本日の最高気温は、35℃。
「 お疲れ様でーす!ベンチに麦茶の用意出来てますので、どうぞー!! 」
先輩の叫ぶような声の後に、うーっす・・・と低い返事がグラウンドに響く。
身体についた埃を払い、俺は素早く立ち上がった。ベンチへと走る。
夏のグラウンドは、とても乾いていて、ちょっと走っただけでも埃が上がる。
けほ、と1回むせて、日陰のベンチへと滑り込んだ。
「 はいはーい、一番乗りは利央ね? 」
「 先輩、俺、手伝いますよ 」
「 えっ、いいよ!ほら、座って休みな 」
「 や、俺も麦茶配ります!!・・・迅!お前も手伝え!! 」
「 ・・・えっ!? 」
やい、てめぇも同じ一年だろーが!と迅にヘッドロックをカマすと
わかったわかった!!と、悲鳴じみた声が上がる。
俺は、ちょっとビビった様子の先輩から、麦茶のポットを受け取って
先輩方の群れへと飛び込み、注いで注いで、注いで回る。
「 おーい、俺は野郎に注がれても嬉しくねーぞ( がいいんだってば ) 」
「 慎吾さんに近寄ると、妊娠するって女子が騒いでましたよ( 俺だって! ) 」
「 するか!阿呆が( オメーが噂の張本人だな!? ) 」
「 まあまあ、慎吾、準太・・・お、サンキュ( 喧嘩するほど、ってな ) 」
どぽ、どぽ、と重い音を立てて、和さんのコップに麦茶を注いでいく。
慎吾サンと準サンの言い合いは、放っておいたとして( ざまーみろ! )
俺は、迅も休憩に入っているのを確認して、周囲を今一度見渡した。
ふー・・・これで一通り、注ぎ終わったかな。
「 利央、ありがとうね。ハイ、麦茶 」
「 ありがとうございます! 」
ベンチから少し離れた場所に、ドスンと腰を下ろす。
麦茶の入ったコップを取ろうとして・・・彼女の長い指に触れる。
な・ん・て、お約束なっ!( ま、ワザとなんっすけどね )
先輩は驚いたように、小さく声を上げる。ああ、と俺は先輩を見上げた。
「 あ、すんません 」
「 ・・・い、や、どういたしまし、て? 」
そこで疑問符はおかしいッス・・・と思いながら、喉に麦茶を流し込む。
冷えた麦茶が美味しすぎて、一気に飲んでしまうと、隣からクスクスと
先輩の忍び笑いが聴こえた。
「 今日ね、35℃もあるんだって 」
2杯目の麦茶を注ぎながら、先輩が歌うように話す。
下を向いた時に、睫がすっと影を作るのを見るのが・・・俺は、好き。
「 35℃の中で練習するみんなの周囲は、もっと暑いんだろうな 」
「 そりゃーもう、暑いッスよぉ!! 」
「 だよねー 」
「 和サンは頼れるし優しいけど、呑気すぎる時もあるし 」
「 最高のキャプテンだけどね 」
「 準サンは、時々、ホモなんすか!?って疑うくらい和さんLOVEだし 」
「 それだけ、仲がいいってことなんだよー 」
「 慎吾サンはグラウンドでも、下ネタ連発だし 」
「 セクハラだよ・・・あれは・・・ 」
「 暑苦しいメンバーなのに、更に気温が加わると、一層の熱がァーっ! 」
「 あはははははっ 」
高らかに笑った先輩を、下から、覗き込んだ。
「 ・・・なんなら、その暑さ、体験してみます? 」
先輩の笑い声が、ふと止む。そこには張り付いたままの笑顔があった。
俺は、すかさず彼女の腕を引き寄せる。先輩の口が、あ、の形に開いた。
コロン・・・と、空のコップが地面に落ちる。
胸に掛かった重さは、予想以上に軽かった!そんでもって、柔らかかった!!
こんな小さい身体に、たくさんエネルギーが詰まってんだと思うと、一層愛しい。
みんな( 俺も含む )を元気にさせちゃう『 魅力 』という名のエネルギー。
無邪気な笑顔にいっつも癒されて、また頑張ろうって気になっちゃうんだ。
「 り、お・・・・・・暑、い・・・苦しい・・・・・・ 」
腕の隙間から、ぷはっ!と顔を出して、先輩が呻く。
・・・あ、締め過ぎたかな。くっつけすぎた額に、薄っすら服シワがついていた。
仕方なく腕を解くと、ゆっくりと身体を起こして、乱れた前髪を必死で直す彼女。
「 んもー、利央ったらビックリするじゃない 」
「 ははっ、すんません。んー・・・でも、感じてくれました? 」
「 ・・・・・・何を? 」
きょとんとした様子。あー、これじゃきっと何にも伝わってないなァ。
先輩にとって、俺はオトウト的な存在なんだって、知ってる
俺の頭をくしゃくしゃと撫でる仕草も、優しく見守るような眼差しも
俺は、とてもとても好きだけれど・・・それじゃ、ダメなんだ
もう一歩だけ、踏み込ませてよ
・・・・・・ね、先輩
「 気温35℃ + 俺の、先輩を想う気持ちの温度 」
35℃
( 地球温暖化に協力しちゃうくらい、先輩を想っているってことッすよ )
Material:"24/7"
Title:"Endless4"
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