「幸村様!これは一体どういうことですか!」
「おはようちゃん」
「あ、おはようございます……じゃなくて!」
部屋にいた佐助の前に抱えた箱を置く。
「これは一体、何なんですか!」
箱…三段重ねの立派なお重の中には、これでもかと詰め込まれた団子。
置いた時に立てた音からも分かるように、かなりの重量がある。
これが起きたら部屋の外に置いてあったのだ。
しかも小指がひっかかるくらいの良い位置に。
おかげでちょっぴり痛かったし、食べ物を足蹴にしてしまった。
だから幸村様にお説教です!と一気に喋ったは息を整える。
「あー、はいはい。事情はなんとなく分かったけど、旦那はあいにく外出中でさ」
「どちらにいらっしゃいますかっ!」
「いや…それは…」
「言わないと今晩の食事当番変わっていただきますよ!」
「えぇっ?!……はぁ。城下に行ったみたいだよ」
「ありがとうございます!」
言うや否や、は部屋を飛び出した。
彼女の足音が聞こえなくなってからため息をつく佐助。
「…旦那、ちょっと回りくどくない?」
幸村の思惑を知らないは、その後も非日常的な出来事に出くわすことになる。
支度をして屋敷を歩いていると同僚に捕まり、今日の仕事はすべて免除になったと伝えられる。
外に出ようとしたら、控えていたらしい小姓に無理矢理馬に乗せられる。
町で通りかかった小間物屋と呉服屋で何故か簪や着物を貰う。
「も、もう…どうなってるの…」
昼下がり、くたくたになったところで茶屋に誘導され、休憩を取る。
向かいに座った小姓は苦笑していた。
「おばさん、お勘定お願いします」
「あら、幸村様から聞いてないのかい?今日はお代は結構だよ」
「…またか……」
城を出た頃には今日はついてるな、と思っていただったが、
小間物屋で店主に声をかけられた時には作為的な何かを感じずにはいられなかった。
やんわりと問いつめると、あっさりと『幸村様の仰せですから』とのこと。
「何企んでるんだろう?」
「さぁねぇ…そう言えば幸村様、ちゃんが来るちょっと前にうちに寄って行かれたねぇ」
「ちょっ、そういうことは早く言って下さいよっ」
「ちゃんがしんどそうだったもんだから…この後は鍛錬に行くって仰ってたけどねぇ」
「…ありがとうおばさん!」
はすっくと立ち上がると、鍛錬場…町の外れのだだっ広い丘に足を向けた。
*********
「ふぅ……見つけた…」
日が傾き黄金色に輝く丘の上に、長い鉢巻をたなびかせた青年の姿がある。
間違いなく幸村だ。
「ゆーきーむーらーさーまぁー!!」
「っ?!殿!」
「今日一日のこれはっ!どういうことですかっ!」
「お、お気に召していただけなかったか…?」
「お気に召すも何も、意味分からないもん!」
ずいずいと迫まるを宥めつつ、幸村は視線をさまよわせた。
「それは…その…」
「ほら、後でまとめて怒りますからちゃっちゃっと説明してください」
「お、怒っ…?!……その、殿」
「はい?」
宙からへと視線を戻す幸村。
「今日が何の日か、ご存知だろうか」
「……さぁ?」
が少し間を置いて首をひねると、幸村はため息こそつかないもののがっくりと肩を落とした。
「そ、そうでござったか…」
「それが何か関係あるんですか?」
「…本当に心当たりはないでござるか」
「ないと思います…けど……」
今日は卯月の二十一日。
城の用事も、皆の用事もないはずだ。
誰かの供養も慶事も…
「……慶事?…あっ!」
はぱちん、と手を叩く。
「私の、誕生日!」
「…そうでござるよ」
幸村はほっとした様子でにっこり微笑んだ。
「…お誕生日、おめでとうございまする。殿がこれからも健やかに、あらせられますように」
*********
「ビックリですよ、まさか幸村さんが『誕生日』を知ってるなんて」
「実は…先日政宗殿にお聞きしたのでござる」
日が落かけた道を、馬で小走りに急ぎながら幸村が言う。
「殿の世界では己が産まれた日を祝い、周りの者は贈り物をすると」
「…それであんなことが」
は一連の出来事をようやく理解した。
「殿は某によく尽くして下さる…もはや、真田にはなくてはならないお方でござる」
「それは買いかぶりですよ…でも、ありがとうございます」
がにっこりと笑うと、幸村の頬がほんのり赤くなる。
彼に抱えられるように乗馬しているにはそれがよく見えた。心の中で苦笑しながら、言葉を続ける。
「贈り物ももちろん嬉しいですけど、私は『おめでとう』の一言で充分ですよ」
「されど…」
「もし、もっと欲張っていいなら…贈り物じゃなくて幸村さんと一緒に過ごしたかったです」
「…えっ」
幸村は驚いたように一瞬を見つめた。
「……た」
「はい?」
「某、殿の前ではいつも粗相をするゆえ…疎ましいのではないかと、思ってござった」
「そんなことないですよ!
確かにいつも、お茶をひっくり返したり硯を飛ばしたりボヤ騒ぎになったりしますけど」
「うぅ…かたじけない…」
「でも、いつも言ってるじゃないですか。私は幸村さんのことが大・大・大好きなんですから」
「……す、すきっ?!」
ポポポンと音が聞こえそうなほど一気に幸村の顔が赤くなる。
一瞬身構えただったが、自分を支える腕の力が変わらないのにほっとして力を抜いた。
「……来年は、そのようにするでござる…」
「ありがとうございます」
「再来年も、その次の年も」
「いいんですか?」
茶化すようにが尋ねると、
「何の。…某も、殿のこと……すっ、好いておるゆえ」
真面目な声で、幸村が返した。
「えっ?!」
「な、なんでもないでござるよ!さ、館まで急がねば…」
そういってそそくさと馬を蹴る幸村の真意は、何年か先の春に告げられることになる。
あとがき(と言う名の補足)
去年も一昨年もお祝いできなかったので、ハッスルした結果が…これです(汗)
やっぱり違和感がぬぐえない戦国幸村でよければ、もらってやってください。
本文だけでは幸村との関係が分からないかもしれないのので…
・主人公のちゃんはBASARA世界にトリップしてきました
・真田軍に拾われて、幸村付きお女中さんをやってます
・ちゃんのストレートな言葉に、敏感に反応して暴走する幸村
→「某が一緒だとゆっくりできないだろうし、贈り物をしよう!」
→けど面と向かって渡すのは恥ずかしいので、とっても回りくどいやり方になりました
…こんなつもりで書いていました。
しかし解説が必要な小説って読み物としてどうなんだろう……orz
あかりん、遅くなったけどお誕生日おめでとう。
これからも素敵なお姉様(って呼んでもいいかな?)でいてください^^