「 せーのっ!! 」






「「「 いただきまっす!! 」」」






 号令と共に鳴り出した箸の音に、がニッコリ微笑んでいる。
 食べ始めた部員を見て、ほっとしているマネジたち。
 俺は口の中のものをゴクリと飲み込むと、彼女たちに声をかけた。


「 たちも、乗り遅れないように食べてくれよ 」
「 はーい、和さん!ありがとうございます 」


 そう言って、は周囲のマネジたちに、さ、座って食べましょ、と背中を押す。
 テーブルの空き席を探すして、後輩のマネジたちにあてがっていく。
 『 大所帯の野球部だからこそ、一人一人の繋がりが大事にしたい 』
 それが、マネジをまとめる、の信条。
 部員とマネジを上手く混ぜ込んで、少しでも接点を持たせて育てたいらしい。
 3年マネジたちも、そんな彼女を高く評価し、1年マネジを任せっきりだ。
 最後の一人を座らせたたを呼ぼうと、手を挙げかけ、た、その時。


「 お「 せんぱぁーいっ!!コッチコッチ、空いてますよォ 」 」


 隣に座っていた利央が、俺に背を向けて手を振り回す。
 明るい色の髪が、手の振りにあわせてふわふわと揺れた。
 彼女は振り返り、小さく手を振って応える。


「 いいの?利央 」
「 もちろんス!おら、迅!もっと詰めろよ 」
「 わかったよ、ちょ、待て、利央 」


 迅が慌てて、トレイを持って左にずれる。
 利央と俺の間に小さい空間が出来、そこにがちょこん、と座った。


「 お邪魔しまーす、んで、いただきまーす 」


 昼食のカレーライスを、大きく開いた口いっぱいに頬張る。
 豪勢に食べる彼女の姿に、みんな手を止めていたが・・・。
 正面にいた準太が、ついに、ぷっと吹き出した。
 つられてその場にいた全員が、堪え切れずにお腹を抱えて笑い出す。


「 あ、何笑ってるのよ!? 」
「 ぷは、あははっ、お前ってサイコー、く、うくくく・・・ 」
「 ずんたーっ!あんたって奴はーっ!! 」
「 はははっ、だって、お前・・・ 」
「 か・・・和さんまでぇ・・・ 」


 テーブルの上から準太を戒めようとしたの顔が、真っ赤に染まる。


「 ははっ、誤解すんなって。ホラ、あーん 」
「 ふぐっ!! 」


 振り向き様のの口に、準太の隣にいた慎吾がスプーンを突っ込む。
 ガキン、と歯と金属のぶつかる音がして、が慌てて口を動かす。
 笑っていた俺と、準太は、その光景を呆然と見つめていた。






( スプーンが、口から引き抜かれる瞬間。
  つ、と引いた糸が艶めかしくて、俺は顔に熱が集まってくるのを感じた )






「 ・・・うわぁぁぁっ!!何やってんスか、慎吾さん!! 」
「 セクハラですよ、セクハラ! 」
「 なっ、慎吾さんっっ!!・・・っく、止めるな、タケ!! 」


 一番早く悲鳴を上げたのは、利央。続いて迅が青ざめる。
 素早く立ち上がった準太を、タケが必死に羽交い絞めにしている!
 ( 『 仮にも先輩だぞ!暴力はマズいって!! 』とかって叫んでる! )


「 ん、よく出来ました 」


 上機嫌の慎吾が、ニヤリと満足げに微笑った( 確信犯か、コイツ )
 の顔が、驚きから弱々しい表情に変わっていく。あ・・・マズい。
 ふぇ・・・と小さく上がった声には、周囲の怒声も敵わない。


「 ・・・おい、? 」
「 カズ・・・さ・・・ 」


 涙を浮かべ始めたが、そっと俺を見上げる。
 彼女の上目遣いに、どきりと心臓が高鳴る・・・そ、そんな瞳で、俺を見るな!
 どうしていいのかわからず、狼狽した俺に、が抱きついてきたっ!(うおっ)
 その小さな身体を受け止める。細い腕と、俺の肌が触れた。
 それだけで、いつもより鼓動が速まる気が、する・・・。
 駆け巡った熱は、準太の球より、数倍もの威力があるように思えた。


「 あ、ずるいぞ、和己。ちゃーん、こっちおいでー 」
「 嫌です!死んでも慎吾さんの傍には行きません!! 」
「 そうッスよ!!あれだけ意地悪しといて、何言ってんスか!? 」
「 り、利央。慎吾さんは3年生だぞ・・・! 」
「 うるせー、迅!! 」
「 ああもう、お前もうるさいいんだよ!慎吾さんも利央も!! 」
「 準太!仮にも先輩だろって言ったろ!? 」


 ギャアギャアと喚く中、幾本もの手がへと伸ばされる。
 襟やら頭やらを掴まれて、半ベソのは、必死に俺にしがみついていた。






 ああ、まったくどいつもこいつも・・・


 食事中くらい、お前ら静かに出来ないのか!?
 が部員たちから慕われているのは、俺にもわかっているが
 ( 実際、仕事も正確で人一倍こなすし、俺も一目置いている )
 私情が入り過ぎなんじゃねえのか!?もっと冷静になれよ。
 ここは、部長として、一発シめとかないとな・・・!






 ・・・と、思っているのは表面意識だけなのか
 俺は、を抱きしめると( 小さな悲鳴が微かに聞こえた )
 群がるオオカミ共に、声高らかに、宣言する!!












「 お前らに、は渡さないぞ!!! 」












 腕の中で・・・が、驚嘆したような顔をしていたが
 その場で凍った部員たち、監督や他のマネジたちより




 誰より、何より・・・一番、驚いたのは
















 ・・・・・・当の本人、俺自身だった・・・・・・
















知らないふりは





もうできない








( まさか、自分の中にそんな気持ちがあったなんて・・・!! )




Material:"24/7"
Title:"Endless4"