る恐る、首を左右に振った。
 お・・・おこ、ら、れる・・・っ!!
 ・・・と思ったのに、先輩は長いため息を吐くだけだった( 助かった )


「 利央も、毎日頑張ってるよね、って言ったの 」


 彼女はそう言って、にっこりと笑った。


「 え・・・そう、ッスか!? 」
「 うん、モチロン♪いつも偉いなーと思って、見てるよ 」


 大好きな人に誉められて、オレのテンションがキュピーン☆と、MAX到達!
 先輩が、オレの・・・オレのこと見てくれてる、って言ったーあ!!
 ・・・っと!!ダメだ、そんな有頂天になってたら!
 きっと兄ちゃんにバレたら、両頬をつねられるどころじゃ済まなくなるっ!!


「 い・・・いや、頑張るのは当たり前、ですよ。オレ、和さんみたいになりたいンす 」
「 そうね。河合先輩は『 先輩 』の鏡ね。利央もきっと、なれるよ! 」
「 そう、ですか!?けど・・・先輩、買い被り過ぎっすよ 」


 笑い飛ばしたけれど、内心は踊り出すくらい嬉しくてたまらなかった。






 どうしよ・・・嬉しい、嬉しすぎるんだけど。
 その時、オレはなぜか・・・先輩に逢った時のことを、思い出していた・・・。














『 りおう・・・くん。珍しい名前だねぇ 』


 ふーむ、とペンを苺のように熟れた紅い唇に当てて。
 名簿とにらめっこしている、マネジの先輩。
 肩を後ろから叩かれて。振り返ると、和さんが笑顔で立っていた。


『 面倒見てやってくれな、。オレと同じ、捕手だ 』
『 はい、和さん!お任せ下さいな 』
『 利央、しばらく彼女の傍で、うちのやり方を教わってくれ 』
『 は、はいっ!! 』


 と呼ばれたマネジの先輩は、オレを真っ直ぐ見つめる。
 そして・・・とびっきりの、笑顔で。


『 って呼ばれています。よろしくね、利央くん!! 』


 ビビビ、と全身に電気が走って、頭の天辺のクセ毛まで揺れた。
 頭を下げなきゃいけないのに、彼女の瞳に釘付け。
 桃色に染まった頬も、日焼けした肌も、すごく魅力的だった。
 締め付けた、胸の痛みを抱き締めるように・・・オレはようやく、頭を下げる。


『 よろしく・・・お願いしますっ!! 』














「 和さんから紹介された時・・・あ、いい子が入部してくれたなって思った 」
「 ・・・・・・えっ!? 」


 も、もしかして・・・先輩も、思い出して、た?
 思いがけないシンクロに、持っていた教材を落としそうになった。
 そんな慌てた様子に気づかず、彼女は言葉を続ける。


「 監督も先輩方も・・・利央が野球部の為に、一生懸命頑張ってるの、知ってるよ 」
「 、先輩 」
「 だから利央、これからも一緒に頑張ろうね 」


 彼女は『 あの 』時と同じ笑顔で・・・オレに笑いかける。
 真っ直ぐで、純粋な瞳。ずっとオレを、見守ってくれてた視線の主。








 ああ、そうだ


 オレ・・・あん時から、ずっと、惚れてた
 部員や監督をサポートし、応援し、励ます力強さと
 その反面、マネージャーとしての気遣いと、優しさに・・・
 惹かれて、止まない・・・・・・オレの、真夏の太陽








 初めて逢った瞬間から、恋に堕ちてた








「 あ、着いた。助かっちゃった!ありがとう、利央!! 」


 隣の先輩が声を上げて。見上げると『 資料室 』の看板。
 中まで運ぶ、と言い切る前に、無常にも予鈴が校内に響いた。
 彼女は部屋の入り口に放り込むと、これでよし、と呟く( ・・・よくないんじゃ )


「 ほら!行こう、利央っ!! 」
「 はいっ 」


 先輩が伸ばした手に・・・オレの掌が重なる。
 ・・・やべ・・・汗ばんでたりとか、してないかな。
 とか気にする前に、ぐいーっと引っ張られた・・・っ!!( わおっ )










「 オレ・・・っ、先輩に、どこまでも、ついていきますからっ!! 」










 彼女は声を上げて笑っていたけれど、オレは至って本気だ!
 和さんに紹介されたあの時から、君についていくって決めてたんだ。


 ご主人様に忠誠を誓うのは、当然っしょ?


















 授業中に、ふと、思い返してみたら・・・


 これって逆プロポーズみたいだな、と・・・椅子からひっくり返った、オレだった


















first impression





( きっと、この恋は、必然的だったんだって信じてる!!! )




Title:"good bye my love"
Material:"Santnore"