「 アニキ!おかえりなさいやし!! 」
そんな声がどこからか聞こえてきて、繕い物をしていた手が止まる。
隣にいた侍女も、私の手が止まったのを見て・・・苦笑して、様、と声をかけてきた。
「 元親様が帰っていらしたみたいですよ。お出迎えしなくてもいいんですか? 」
「 ・・・いいの。元親が帰ろうが帰ってこなかろうが、私の知ったことじゃないもの・・・ 」
「 随分な言われ様だなぁ、オイ。俺が帰って来るのが、嫌だった・・・っつーワケか? 」
いつから背後に立っていたのか、部屋の襖に大きな影が映っていた。
( こんな大男のくせに、気配も足音も殺すのが上手いんだから・・・! )
久しぶりの『 彼 』の声に・・・想いとは裏腹に、胸が高鳴るのを感じた。
けれど、その感情を表に出さないようにと、私は必死に抑える。
襖の陰が移動して、部屋の入り口に現れた大きな鬼は、少し身を屈めて、鴨居を潜った。
チカが静かに手を上げたのを見て、自分の分の繕い物をさっと片付けた侍女が静かに退出する。
完全に彼女の気配が消えると・・・チカは、私を見下ろして唇を歪めた。
「 どうした?航海から帰ってきた後は、いつも真っ先に出迎えてくれるだろうが 」
「 ・・・・・・別に 」
「 何拗ねてんだよ、。ホラ、こっち向けよ 」
「 や・・・っ!! 」
彼の腕が私の腰に伸びると、子供を高い高いするようにひょい!と持ち上げる。
地に足がつかず、バタバタと宙をもがく。その様子に、チカは意地の悪い笑みを浮かべて。
そのまま・・・私を抱き締めると、彼の目の高さにある私の鎖骨に、唇を押しあてた。
「 お前がそんなんだと、俺が、辛え。・・・ンだよ・・・帰ってきちゃ、まずかったのか? 」
「 チカ・・・ちが、 」
「 の顔を真っ先に拝むのが、毎回この屋敷に帰ってきた時の楽しみなのによ・・・ 」
「 ・・・ごめん、なさい 」
「 そう思うなら、顔を曇らせてねえで、いつものように・・・笑ってくれや 」
チカの頭ひとつ分、高く抱きかかえられた私を、柔らかい眼差しが見つめる。
・・・こんな体勢じゃあ、目も逸らせなくて。その視線を受け止めた私の顔が、次第に赤くなっていく。
ああ・・・やっぱり、もうダメだ。私ってば、呆れるくらい、チカに甘いんだから。
( こんな表情で言われたら・・・もう、拒めるワケないじゃない・・・ )
あ・・・あのね、と小さく呟くと、聞き取ろうとしてか、チカは顔を近づけてきた。
「 今回の航海に出る前に、約束・・・したこと、覚えてる? 」
「 ・・・約束? 」
「 『 次の航海には連れて行ってくれる 』って約束したのに・・・結局、置いていかれて。
私、すごく悲しかったの。チカが約束破ったって・・・ずっと・・・ 」
「 それで、航海中の2ヶ月間、俺の送った文にも返事してこなかったってワケか 」
「 ・・・・・・だ、だって、っ!きゃあ!! 」
高かった視線が、すとんと落とされ、チカと目線の高さを揃える。
彼の・・・整った顔立ちを目の前にして、どきん・・・と心臓が震えた。
「 すまなかったな。今回の戦は、とてもをつれていけるような、余裕のあるモンじゃなかった 」
「 ・・・うん、後から知った、の 」
「 そうか・・・ごめんな。ちゃんと説明して行けば、よかったな 」
「 ううん、私のほうこそ、ごめんない・・・チカ、 」
「 ・・・あ? 」
おかえりなさい
チカは、一瞬、目を見開いてから( その大きな片目には、満面の笑みの私が映っていた )
ヘヘッ!と笑って・・・私を力強く、その広い胸に抱き入れた。
「 俺が聞きたかったのは、そのセリフよ!・・・帰ったぜ、!! 」
存分に抱き締めあった後、少し身体を離すと・・・どちらともなく、顔を寄せた。
唇と唇が触れ合う寸前で止めると、彼の薄い唇が少しだけ動く。
「 ・・・愛してるぜ 」
紡ぐはずだった『 返答 』は・・・すべて、激しいキスに飲み込まれてしまった。
航海で離れていた時間を取り戻すかのように、お互いの身体を抱き締めあう。
チカの身体から『 彼 』の匂いがして・・・涙が出そうなくらい、の、安堵感に包まれた。
( ・・・ああ、やっと私のものとに、帰って来てくれたんだね・・・チカ・・・ )
・・・でも、置いていかれたのは、やっぱり悔しいから
彼を『 喜ばせる 』のは、もう少し後にしちゃおうかな・・・なんて、ね
噛
み
締
め
た
ア
イ
ラ
ブ
ユ
ー
( 『 私も、好き! 』の言葉は、とりあえずこのキスが終わってからにしよう )
ミドルガイ同盟に捧げました!
Title:"LOVE BIRD"
Material:"Sky Ruins"