「 ・・・・・・イ、いい加減起きろ 」






 、と名前を呼ばれて、夢現だった意識が覚醒して・・・瞳を、開けた。
 強い陽の光に、瞼をもう一度閉じて、今度はゆっくりと瞳を開く。
 蒼い装束に身を包んだその御人は、私が起きたのを確認すると、にやりと笑った。


「 Good Mornig,。こんな場所で寝てると、いつ誰に襲われても文句言えねぇぞ 」
「 政宗・・・あれ、私、寝てた?本を読んでたんだけど・・・ 」
「 主人の居ぬ間に転寝たぁ、いい度胸じゃねえか、An? 」
「 じゃあ・・・『 おかえりなさいませ、御主人様! 』 」
「 Shit!その主人じゃねえだろうがッ!! 」


 ケタケタと笑った私を横目に、政宗は舌打ちして部屋へと入っていく。
 縁側にいたせいか、少し立ちくらみがする頭を振って、彼の後を追った。


「 他の国じゃあ、そんな風にお出迎えをする女中さんがいるって教えてくれたのは、政宗じゃない 」
「 そうかもしれねぇが・・・その前にお前は、女中じゃねえ。俺の嫁、だろ・・・Maybe 」
「 政宗、酷い!それ、多分って意味でしょ・・・って、否定できないけど! 」


 喰って掛かるように、身体を政宗に近づけると、思いっきり額を弾かれた。
 いったーいっ!と悲鳴を上げて睨む。そんな私を、彼は油断しているからだとばかりに笑った。
 半月前まで戦に出ていた政宗は・・・ここ数日で、ようやくいつもの『 彼 』に戻った。
 六爪を振りかざし、誰よりも真っ先に戦場を翔るのだと、小十郎から聞いたことがある( 頭が痛い、とも )
 浴びた血を禊ぐのには、少し時間がかかるけれど・・・私は、どんな政宗でも傍にいたいと思う。






 幼馴染として育った、私と政宗。


 その関係は『 奥州筆頭 』と『 正室候補 』。私は、ただの候補である、というだけだ。
 こうして政宗の傍で、幼い頃と同じように過ごせるのは『 候補 』の特権だと思うけれど。


 恋とか愛、というより・・・願うのは、このまま一緒にいられたらいいな、ってコトだけ・・・。










 その『 願い 』は・・・意外な形で、叶うことに、なる・・・。
































 煌々と燃え上がる蝋燭の灯の下で、静かに本を読んでいた。
 私が転寝していた縁側に腰をかけて、政宗は一人晩酌していたが、ふいに振り返る。
 カタン・・・と音がして、政宗付きの女中さんが、床が整ったと告げて去って行った。
 私は本を閉じると、蝋燭の灯を吹き消す。
 辺りは一瞬暗くなったが、次第に夜空の光でも部屋が見渡せるくらい、目が慣れてきた。


「 じゃあ政宗、私は部屋に戻るね。おやすみなさ・・・ 」
「 待て、・・・戻らなくて、いい 」
「 え、っ・・・あ! 」


 抱えていた本が、畳の上に落ちた。
 灯を消した後に移動してきたのか、政宗がすぐ目の前に立っていて・・・私を、抱き締めた。
 突然のことに呆けていると・・・唇に、何かが当たる。
 それが、彼の唇だと気づくまでに時間が要った。


「 んんっ・・・ふ、うッ・・・! 」


 それが『 接吻 』だという行為だということは、私も知っていた。
 ( だけど・・・こんなに苦しくて、激しいものだなんて・・・ )
 角度を変える時に、息継ぎをすればいいのかもしれないけど。
 初めてのことで『 冷静 』の欠片もない私は、タイミングを逃す。
 身体を捩るけれど、男の力に叶うワケもない。苦しさの余り、政宗の胸を叩いた。


「 ふあっ!ハァ、ハァ・・・ま、政宗!?何、何するの、い、きなり・・・っ!! 」
「 いきなり、じゃねぇ。ずっと考えてた・・・戦が終わってから、ずっと 」
「 ・・・・・・ま、 」
「 もういいだろ。充分すぎるくらい、俺は待ったつもりだ 」


 問う隙も与えず、政宗が私のお尻に伸びて、そのまま担ぎ上げる。
 器用に足の指で障子を開けると、さっきの女中さんが整えてくれた一組の布団が見えて・・・。
 さすがの私も・・・彼を信じているとはいえ、この後の『 展開 』に恐怖を覚えた。


「 よ、酔ってる!?お水貰ってくるよっ、私! 」
「 あの程度で酔うか。仮にそうだとしても、酔った勢いでお前を抱くほど、馬鹿じゃねえ 」


 最奥の寝室までは、星の光も届かない。
 けれど、シュルリ・・・と耳を掠めた音は、紛れもなく帯を解く音。
 もう悲鳴も上がらないくらい怖くて、必死に逃げ出そうとする私の腰紐を、彼の手が捕まえた。
 その手が、こんな暗闇の中でも器用に女物の着物を解いていくので、少し、驚く。


「 この前の戦で・・・俺は、一度だけ死にかけた 」
「 えっ 」
「 喉に刃が突き刺さるのが、一瞬で想像できて。初めて『 死 』ってヤツを感じた。
  結果的には、小十郎の掌が止めたけどな・・・情けねえ・・・ 」


 そういえば、今回の戦で一番負傷したのは小十郎さんだった。
 戦から帰ってきたばかりの頃、政宗自ら彼の手当てにあたっていたのは、その負い目もあったのだろう。


「 あの瞬間から、ずっと考えてきた。『 死ぬ前 』に俺がすべきこと。
  それは天下統一と、お前を俺のものにすること・・・この2つだ 」
「 わ、私は・・・正室候補なんだから、滅多なことがない限り、政宗以外のお家には嫁げないよ? 」
「 そうだな。だけど、欲しいのはお前の家柄じゃねし、それは『 確約 』じゃないだろうが 」
「 あ、ッ・・・!! 」


 羽交い絞めにされたまま、政宗の唇が、耳たぶから鎖骨までの首筋を舐め上げる。
 自分でもびっくりするほど、甘い声が上がって・・・顔が真っ赤になるのが、わかった。
 少し、微笑んだのがわかる。いい声だ、すぐに終わるからそのまま啼いてろ、と覆いかぶさった。






 政宗は・・・『 私 』が欲しい、と言う。
 どうして、今更そんなことを確認するの?主である貴方が望めば、手に入らないものはないのに。


 私の身体も、心も、とうに貴方に捧げているというのに。






「 ま・・・っ、政宗!政宗は、その・・・ 」
「 ・・・An? 」
「 私の、こと・・・好き、なの? 」


 恋もなく、愛もなく。ただ『 必然的 』に、傍にいた私たちだけど・・・。
 政宗が、襲おうとする私に意思確認しようとするのには、きっとワケがある。


 私が・・・私のことを『 好き 』だから『 抱く 』の?
 子供の私には、どうしても・・・その『 一言 』が欲しくて( 踏み切れる、勇気が欲しくて )


 行為を止めて、ごつごつした男の手が、壊れ物に触れるように・・・私の頬を撫でた。


「 ・・・好きだ。でも、お前が『 俺 』を意識するまで、待とうと決めていた 」
「 政宗・・・ 」
「 でも『 生 』が当たり前じゃないことを実感して・・・抑えきれなくなった。
  俺が欲しいのは、お前の心と身体・・・『 自身 』だ 」
「 ふぁ、あ・・・っ、ま、さむ・・・ 」


 我慢できず、といった様子で、頬を包んでいた両手を身体へと這わす。
 彼の手が、指が、唇が・・・触れていく度に、心が『 彼 』でいっぱいになる。


「 本当はずっと、抱きたかった。本当はずっと・・・どうしようもないくらい、愛してたんだ・・・! 」




 政宗の・・・私への『 想い 』に初めて触れて、喜びに身体が震えた。




 胸に顔を埋めて吸い付かれると、再び襲った快感に喘ぐ。
 突起を優しく口に含んで舐められると、堪え切れなかった嬌声が、部屋に満ちた。
 自分の着物が全部解かれたのはわかっていたけれど、いつの間にか彼も全てを脱ぎ捨てていたらしい。
 お腹に当たった熱い『 それ 』に、身体を震わせた時だった。


「 だ、ダメ!それ以上、下に・・・ああっ!! 」


 羞恥心より理性が勝って、ようやく自由になった腕で拒もうとしたのに。
 彼の指が、腿の付け根を滑って『 私 』の中に入ってきた。
 侵入してきたのは、たった一本の指なのに・・・意識の全てが、そこに集中する。
 腰を浮かせて、屈めた身体を、政宗の手が後ろにひっくり返らないように支えた。
 私は彼の胸板に、汗で濡れた額を当てて、背中にしがみつく。


「 う、ふぁ・・・っ、ま、さむ・・・ね・・・はぅ、は、ぁン! 」
「 そのまま受け入れろ、。俺が与える刺激も、愛も・・・お前のもの、だ 」
「 んんッ、や、ァっ!ああ、や、だめ、ぇ!ああああァン!! 」


 入れていた指を抜き差ししているうちに、ふと触れた肉壁を引っ掻かれて、あっけなく達する。
 突き立てていた爪の力を抜くと、彼の掌が、そっと床に私を横たわらせた。
 抜くぜ、と小さく呟いて、政宗が指を引き抜くと、身体が無意識に震えて、腿に伝う冷たい感触がした。
 目も開けられない私の瞼に、そっと唇を降らせる。


「 まだ終わらせるつもりはないぜ・・・ 」
「 ・・・政、宗・・・わ、たし・・・ 」
「 気持ちよかったか?でも・・・ここからが、本番だ、you see? 」


 そう言って、丸まった私の身体を開かせると、両足をぐっと自分のほうに引き寄る。
 痺れたままの蜜壷に当たるものが、さっきお腹に当たったモノだと気づいて、鳥肌が立った。


「 ・・・怖いか? 」


 政宗は宥めるように、粟立った肌を擦る。素直に頷いた時、初めて・・・涙が零れた。






 本当は怖い・・・堪らなく、怖い・・・


 ・・・でも、怖いのは政宗自身、じゃない。
 これ以上、刺激を与えられて、自分の理性を失うことへの、怖さ。






 肩を小刻みに震わせて泣く私に、彼は唇を寄せて、微笑んだ。
 もう随分と目が慣れてきて・・・暗闇の中でも、政宗が今、どんなに優しい表情をしているか、わかる。


「 俺も、怖いぜ・・・ずっと見守ってきたお前を、本当に、手に入れてしまうのが 」
「 ・・・政宗、も? 」
「 ああ・・・でも、が欲しい。お前は『 俺自身 』を受け入れてくれるか・・・? 」
「 ・・・・・・うん 」


 Thanks・・・と小さく呟いて、政宗があてがっていたモノを、挿れた。
 反射的に逃れようとする私の腰を引き寄せて、政宗の口からも、呻き声が上がった。
 身体を突き抜ける痛みに悲鳴も出せず、大粒の涙だけが零れていく。
 彼は私の涙を拭う余裕もないのか、上がった息を整えて、そのまま少しずつ腰を打ち付けてきた。


「 あっ!あ、はァ、んっ!ああッ!! 」
「 ・・・・・・・・・っ・・・! 」


 唯でさえ、敏感になっている蕾に、政宗のモノが当たって、意識が弾けそう・・・!
 うわ言のように繰り返す、彼の苦しそうな声を聞いてなかったら、とうに飛ばしていただろう。
 気持ちよすぎるんだよ・・・お前の、ナカは・・・と、政宗が苦笑交じりに言った。
 床を打ち付ける身体の音も、繋がった部分から聞こえる2人分の水音も気にならなくなった、頃・・・。


「 もう、ハァ、俺も・・・限界、OK? 」
「 い、いいッ、いいよォッ!まさっ、むね・・・っ!! 」
「 ・・・は・・・あァ、ッ! 」
「 んあ、っ!ああ、はっ・・・ふああ、ああああァァ・・・!!! 」
「 ク・・・ぅっ・・・!!! 」


 再び訪れた快感に、頭の中が真っ白に染まる。
 跳ね上がった身体を、政宗がぐっと掴む。そして、快感を孕んだ政宗の声を聞いた。
 ほんの何回か律動すると・・・ナカにあった『 彼 』が大きく膨らんで、私を支配した。


 最後に政宗の身体が、私の胸元に倒れてきたけど・・・既に、意識の途絶えた後、だった・・・。






























『 俺は、男だ。泣かないぞ 』




 ・・・ああ、そう言っていたのは、まだ彼が幼名で呼ばれていた頃だ。
 よく遊びに来ていた山頂で、夕陽を見つめたまま動かない梵天丸。
 それは、政宗を可愛がっていた側近の一人が亡くなった日だった。
 親しいヒトを亡くして、一番悲しいのは梵のハズなのに。どうして『 いつものように 』泣かないのだろう。


『 男の子は強くあれ、とアイツは言ってた。だから、俺はその約束を違えぬ 』
『 梵・・・ 』
『 、俺は強くなる。奥州も、お前も・・・全部、この手で護れるくらい 』
『 うん。も、梵を護る!いつも梵といるよ 』
『 そ、そうか・・・じゃあ、お、俺の・・・嫁に、なれッ!! 』
『 いいよ!そしたら、ずっと一緒にいられるもんね 』
『 お・・・おう!!そうだな!! 』


 無邪気な答えは、幼かった2人の未来を照らした。
 そう、私の未来なんか、とうに決まっていた。


 政宗と、ずっと一緒にいる。
 辛い時も、嬉しい時も・・・どんな状況でも、私たちなら乗り越えられるって思えるから。










 これが恋や愛でないというのなら、私はそんなもの知らなくてもいい


 これが恋や愛だというのなら・・・なんて、幸せな『 感情 』なんだろう・・・






























「 ・・・気がついたか? 」


 私が動こうとする前に、まだ夜も明けてねえ、もう少しそのままでいろ・・・と声がかかる。
 裸体の胸に顔を埋めていることが恥ずかしくて、かけられていた着物から顔だけ出すと、落ち着いた。
 ふう・・・と吐息と同時に、気だるさが襲ってきた。


「 ・・・無理、させちまったな・・・Sorry 」
「 謝らないで・・・あのね、私・・・政宗のこと、好きだよ 」
「 ・・・Really? 」
「 うん。その『 感情 』が、今までわからなかっただけ・・・でも、もうわかったの 」
「 ・・・愛してるぜ、。俺の全身全霊を、かけて 」
「 私も、政宗を愛してるよ 」


 照れくさくはあったけれど、ちゃんと言わないと伝わらない時もあるから。
 政宗は、一瞬頬を染めて、Yes!と子供のように嬉しそうに微笑んだ。
 ぎゅっと抱き締められて触れた温度は、恥ずかしかったけれど、とても温かいものだと知った。


 彼の肩に頭を乗せて、撫でてくれる手の心地良さに瞳を閉じると、再び眠気が襲ってきた。








「 Good Night・・・・・・ 」








 繋いだ手が、もう二度と離れないのだとわかると




 とてつもない安心感と幸福感に、身体も心も包まれて・・・渇いたはずの涙が、一粒だけ頬を濡らした









息をするようにしたぼくら



( ずいぶん遠回りしたけれど、お前をもう離しはしないぜ・・・Are you ready? )






Title:"わたしのためののばら"
Material:"ふるるか"



この作品は、リクエストしてくださった『 星屑の海 』の日鞠さまに捧げます