AKUMAの魔の手を、避けられない。
 危機的状況の中で、私は瞬時にそれを悟った。



 手も、足も、ぴくりとも動かない。
 いつだってフル回転( しないと追いつかない )な頭も、こんな時に限って真っ白。
 迫り来る影に、怯えることはない。
 ・・・出来れば、血がどばーっっと出ちゃって、痛くって、苦しくって。
 そんな息の引き取り方は、嫌だな・・・とだけ思った。



 『死』の瞬間。



 私は以前から、最期に思い出すのは、誰だろうと思っていた。
 気がついたら、もう私は『独り』だった。
 出逢っては別れ、出逢っては別れの繰り返し。
 良いこともあった。悪いこともあった。
 嬉しいことも、辛いことも、笑ったことも、泣いたことも。
 だけど、不幸と幸福は隣り合わせ。
 『独り』だった私を、両手で救い上げてくれたのは。





 信じていないハズの・・・当に、忘れたハズの・・・カミサマだった。





 『神の使徒』と呼ばれるエクソシストになって。
 私は『帰る場所』と、同じように使徒と呼ばれる『仲間』を得た。

 今までにない世界。見たことも体験したこともなかった戦場。
 けれど、そこには・・・。





「    」






 私を呼ぶ、彼の声。
 全てを許す、優しい微笑み。



 心の底から渇望していたヒト。
 銀灰色の瞳に、自分の姿を映す。





 差し出されたその手に、私は何度触れた・・・?








 目の前の影を、紅が裂く。
 真っ二つになったソレから、断末魔が上がり、光となった。

 浄化された魂は、天へと昇る。
 空をぽかん・・・と見上げ、視線を目の前に立ちはだかる背中へと戻す。
 弾んだ息を整えようとする肩。白いワイシャツは、激しい戦闘の痕を残していた。



 燃えるような、紅い左手。
 炎の紅、情熱の紅。





 ずっとずっと・・・・・・この手に支えられてきたの。





「・・・・・・ハァ・・・・・・良かった・・・もう、間に合わないか、と・・・・・・」





 にっこりと微笑んだ彼が首を傾けると。
 真っ白な髪が、光を浴びて銀色に輝いた。





「貴女が、無事でよかった」





 そう言って、彼は私を抱き締めた。
 色鮮やかな手が、埃で汚れた私の髪を撫でた。
 大粒の涙が、血に染まった彼の肩を濡らした。


 夢中で、愛しいそのヒトの名を呼んだ。








 カミサマ。





 彼こそ・・・・・・本当に、貴方の使徒です。
 出逢わせてくれて、有難う。











神様の






(かいな)






抱かれて








( だって、私にとってのカミサマは、彼だから )






タイトルは、坂本真綾さんの歌の一説です。