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フラれた、フラれた、フラれ、た・・・・・・・・・!!!
 
 拭っても、後から後から零れてくる涙。
 全速力で走っているから、筋は耳元へと尾を引いていくように出来ていく。
 教団の廊下は、偶然にも無人で。奇跡だと思った。
 
 
 
 
 
 
 ・・・でも、そんな奇跡、いらない
 
 
 奇跡なら、あの告白の最中に起こればよかった
 彼の・・・あんな、辛そうな顔が見たくて、告白したんじゃないのに
 
 
 
 
 
 
 視界に入った” 資料室 ”の文字。
 飛び込む。そして、迷うことなく部屋の奥へと足を運ぶ。
 薄板の扉を思い切り開いて、閉めて。その場所に辿り着いて、ようやく・・・
 
 
 「 ・・・・・・はああぁぁぁ・・・・・・ 」
 
 
 肺の酸素を、全部出しちゃったんじゃないかと思うくらい、長い吐息。
 肩の力が抜けて、走っていた時の倍はある大粒の涙が頬を伝う。
 綺麗に磨かれた床に、醜い自分が映っているのを、指の隙間から見た。
 バカバカ、こんな奥まった場所まで、きっちり掃除することないじゃない。
 見たくないのに・・・・・・こんな、アタシ・・・。
 
 
 ・・・・・・・・・カ、ツン
 
 
 小さな靴音に、身体が反応した。
 床に反射した黒い靴。埃を被って白くなっているのは、磨く余裕もないからで。
 
 
 「 ・・・や、ちゃん♪ 」
 「 コムイ・・・さん 」
 
 
 何て、タイミングの悪さなんだろう。
 アタシときたら、髪もグシャグシャ、涙と鼻水で顔面ベチョベチョ。
 い、いくら親友のお兄さんとはいえ、コムイさんは教団のお偉いサン。
 
 
 「 ハイ 」
 
 
 アタシと目線を合わせるように、立て膝をついて。
 差し出された淡色のハンカチで顔を拭い、恨めしかった床で髪を整える。
 
 
 「 ・・・す、みません 」
 「 あはは、構わないよ・・・もう、大丈夫?? 」
 
 
 ず、ともう一度鼻をすすって、ゆっくり頷く。
 そのまま見上げたら、良かった、とコムイさんが微笑んだ。
 曇りのない笑顔に、胸が締め付けられる。
 ・・・同年代だったら、絶対、意地張って言えないんだろうけれど。
 目の前の” 慈愛 ”に、縋りつきたかった。
 
 
 「 ・・・フラれ・・・ちゃったんです 」
 
 
 コムイさんは、隣に腰を下ろす。
 
 
 「 彼の良い友達を演じていれば、こんなことにはならなかったけれど 」
 「 うん 」
 「 でも我慢できなくて、さっき思い切って告白してきちゃったんです 」
 「 うん 」
 「 ・・・アタシのこと、好きだけど、恋人として見れないって 」
 「 うん 」
 「 そりゃー、子供っぽいし、胸もないし、オンナとしての魅力ゼロですけど 」
 「 うん 」
 「 ・・・コムイさん、何気に酷いです 」
 「 あ・・・ゴメン 」
 「 潔く身を引ければよかったんですけど、無理だったんでした 」
 「 うん 」
 「 だって、もう友達にも戻れないし。好きならいいじゃん、って 」
 「 うん 」
 「 お願いだから、受けれいれて・・・って、無茶苦茶ですよね 」
 「 うん 」
 「 ・・・コムイさん・・・ 」
 「 あ・・・ゴメン 」
 
 
 更に沈んだ私に、コムイさんが申し訳なさそうに謝って。
 でもね、と呟く。
 
 
 「 ちゃんは、幸せだったろう? 」
 「 え? 」
 「 彼を想っている間、君は不幸だったかい?? 」
 「 ・・・いいえ 」
 「 今は深い後悔や、悲しみに満ちているかもしれないけれど 」
 「 ・・・・・・ 」
 「 その想いは光であり、君を支えていたはずだ。どんな時も 」
 
 
 ・・・そうだ。
 
 
 私はこの想いを支えに、修羅場を乗り越えた。何度も命を助けられた。
 ココロの器に入りきらなくなって、自分でも消化できなくて、告白に至ったけれど。
 本当に、好きで好きで、たまらなく好きで・・・思い出して、涙が溢れた。
 
 
 「 ちゃん 」
 
 
 コムイさんの声が、優しく降る。
 涙を拭うことも忘れて、私たちは見つめ合った。
 
 
 「 君は若い。その苦しみも愛情をも、全てを乗り越える力がある 」
 「 ・・・コムイさん 」
 「 ぶつかることを恐れてはならない。大丈夫、君なら出来るよ 」
 「 出来・・・ますか?? 」
 「 もちろん!科学班室長のボクが言うんだから、間っ違いナーイ!! 」
 「 ・・・そこが一番心配なんですけれど 」
 
 
 吹き出すと、泣き声しか聞こえなかった部屋に、二人の賑やかな声が木霊する。
 ・・・ひとしきり、笑って。
 コムイさんの手が、私の頭をそっと撫でた。大きくて、温かかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「 泣きたくなったら、いつでもボクのところへおいで 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 それって、凄い殺し文句ですよね
 
 
 二度目のツッコミを試みたのに、そう上手くはいかないみたい。
 また泣き出したアタシを、コムイさんが抱きしめてくれた。
 震える肩を宥めるように。大好きな彼の手が包み込む。
 
 
 
 
 だから、安心して泣いた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 本日、二度目の奇跡に
 
 
 
 
 私はやっと・・・神様の存在を、感じることが出来たんだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
神はしばらく
 
 
 
 
 
 
 不在です
 
 
 
 
 
 
 
 ( だからボクが隣にいてあげる、ね? )
 
 
 
 
 
 
 
 
Title:"Rachael"
 
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