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 庭の木々が、ざわめいている。
 
 
 
 
 
 
 外はあんなに暑いのに、この部屋には心地よい風が入ってくる。
 ( いや、だからココにしたんだけどさ )
 青葉の奏でるハーモニーに、俺はそっと耳を傾けた。
 
 
 「 ・・・・・・・・・あ、れ・・・・・・?準太?? 」
 「 おう、大丈夫か? 」
 「 ・・・あー、そか・・・ア、タシ 」
 
 
 倒れたんだっけ、と呟いて、は天井を仰いだ。
 お天道様が高く、高く昇った午後の練習で。
 グラウンドと宿舎を往復して、麦茶を運んでいる間に、は倒れた。
 コンクリートからの照り返しで、熱中症にかかったらしい。
 気を失った彼女をおぶった俺に、監督が『 次の休憩まで見ててやれ 』と
 俺の背に投げかけた( 他のマネジも、休憩の準備で手一杯だったしな )
 
 
 「 準太、練習は?私なら大丈夫だから・・・ 」
 「 監督がしばらく傍にいろって。次の休憩までだから・・・あと15分かな 」
 
 
 壁時計を見ながら、事の成り行きを彼女に説明する。
 15分なら練習に支障ないから、とか、その後他のマネジと交代する、とか
 先輩マネジが午後練は休めって言ってた、とか。
 ( 言い訳がましいかもしんねーけど、俺は此処にいたいしさ )
 は、ひとつひとつにゆっくりと頷く。揺れる頭に手を置いて
 
 
 「 ま、とにかく今は休めよ 」
 
 
 と、言った。うん、と答えて、ようやく彼女は微笑った( うん、それでいい )
 しんどいのか、はそのまま目を瞑ってしまった。
 俺は( 滅多に見れない )彼女の寝顔をしばらく見つめていたが、
 小さく上がった甲高い音に窓の外を見つめた。
 
 
 
 
 ・・・あ、いい当たり音。タケあたりが、放ったのかな。
 ここにいると、色んな音が聞こえてくるんだな。
 グラウンドの音、風の音、蝉の声・・・ここのところ、気持ちだけが急いて。
 ( 和さんと組める日数が限られているかと思うと、いてもたってもいられない )
 
 
 
 
 夏なのに、その季節感を忘れていた気がする。
 
 
 
 
 「 ・・・気になる?外 」
 
 
 はっとして隣を見れば、がぱっちりと瞳を開けて、俺を見ている。
 自分でも顔が赤くなったのが解った。その様子に、彼女がクスクスと笑う。
 
 
 「 行っても構わないんだよ? 」
 「 や、もう少し、いる 」
 
 
 練習は気になるが、コイツの傍にいたいのも事実。
 彼女は、うちの中心的マネージャーで。和さんが頼りにしている人で。
 慎吾さんと利央と・・・っていうか、結構な数の人に愛されてっけど。
 俺も・・・本気で気を許せる、大切なクラスメイトだ。
 心配して、何が悪い。
 
 
 「 準太の、強情っぱり 」
 「 喋らないでいいから、黙って寝とけって 」
 「 ひゃ・・・! 」
 
 
 の額に手を置いて、無理矢理、目を伏せさせる。
 すると・・・その右手に、熱いモノが触れた。
 
 
 
 
 
 
 ( ・・・え )
 
 
 
 
 
 
 「 さっきも思ったんだ・・・やっぱり、準太の手ぇ、冷たい 」
 
 
 俺の手を、自分から額に押し付けるようにして、が呟く。
 
 
 「 そ、そんなことねーよ、お前の身体が熱いんだって 」
 「 そっか・・・うん、そうかもね。でも気持ち良いよ 」
 
 
 掌の、指の隙間から覗いた瞳が少しだけ潤んでいる。
 この小さな身体に、どれだけの熱がこもって、渦巻いているのか。
 ハァ、と吐いた吐息は熱く・・・そして、甘かった。
 
 
 「 準太・・・ありがと、ね・・・ホント、有難う・・・・・・ 」
 
 
 そう呟くと、彼女の瞼がゆっくりと落ちていく。
 次第に添えられていたの手から、力が抜けていく。
 寝息が聞こえてくる頃には、俺の掌は、すっかり彼女の熱に染まっていた。
 
 
 
 
 
 
 いや・・・掌だけじゃ、ない
 
 
 熱に侵されてきているのは
 俺の、もっと、もっと・・・・・・・・・深い部分
 
 
 
 
 
 
 「 ( う、わ・・・やば、何だ、この ) 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 溢 れ て く る 気 持 ち
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 今が、夏でよかった
 交代のマネージャーが来ても、多少顔が赤いくらい、何とでも誤魔化せるだろ
 そんで、グラウンドに戻る頃には、治まっているだろうから、利央や慎吾さんに
 からかわれることもないだろう、うん、きっと、多分
 
 
 
 
 
 
 ・・・それよりも、この心臓の音が
 額に置いた掌から、彼女に伝わってしまいそうなこと方が、怖かった
 ( たとえが眠っていると、わかっていたとしても )
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 壁にかかった時計を見れば、練習に戻るまであと5分
 
 
 どうか、それまでは
 
 
 
 
 
 
 
 
 目覚めた想いに、忠実にニヤけてんのを・・・誰にも見られませんように
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
蝉吟歌哭
 
 
 
 
 - せ ん ぎ ん か こ く -
 
 
 
 
 
 
 ( 一度気付けば、後はあっという間に堕ちていくだけ )
 
 
 
 
 
 
Material:"24/7"
Title:"Endless4"
 
 
 
 
 
 
 
 
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