「おい、!?」


Shit!!
声を掛けても起きねェ…
揺すっても起きねェ。

ったく、この女は暢気なもんだな…





50000打記念


*禁止されし拾八という数字*







「Hey Girl!いい加減に起きやがれ!!」

「んー…もう食べらんにゃぃ…」


むにゃむにゃと幸せそうに口を動かす女…。
一体何なんだこいつは!!
俺が必死になって政務を片付けてたっつーのに。

あろうことかコイツは、暢気に濡れ縁で昼寝なんざしやがって…!!

夏の厳しい日差しが、漸く緩んできた今日この頃
日陰では心地よい風が吹き抜けていく…そんな季節

は特等席とも呼べる濡れ縁で、大の字になって寝ている。


…大の字かよ


年頃の女が廊下で大の字…
色気も何もあったモンじゃねェ。

つーかコイツ…危機感ってものは、ねーのか?

この城は男所帯なんだぜ?
誰かに襲われたらとか考えたりしねーのかよ。


「Wake up!」


…反応無し。
はぁ。どうしろってんだ…

途方に暮れる

起こしても起きねェ。
だからといって部屋に運んでやる気にもならねェ

俺はじっと大の字で寝ているを見る。

大の字で寝てるせいで通れない濡れ縁…
張本人は気にする素振りも、様子もない。

もにゃもにゃと口を動かし、今にも涎が垂れそうな女。


「よっこいしょ」


その締まりのない顔に呆れつつも、俺はの傍に腰を下ろす…


「テメーはマジで暢気だよなぁ」


ぶに。

鼻を摘んでみる…
苦しくて起きるかと思いきや


「ふが!」


…鼻呼吸から口呼吸になりやがった。
なんつーしぶとさだ…Crazyな女だぜ…
手を離してやると、鼻が赤くなってやがる。

はー…


「Silly face」(間抜け面)


平素起きてる時にからかってやれば、顔を真っ赤にして殴りかかってくるくせに。
寝ている時はこんなにも大人しい…自由奔放で暢気で…この世界には不釣合いな女…

つん。

頬を突いてみる。
丸い滑らかな肌に己の指が沈むのがおもしれぇ…

ふに。

ふにふに。

ふにふにふに。


「んむー」

?起きたのか?」

「むぅ〜…」

「…寝てんのか?」

「むー…」

「Shit!」


ふにふにふにふにふに。

ふにふにふに。

ふにふに。

ぶに。


「ほげぇぇえええええ!?」

「Ha!?」

突然飛び起きた女。
つーか、飛び起きると予想していなかった俺は慌てる

…何故ならば…

がっ!!

飛び起きたと、の顔を覗き込むようにしていた俺。
だから俺との顔面と顔面が接触しやがって、派手な音が響いた…


「いだい!!」

「〜…ッ!!」


今まで静かに寝ていたかと思ったら、今度はゴロゴロ転がる。
俺も奴の想像以上の石頭に、ぶつかった額を押さえ痛みに悶える。

俺も転がって、痛みをやり過ごしたいが…
の転がる姿があまりにも滑稽で…思わず笑う。


「ぶッ!『ほげぇぇええええ…』ってなんだよ」

「うっうるさーい!!政宗さんが起こすのが悪いんでしょっ!!」

「…Ah?なんだと?テメー自分で寝てた場所分かってんのか?」







「そ、そんな怖い顔したって怖くなんかないんだからね!!」


とか言いつつ、私はさり気なく周りを見回してみる。
私が寝てた場所…日陰で、風が気持ちよくて…って


「ま、政宗さんの…部屋の、前?」

「Yes,しかも俺の執務室の前…You see?」

「い、いえす…あの。」


私が上目遣いでちらりと政宗さんを見る。
政宗さんは小十郎さん並に、眉間にしわを寄せている…

ぬ。

政宗さんは私の方に腕を伸ばす
お、怒られる!?
ぶたれる!?

ぎゅ!

反射的に目を瞑る。
わわわ!怒る?怒られる!?
痛いのは嫌だけど、迷惑をかけた自覚があるから…
一回だけ!一回だけなら痛くしても良いよ政宗さん!!

とか思ってると、撫でてくれるシチュエーションが乙ゲーの鉄則!

ちょっと期待しつつ、私は胸を高鳴らせる。

どきどき、どきどきどき…
キュンキュンと、胸は希望で高鳴る。


「ぶふっ!!」

「Hah…よく伸びる頬だな」

「いひゃい!!」


なんですってぇ!?
普通こういう時って、甘い空気に埋もれるんじゃないの!?
それなのに、それなのに…どうして私は頬を抓られてるの!?

「Hum…何言ってっかわっかんねーなぁ」

「むぎぃぃい!!」


じたばた暴れてみる。
けど、私の頬を掴む政宗さんの指は緩まない…
寧ろ離すものかと強くなっている気がする。

絶対に気のせいなんかじゃない!!

究極に痛ひ!


「ぎぶぎぶぎぶ…!」

「Ah?もうGive upか?」

「そうれしゅ!ぎぶぎぶ〜っ」

「Ha…忍耐力のねェ女だな。」


クールで格好良い顔の政宗さんに、私は鼻で笑われながら
私は頬から指を指を離してもらう…あぁぁあああ!
この痛み…もう絶対、赤くなってるに違いないっ。


「乙女の頬を抓るなんて信じられない!!」

「Ah?何処に乙女がいるって?」

「ぐ…!」


ぐぬぬ…なんて心にに刺さる一言をっ!!
ぎりぎりぎりぎり…思わず奥歯を噛み締める。


「…ぇ?」


政宗さん…?
ふ、と曇った顔を見せる、彼。

今だけじゃない、政宗さんは時々酷く寂しい顔をする。
そう、今だってその顔を…している。

遠い目をした彼の眼には何が映っているのか…

私には分からない。

だけど、眼とは違って表情はすごく優しい。

政宗さん…政宗さんの心には誰が住んでいるの?

きっと、きっと…私の知らない人なんだと思うの。
政宗さんの心を捕らえて離さない人…その人は誰?


「政宗さん…?」

「…」

「政宗さんっ!!」

「…んあ?」

「もう!何処見てるんですか!?」

「別に…」

「政宗さんっ!?」


政宗さんはもう呼びかけても私の方は振り向かなかった…。
立ち上がると、私を跨いですたすたと歩いて行ってしまう。


「…政宗さん…」

「政宗様がどうかしたか?」

「ぴぎゃっ!」


びびびびっくりした!!
いまだに座り込んだままの私…
そこに突然頭上から低い声が聞こえて、私は飛び上がった!


「こここ小十郎さん!」

「…なんだその驚き方は…」

「小十郎さんが突然声を掛けてきたからですっ!!」

「お前の鍛錬が足りねェだけだろーが」

「知りませんっ!私は正真正銘の現代っ子なんですから!!」

「…そうだったか」

「そうですっ!!…って、あ!」

「…何だ?」


私がぱっと顔を上げて小十郎さんを見上げる。
私の視線に気付いたのか、怪訝な視線を寄越される…

小十郎さんは知っているだろうか?
政宗さんが遠い眼をする理由を…


「あの。小十郎さんは政宗さんが寂しい顔をする理由…知ってますか?」

「…」

「小十郎さん?」

「政宗様が何か言ったのか?」

「え?ううん…何も。」

「それなら余計俺はお前に言えねえな」

「何で!?どうして!?」

「…はぁ。」

「ちょ…!!何でそこで溜息吐くんですか!」

「テメェなぁ…政宗様が言わねえことを俺が喋る訳ねえだろ」


渋い顔をして小十郎さんは眉間を揉む。
た、確かにそうかもだけど…

「う。」

「誰にでも知られたくねぇ事はあるもんだ…詮索なんざするんじゃねェ」

「…むぅ、だって…!」

?返事はどうした」

「はぁ〜い」

「フン。良いか、くれぐれも詮索なんざしようとは思うなよ?」

「はーぃ」


私の納得の行かない返事を聞くと、小十郎さんは
私の頭をひと撫でして…私を置いて歩いて行ってしまった。


「…なんなのよ、もう。」


ぶぅ。とむくれてみる。
でも、そんな私に構ってくれる人は居ない…

暫く頬を膨らましていたけれど、痛くなった。
私は頬に溜め込んだ空気を抜く…


「ちぇ、みんな秘密主義過ぎるよ」


呟いても、誰も私の言葉には返してくれなかった…





*  *  *





「まっさむねさーん?」


私は仕事の休憩にと、お盆にお茶とお菓子を載せて政宗さんの執務室を覗いた。

…あれれ?
いなーい??どっか行っちゃった?

私は政宗さんの執務室を見渡した…。
おかしいな、小十郎さんは此処に居るって教えてくれたのに。

…まさか逃げた!?

城下に行くなら、私も連れて行って欲しかった!!
くわっ!と眼を見開くと、中庭に面した障子戸が開いているのに気づいた。

開けっ放しにしたら、吹き込んできた風で紙が飛んじゃうよ…!

私は障子戸を閉じる為に、慌てて主人の居ない部屋に駆け込んだ。


そして、気づいた…


「まさむねさん…?」


柱に寄りかかって、左目を閉じている。
寝てる…んだろうか?
でも頭を柱に寄りかからせるって、痛くないのかなぁ?

じー、と顔を覗き込んでみる。

うっわぁ!超格好良い!!
…右目に付けられた眼帯の下には目がないという。
私はそれを見たことはないけれど…惜しいなぁって思う。

眼帯がなければもっとカッコいいと思うんだけどな…

私はじっと見つめる。
そして政宗さんの眼帯がない顔を想像する…


「…鼻血出そう」


でも、頭に柱って痛くないのかなぁ?
私は起こさないように…政宗さんの身体を傾ける。
傾けて…自分の膝にそっと頭を載せてみる…

わわ!政宗さんの髪って柔らかい!

ふわふわと鳶色の髪を弄ぶ…
撫でて、指先に絡めて…遊ぶ。


むにゃ…


政宗さんの口が動いたような気がした。


「寝言?」


私は身体を屈めて、耳を澄ます…政宗さんの寝言が聞きたくて。
おかしな寝言だったら、後でからかってやろうと思ったのも事実で…

でも、出来なかった。

だって…


「…っ」

「え?」

、…っ」


それ、人の名前じゃない。
私が知らない人の名前…それは誰?

私の知らない名前
私が知らない名前

今にも泣き出しそうな…声。

私が知らない政宗さんの顔
私に見せない政宗さんの顔

どうしてそんな顔をするの?
どうして何も教えてくれないの?


「酷い人…」


ふに。

私は政宗さんの頬を人差し指で突く。
勿論、起こさない力加減で…優しく。


「でも、今だけは私が政宗さんの近くに居るって自惚れてもいい?
…私はいつか元の世界に戻りたいと思っているけど…
でも、だけど…戻るまでは私が一番近くに居ると思ってもいい?」

「ん…」


膝の上で政宗さんは寝返りを打つ。
それが私の言葉を肯定してくれるようで…安堵する…


「ふふ、ありがと。政宗さん」


ふぁ…。

なんだか私も眠くなってきちゃった…な。
眼をゴシゴシと擦ってみても、瞼は重くなるばかりで…
瞼どころか、腕も重くなって、上がらなくなって。


私は眠気に抗えず、膝に政宗さんを載せたまま眼を閉じた





*  *  *





もに。

指が私に触れる…
強くもなく、弱くもなく。

気持ち良い力加減で

私に触れる。
その力加減に安堵して…
私の眠りは更なる深みへと誘われそうになるの。


もにもに。


「…ん、や。」


いや、そんな優しい指で私に触れないで。
貴方の事…好きになりそうだから…


ふに、ふにふに…ふにふに。


「や…やめ…」


重い瞼に、力が入らない腕…
私に触れる人の指を振り払いたいのに…出来ない。

ふわふわ、ふわふわ…ふわふわ、ふわ。

ふにふに…


や、触らないで…勝手に私に触らないで…!!


やめ…やめてってば!!

もう、止めて!!


「破廉恥でおじゃるぅぅううううう!!私がコッテコテにしてやんよ!」


ガバリと私は起き上がる。



…起き上がる?



確か私は政宗さんの膝枕をしていたはず…
…それなのに、私は起き上がる??


「え…え、えぇと…」


汗が流れる…ダラダラと、次から次へと。
私から生まれた雫は、重力に逆らわずに額から顎先へと落ちてゆく…


「えと、ごめんなさい?」

「Hey Girl よく寝られたか?」

「…ぅあいっ」

「ったく、テメーを膝枕なんかしちまったせいで足が痺れるじゃねぇか…」

「う…」


気まずい、非常に。
何故だ…私が最初膝枕してたはずなのに…!!


「ぶっ!」

「ま、政宗さん!?」

「ぶぶ…お前は一体どんな夢見てたんだよ?」


心底おかしそうに笑う政宗さん。
私は飛び起きたせいで散ってしまった夢の欠片が思い出せなくて口篭る…


「う。」

「…しかも『破廉恥でおじゃる』って、何処の優男と公家MIXしてんだよ?」

「ううう…」


変な反論は命取り。
分かってるからこそ、言えない…


「それにしても、はおもしれーよな」

「へ?」


何のことを言われてるか分からなくて、私は政宗さんを見る。
政宗さんは、笑いを堪えるように…お腹を抱えて顔を歪める…


「Ha お前自覚ねーのか?」

「な、何がですか…?」

「お前さ、起きねーんだよ…寝てる時に何があろうと」

「…ほへ?」

「正に、殴られようと蹴られようと擽られようとな…」

「ひっど!うら若き女子にそんな仕打ちを!?」

「…例え話だろ?」

「ぬー…信じらんない!」


「まぁ人の話は最後まで聞けって」

「…うん」


何か納得がいかないけれど、私は政宗さんの言葉に耳を傾けた。


「でもな、お前って…頬を拾八回つつくと起きるんだよ。面白れーだろ?
前回も拾八回つついたらお前は飛び起きたんだぜ?爆笑もんだろ?」

「……は?」

「しかも、変な雄叫び上げて飛び起きるから最高におもしれーの!」


ガーン…
知らなかった。

私の妄想が垂れ流しになって、る?

ショックで私はガクリと膝から折れた。


?」

「…あい?」

「ったくしゃーねぇな、お前は…」


ふわりと政宗さんの手が私の頭を掠めていく…


「ま、政宗さん?」

「今後、変なとこで昼寝なんかすんじゃねーよ?」

「…あ、うん…」


呆れたような、馬鹿にされたような笑顔を向けられる…
でも、その政宗さんの顔は曇っていなかったから。

だからちょっと嬉しくなった。



…って私、Mっぽくない!?



「ま、いっか!!」

「Ah?何がだ…」

「良いの、良いの!何でもないの!」

「変な女…」


何とでもおっしゃい!

私はいつか元の世界に還る。
だけど、それまでに少しでも政宗さんの抱える影を払拭できたら良いと思う…


「ね、政宗さん!」

「ん?」

「お腹すいちゃった!お団子食べに行こうよ!!」

「Hum…団子か、悪くねーな」

「でしょ!?」

「よっしゃ、小十郎に内緒で行くか?」

「うんっ!」


政宗さんは私に手を伸ばす。

だから私も躊躇いなくその手を掴む。


腹が減っては戦は出来ぬ、ってね!


政宗さんの抱える闇は私が照らす!!






























+あとがき+

キリ番50000を踏まれた、灯 様へ。

はい、キリリクを受け付けてから随分とお待たせしてしまいました…
お待たせ致しましたが、リクを受け付けたこと、忘れることなどございませんよ!

たとえ貴女に忘れられようとも←

いつもお世話になっております♪
これからも宜しくです。





100924 日向 咲透





じ、実はリクをお願いしたのは幸村だと思っていて「 え、筆頭じゃなかったの!? 」という話に なりましたw
ごめんよおおお、筆頭の存在を忘れていたワケじゃなかったんだよおおお!( 言い訳 )
某の中でゆっきーの存在が大きすぎるのが原因←
さとちゃん、いつもありがとうなのは、灯のセリフです!こちらこそよろしく。