出来上がった道?
そなたに合わなければ気付けなかったやも知れぬ





44444打記念


俺の「人生」、君との「出会い」






物心ついた頃から俺の近くには佐助がいた。

…そして、お館様も…。

某の人生は、お館様が目指すご上洛の大願を成就させることに費やすと誓っていた。
ただそれだけが某の望みであり…命を賭す理由であると、思っていたのに…

それなのに…君と出会ってしまった。


『何をなさっているのですか!!』

『…おぉ、これは…』
『お、お館様こちらの女子は…っ!?』


それはまだ某がまだまだ純粋に、お館様のご上洛を夢見ていた頃
お館様がご上洛召されれば、世は太平に帰すると純粋に信じていた頃

その頃はただただ戦に明け暮れ、目の前の敵を切り払い…
戦場を血に染め上げる日々を過ごしていた。


戦う意味を知らずに。


命の重さも知らずに。


ただただ槍を振りまわして、生き急いでいたあの頃。
けれど…出会ってしまったのだ、そなたに…殿に…


『おぉ…幸村にはまだ紹介しておらなんだな…、挨拶は如何した?』

『…っ!もぅ、父上こんな時に…っ!!』

、挨拶をしなさい』


お館様が呼び捨てる女子…
女子も動じぬ様子でお館様に言い返す。

そんな女子に驚き…ただただ目を丸くして俺は見ているだけしか出来なかったのだが…

”と呼ばれた女子は俺の目を見て言ってくれたな。


『…お初にお目に掛かります。武田信玄の末娘、にございます』


…頬を染めて俺を真っ直ぐに見てくれたお館様の末の姫。
何が特に優れていた、とか愛らしかったというのではないが…

ただただ、美しいと思えた。

その、純粋無垢な瞳が…

その、存在が…

全てが。


『そ、某は…真田幸村と申す…』

『幸村さん?』

『左様。』


俺と殿の視線が絡み合う…

その濡れた瞳に俺が映る。
俺の瞳にも殿が映っているだろうか?

それよりももっと、もっともっと…
俺は殿の瞳に映りたい。

そう、思った


『っ…もう!!貴方は何を呆けているのですか!!』

『…え、えぇ!?』


俺は今戦場から帰ってきたばかり。
無論、全身埃だらけ…大小の切り傷擦り傷…

このような格好で女子の前に出るものではなかった!!

俺は慌ててお館様の末姫の前から去ろうとすると…掴まれた。
…えぇ!?ちょ、だ、誰か某を助けて下され!


『怪我の治療もせずに、何処に行かれるというのですか!』

『このようなむさ苦しい姿を女人の前に晒すことは出来ませぬ!!』

『何をおっしゃるのですか!そんな些細な事よりも治療が先です!』

『…そ、そう言う訳にも…』


困惑した。

己のこの浅ましい姿を見られる事に…

逃げ出したかった。

彼女の…清廉なその美しい姿の前から…

理由もなく人を殺した後の己の姿を…見られたくはなかった。







「だーんな!」

「!?」


ザッ!!

敵を薙ぎ払う手裏剣の音で我に帰る。
気付けば土埃と血生臭い臭いが鼻をつく…


「ちょっとぉ!呆けるなら帰ってからにしてよ!」

「あぁ…分かっている、ッ!」


背後に気配を感じて、振り向きざまに槍を振るう。

ガ…っきぃぃいン!!


敵の獲物を粉砕し、己の槍を敵の喉元に突き付ける。
俺の槍を突き付けられた男は尻餅をついたままジリジリと後退した…


「た…助けてくれ…」

「貴様…このような命を掛ける場で命乞いとは愚かな…」


敵が後ずさった分だけ距離を詰める。
血の臭いを多く含んだ風が俺の鉢巻きを揺らしていく


「た、頼む…俺は此処で死ぬ訳にはいかないんだ…!!」

「ならば何故此処に来た?」

「そ、それは領主様に言われて…逆らえなかったんだ!」

「ならば如何して俺に刃を向けた?」

「ぶ…武功を立てれば、俺も武将の末席に…」

「下らぬ」


握った槍を振りぬけば、血の臭気が強くなった。
その鼻をつく臭いに眉を顰めて、槍を振り血糊を飛ばす…


命が惜しいなら何故、戦場に来た?
命が惜しいと言いながら、何故俺に向かってきた?

何故、たかが一介の兵卒が一人で俺に向かってきたのか理解に苦しむ。


「解せぬ」

「旦那!何やってんの、敵さんいっぱい来てんでしょうが!!」

「分かっておるわ…佐助」


俺は屍となった愚かな男に背を向けると、徒党を組んで向かってくる輩を見た。
所詮、名もなき武将が俺に勝てる訳などないのに、と鼻で笑いながら…

俺はぎりり…と槍を握るとそちらへと体を向けた。


「行くぞ、佐助…!」

「…承知!」







『幸村さん?』


柔らかな手の感触が俺の肌の上を滑る。

その感触が心地よくて目を閉じていると、少し怒ったような声が聞こえた


『どうされた?殿…』

『またこんなに怪我をして…戦場は危険な場所であると私だって分かります!
でも…あまり無茶で危険な事はしないでくださいね…?』


この綺麗な世界しか知らぬ娘は、いきなり何を言い出すのかと思ったが…

何も言えなくなった


『…嫌なんです。』

『嫌?何がでござるか…時折、殿は不思議な事をおっしゃる』


俺の体に付いた傷に薬を塗り込みながら殿は静かに…

静かに涙を零していた。


『戦で誰かが命を散らすのだと思い知ることが…』

『…けれど、それが戦でござるよ?』

『分かっています。…けど、人が人の命を奪う戦が私は怖いんです』

『そんな他愛のないことを申されるな…』


戦が怖いと泣く、お館様の末の姫。

その穢れなき優しい心に思わず口が緩む


『しかし、誰かが世を平定しなければこの戦国の世は終わらぬよ』

『はい…』


薬を塗り込んでいる手が止まった。


『…殿?』

『っく…ぅ。頭では分かっているんです』


分かっていると言いながら、泣き続けている目の前の女子。

…俺はこういう時に如何すれば良いのか分からない…

だから、だから俺は…困惑のせいか、小さく震える己の手を殿の頭に添えた。
あまり力を入れぬよう、気をつけながらそっと頭を撫でる…ゆっくりと、そっと…


ずっと槍を握ってきた手は皮が厚くなり、もう些細な感触は分からない。


けれども温かさなら分かる。


だから俺は…その温かな頭をそっと、優しく…何度も撫でた。


『幸村さん…』

『あ、殿!?』


殿は俺の胸へと、頭を寄せた。

細い絹糸のような髪が肌を滑ってくすぐったい…
殿の纏う香りがふわりと香って鼻孔をくすぐる。

ドキリとした半面、それに酷く戸惑った…

白い項と、細い背が視界に入り、それに触ってみたい衝動に駆られる。

…俺はこの小さく細い体に触れてみても良いのだろうか?

俺に体を預けてきたという事はそういうことだろうか?
今は戦場から帰ってきたばかり…しかも湯浴みをして怪我の治療中で…

不謹慎だと思いつつも、そういう事なのだろうかと思って、
俺は殿に触れようと静かに手を伸ばした。


『…ょ…った』

『え…?』

『良かった…幸村さんが帰ってきてくれて』

殿?』

『戦はたくさんの人が死んでしまうから嫌い!』

『しかし、それが戦でござるよ』


触れようと思った手が止まる。


『死んでしまう人の気持ち…残された人の気持ち…
行き場のない感情は如何したら良いんですか?』


涙に濡れた瞳が俺を見上げたから。
俺は何と返せばいいか分からなくて…
じっと殿を見返した。

こういう時に返すべき言葉なら分かる


『それは残し、残された者にしか分からぬ。けれど心配は不要でござるよ…
決して殿を残して死なぬと某はそなたに…殿に誓おう。』

『幸村さん…』

殿…』

『ありがとうございます!!』

『わ…!?』


俺の言葉を聞くや否や再び俺の胸に顔を埋めた…
というか、今俺は怪我の治療のため上半身の着物を纏っていない状態なのだが

…しかも場所は俺に宛がわれた私室で。

これは殿は俺を誘っているという事で良いのだろうか?

ドクドクと心臓が激しく鳴って全身が脈打つ。

俺は再び殿の体に触れようと手を伸ばした…


『父をよろしくお願いします』

『…え?今、何と…』

『父上をくれぐれもよろしくお願いします!
…もう良いお年なのに、無理をなさるので心配なのです』


いや、お館様なら殺してもそう簡単には死なぬだろう。


と、一瞬 頭を過ったが口を噤んだ。
この場でその事を言ったら嫌われるような気がした故に…

だから俺は…


殿は…某の事は心配してはくれぬのか?』


シュンとした顔をしてみれば、殿はバッと顔を上げた。
その瞳にはもう涙に濡れてはいないようだった…

しかし、次の言葉を誰が予想していただろうか?


『そ、そんなことないです!!私には大事な人です!!
幸村さん  佐助さんも…勘助おじさんも!』

『…も?』


思わぬ言葉が胸に刺さった。

此処まで深手を負わされたのは初めてかもしれぬ…

というか、気付かぬうちに此処まで殿への気持ちが育っていた事に気付く。


『…また、近いうちに戦に行かれるのですか?』

『左様、これも皆が平和に暮らせる世を作るためでござる』

『みんな…生きて帰って来てくださいね?』

『承知している…誰も心優しきそなたを悲しませようとは思っていない…』

『…ありがとうございます』


俺がそっと抱き寄せれば、殿は俺の肩に顔を埋めた…
温かい水滴が次々と俺の胸を滑って濡らしていった。







「どうしちゃったの旦那?」

「何がだ、佐助…」


今日も今日とて俺達は戦場にいる。

血生臭い風には慣れたつもりにはなっていたが…
慣れたつもりになっていただけなのかも知れぬ。

流れてくる悪臭に顔を歪めていると、佐助が話しかけてきた。


「なーんか、いつにも増して必死に戦っているように見えるんだけど?」

「当然だ。俺には生きて帰ると約束した者がいる」

「ふーん?」

「佐助」

「ほいな!」

「貴様も死ぬなよ…」

「え?」

「死んだら減給だ!!」


俺は向かってくる敵を迎え撃つように駆ける。


「ちょ…旦那!?死んじゃったらお金使えないんですけど!?」


後ろから佐助の悲鳴に似た声が聞こえたが、構わぬ。

戦うことしか出来ぬ己が、殿に出来ることはただ一つ


“生きて帰る事”


生きて帰れば、殿の笑顔が見られる。

声を聞いて、触れ、互いを慈しみ愛を育む事も出来よう…
だから、そのためには…まず生きて帰らねばなるまい。

安堵したその顔を俺は見たい。


ん?


この戦にキリがついたら、お館様に殿を俺に頂けぬかと聞いてみようか?



くくく…


女に奥手だと思い込んでいるお館様の驚く顔が目に浮かぶわ。

しかし、俺を初心だと思っているお館様の事。
多少は渋っても、ようやく俺も女に関心を持つようになったと、
きっと殿を俺に下さるであろう…


ふ…知将と謳われるこの俺から逃げられると思うなよ…


見定めた獲物…この幸村、決して逃がしはせぬ。


好いた女子ならば…尚更、な。



俺は自慢の二槍を敵目掛けて繰り出した。





























+あとがき+

キリ番44444を踏まれた 灯 様へ。

日向の脳内使用曲はRA/DW/IM/PSの『人/生 出/会い』でした。
この曲は真っ直ぐな幸村が段々と大人になっていくのを歌っているようで好きなんですねぇ…

白から黒へメタモルフォーゼ!?

まぁ世間様には、ばさら×らっど=ばさらっど等という俗語もありますからw
気が向かれたら笑顔動画でばさらっどを探してみてくだされねノシ

久々の幸村は難しかったですが…ちゃんと幸村になっているでしょうか?
あまりにも黒過ぎたので途中でストップを掛けたのは内緒ですv





100701 日向 咲透




何がいい?と聞かれて、即答で「 黒村で 」と答えた灯です。
んんーっ!リクエストしてよかった!黒いよ!くくく、って笑っちゃってるよ、うふふ・・・←
もっとエロくてもいいのに・・・いえ、どうもありがとうございました。