「 ・・・・・・ったァ!! 」










 ドスン!という音が、教室に響いた( ・・・床が揺れたかも )
 尻餅ついた私を、クラスのみんなが作業中の手を止めて、ぎょっとした顔で見ている。


「 、大丈夫!? 」


 我に返ったクラスの女の子が駆け寄ってくる。
 私もはっとして、スカートの乱れを整えてから、ヒリヒリするお尻を押さえる。
 ( 今日に限って、スパッツ履いてて良かった )
 心配そうな表情の彼女に、ヒラヒラと手を振ってみせて、


「 あ、はは・・・落ちちゃった〜 」
「 高いトコロの飾りつけなんか、男子に任せとけばいいのに・・・大丈夫?立てる?? 」
「 うん、だいじょ・・・・・・っ!!! 」


 いつものように立とうとして・・・蹲(うずくま)る。
 ・・・や、やばい。足首、ひねってるのかも。
 お尻の痛みなんか気にならないくらいの激痛を、右足首に感じる。
 顔色の変わった私に気づいて、クラスメイトも騒ぎ出す。
 心配しないで大丈夫、とみんなに言いたいけど、じわりと侵食していく痛みに、声も出ない。






「 おい、どうした?何かあったのか? 」






 教室の入り口のドアが開いて、顔を出したのは隣のクラスの明彦だった。
 ( 手に数枚のプリントを持っていたから、誰かに渡しに来たのかもしれない )
 彼はまず、クラスメイト全員の顔を見回して、みんなの視線の集中している私へと視線を移動させる。
 パチンと交錯した瞬間・・・気が緩んで、泣きそうになる。
 ぐずり出した私を見て、今度は明彦の顔色が変わった。


「 、どうしたんだっ!? 」
「 あ、あきひっ、こ・・・う、ひっく・・・ 」
「 な・・・泣くなよ! 」
「 真田くん、ね、文化祭の飾りつけ途中に椅子から落ちて、足首、ひねったみたいなの 」


 涙の止まらない私の代わりに、クラスメイトが事情を説明する。
 オロオロしていた明彦は、そ、そうか・・・と呟いて。
 持っていたプリントを足元に置いて、蹲る私の背にそっと手を添えた。


「 、泣くな。俺が保健室まで連れて行ってやるから 」
「 ・・・え・・・・・・きゃあッ!! 」


 背中の手はそのまま、もう片方の手を私の両足に滑り込ませて。
 明彦は、私を抱えて軽々と立ち上がり、入ってきた扉へと向かう。
 涙もしゃっくりも、みんな止まって。
 私も、クラスのみんなも・・・ぽかん、と口を開けたままだ。
 そんな様子を気にすることもなく、彼は保健室へと続く廊下を颯爽と歩いていった。


「 ちょ・・・あ、明彦っ、下ろして下ろして! 」
「 どうしてだ?お前は歩いて保健室に行けないだろう? 」
「 で、でも、これじゃ・・・ 」




 恥ずかしいよ・・・。
 だって、すれ違うみんなの視線が、私と明彦に集まってる。
 クラスメイトたちは、経過を知っているけれど、知らない人は私たちのこと・・・どう、思う?
 明彦のこと、あ、憧れている女の子たちに・・・怨まれちゃう、よ。




 真っ赤になって俯く私に、頭上からふ、と口元の緩む音がした。




「 お前がそんなことを気にする必要は、ないだろう 」
「 ど・・・して? 」
「 どう思われようと、俺もお前も、悪いことをしていない 」
「 ・・・それは、そう、だけど 」
「 が怨まれるようなことがあれば・・・俺が、護る 」


 強い意志の力を感じて、顔を上げた私の前に。
 いつものように唇の端を持ち上げて・・・でも、すごく優しい、明彦の微笑みがあった。






「 ・・・そんなこと言われたら、女の子はみんな、期待、しちゃうよ? 」






 この場の緊張を逃れるための、苦し紛れの一言だったのに


 それは、それは・・・びっくりするような答えが、降ってきた






















「 フ・・・期待していいぞ。なら、な 」


























( 気がついたら足の痛みなんか全然気にならなくて、保健室までの距離がやけに長く感じられた )






Title:"確かに恋だった"
Material:"NOION"