私には、お付き合いをはじめて間もない恋人がいます。
その人はいつも元気で真っ直ぐで、見ているだけで心があったかくなるような人です。
でもいつのまにか見ているだけじゃ満足できなくなって、想いの丈をぶつけるように伝えたのがふた月ほど前。
ありきたりな告白の言葉に、こちらが心配になるくらい真っ赤になってOKしてくれたのがその直後。
それからしばらくして、だんだんと一緒にいる時間が増えてきた今日この頃です。
私は溜息を吐いて窓の外を見つめました。
季節は秋も終わりの頃、太陽は駆け足で地平線の下に潜ってしまいます。
いつもは( と言っても最近になってのことですが )
彼の部活動が終わってから待ち合わせて一緒に帰るのですが、
一昨日、
『 最近は暗くなるのが早いうえ、冷え込みも激しいでござる。
殿は先に帰っていてくだされ 』
と言われてしまいました。
彼の気遣いに感謝しつつ昨日は早々に帰宅しましたが、一緒にいる時間が削れてしまって残念でした。
・・・けれど、今日は委員会の仕事で私も居残り。
仕事を早く終わらせて、あわよくば幸村君と一緒に帰れたら・・・なんて思っていましたが、
時計を見ると部活の終了時刻はとっくに過ぎてしまっています。
すっかり気落ちしてしまった私が昇降口についた時です。
「 殿! 」
「 えっ・・・幸村君?! 」
詰め襟姿の幸村君が立っていたのです!
「 部活は?修了時刻からずいぶん経つけど・・・ 」
「 ああ、風魔殿に教えて貰ったのだ。同じクラスだろう? 」
聞けば、隣の席の風魔君が『 今日は委員会で残るらしい 』とわざわざ幸村君に伝えてくれたというのです。
・・・明日、ちゃんとお礼を言っておかないと。
「 ごめんね、寒かったでしょう? 」
「 某は平気でござる。・・・さ、これ以上遅くならないうちに帰りましょうぞ 」
そう言って歩き出した幸村君の後を私は小走りで追いかけます。
追いついても早足で歩かないと並んでいられないので、ちょっと息が上がってしまいます。
幸村君がそれに気付いて、そっとスピードを緩めてくれました。
「 このぶんだと57分のバスに間に合いそうでござる 」
「 うん、それを逃したら10分待ちだよね 」
一緒にいられる時間が増えるからそれでもいいけど、と言うと幸村君は面白いくらいに真っ赤になりました。
なにも喋れなくなってしまって、ちょっと可哀相だったので、とりとめの無い話を振ってあげました。
女友達にするのと大差ない、学校の授業や先生の話なのですが、幸村君としているとなんだか新鮮です。
バス停で最上先生の話をしている時に、大通りの角をバスが曲がってくるのが見えました。
「 じゃあ、そろそろ・・・またね 」
「 ああ、もうそこまで来ているのだな・・・ 」
名残惜しいですが、幸村君は電車通学なので帰る方向が違います。
明日も学校があるので金曜日の夕方ほどではないですが、やっぱり少し寂しいです。
低いエンジン音を響かせてやって来るバスに向き直った時、幸村君に肩を掴まれました。
「 ・・・幸村君? 」
「 そ、その・・・殿 」
「 なあに? 」
「 その、先に帰った方が良いなどと言っておきながら、なのだが 」
掴まれた肩に微熱を残して幸村君の右手が離れました。
「 また明日も・・・その、一緒に帰りたい、でござる 」
さよならではなくまた明日
( それが私の希望なんです )
私は大きくうなずいてバスのステップを駆け上がりました。
窓の向こうで大きく振られる右手に小さく手を振り返すと、バスは速度を上げて次の停留所へ向かいます。
・・・幸村君を待つ間、何をして過ごしましょうか。
明日も幸村君は昇降口で待ってくれているんだと思うと嬉しくて、
バスに揺られながら私はこっそり笑っていました。