どうしてなのか、わからない


 を抱くのも、がどこか冷めた瞳で俺を見るのも
 俺の下で、切なそうに・・・声を殺して、泣く、のも










「 ・・・・・・っ、く・・・・・・ 」


 ・・・ああ、まただ。
 常に深く眠ることない俺は、薄く瞳を開いた。
 今日の月は、雲に隠れていて見えない。
 俺とは、今夜も身体を重ねて・・・背中合わせに、寝ていた。
 『 これ 』が『 ふつう 』。
 欲望のままに、どんなに抱き合っても、を抱き締めて眠ることはなかった。


「 ( 束縛はできない・・・俺に、その権利はない ) 」


 だって・・・俺は、の『 恋人 』じゃないんさ。
 この前、に俺との仲を頼んでいたあの子もモテるけど、は別格だった。
 どうやらそんな彼女に、好きなヒトがいるらしい・・・というのは、教団中のオトコ共では有名な噂で。
 それは新入りのアレンなんじゃないかって、誰もが思っていた。


 ・・・シーツの歪む音がした。きっと、身体を丸めたのだろう。
 一度だけ・・・俺は、こんな状態のを捕まえて、問うたことがある。
 どうして泣くんさ?理由を教えてくれ、と言うと、彼女は首を振って頑なに答えなかった。


「 いいの、気にしないで、ラビ 」


 いいの、いいのよ。
 あの時のの表情を思い出して、俺はぎゅっと瞳を瞑った。
 今夜も・・・涙を堪える声が聞こえないように、耳に蓋をして。


 彼女が泣き疲れて眠ってしまうのを、じっと静かに待った。








( 涙の原因は『 俺 』なんだろうけど・・・どうしたらいいのか、わからないんさ )




( やっぱり・・・・・・アレンが好き、だから、なのか? )


































「 !ただいま帰りました・・・ああ、逢えて良かった 」
「 アレン、お帰りなさい。任務はどうだった? 」
「 残念ながら、イノセンスは見つかりませんでした・・・って、あ、そうそう 」
「 ん? 」
「 お土産があるんです。コムイさんに報告書を提出した後で、渡したいんですが・・・ 」
「 ふふっ、気を遣ってくれて、ありがとう!部屋にいるから、声かけて 」


 俺の前で、があんな無邪気な声を出すことはない。
 ・・・何が違う?俺とアレンの、何が違うっていうのさ。
 勝手なヤキモチかもしれない( それも独りよがり、の )
 でも、こんなシーンを目撃して無視できるほど・・・俺は、大人じゃなかった。


「 ・・・・・・っ、ラビ!? 」


 ・・・そう、これがいつも見る、俺の前での彼女の表情なんさ。
 強張ったような声で、『 俺 』から一歩引いた( それが堪らなく、辛かった )
 昼間の廊下は、日差しの明暗がはっきりしている。
 暗闇の中に彼女を引きずり込めば、すんなりと俺の腕の中へと収まった。


「 や・・・ァ、っ!! 」


 悲鳴さえ飲み込むように、俺は彼女に口付けた。
 抵抗していた身体が解け、唇から漏れる吐息が甘いものに変わっていく。
 ・・・ホラ、一発なのに。
 俺はもう、どうすればが自分の『 虜 』になるか知っている。
 どうしたらその瞳に、俺だけを映してくれるのか( 手に入るのは、後にその一瞬だけだとして、も )
 激しいキスの後・・・今日だけは、の瞳の色が変わっていた。


「 ラビ・・・もう、やめて 」
「 ・・・え 」
「 こんなことしたって、逆に心が荒むんだもの。手を出すなら、他の娘にして 」


 ぐいっと手の甲で唇を拭うと、は逃げるように走り去る。
 追うことも出来ずに、消えてしまった彼女の背中の残像をぼんやりと眺めていた。


「 ( ・・・嘘、だろ・・・ ) 」






 本気で・・・今度こそ、本気で嫌われたんさ?


 アレンが帰ってきたからか?今度こそ、他の男に奪われるのか、俺は、、を。




















































「 ・・・ラビ、や、め・・・、っ!!いやぁァっ!! 」




















































 そこからの記憶は、定かではない。




 どろりと黒いモノが俺の心を覆って、何も見えなくなって、何も感じなくなってしまったから。
 気がついたら、獣のような行為は終わっていて。
 吐き出したものが、彼女を白く染めていて・・・・・・やっぱり、泣いていたんさ。


「 ・・・・・・ 」
「 もう・・・いいでしょ?気が済んだ、でしょ? 」
「 、俺、ごめ 」
「 嫌い・・・ラビなんか嫌いよ!出てって!出てって!! 」


 枕に顔を伏せたが、声を上げた。
 背中越しにそっと泣かれるのも辛かったが、彼女の慟哭を目の当たりにして、動揺した。
 いつもの俺なら・・・目の前で女の子が泣いていれば、優しい言葉を投げて、いくらでも慰めるのに。
 培った知識なんて、こんな時に何の役にも立たない。
 俺は、散らばった教団服に袖を通して、彼女の部屋を出た。
 扉を閉めた途端、うわああぁん・・・との声がして・・・居た堪れなくなった。






「 ・・・っ、くそ、ッ・・・!! 」






 こんなハズじゃなかった、なんて、言い訳に過ぎない。
 彼女を、ここまで追い詰めて号泣させているのは、紛れもなく、俺なんさ。


























( なぜ・・・伝わらない?俺の声も、言葉も、想いも、何ひと、つ )


























 胸を締め付けるのに、そんなの啼き声すら・・・愛しくて




 その場に座り込んで、カナリヤの悲鳴が止むのを、いつものように『 耳を塞いで 』待っていた











その感情はただ、





でしかなかったのだ



( このもどかしい感情を伝えるのに、どの『 言葉 』も意味がなくて )






Title:"群青三メートル手前"
Material:"月影ロジック"