ああ、どうしてこんなコトになったんだろう・・・。






 目の前の男は・・・2人、いや3人いる( 見張り役がいたっけ )
 体格の良い方の男が、私の腕をねじり上げて、大きな蔵の影に押し付けている。
 足が地に付いていれば、少しは力が入って抵抗できたのかもしれないけど・・・残念ながら浮いたままだ。




「 ・・・こりゃ、上玉だな 」




 嘗め回すようにヒトの身体を見ていた細い男が、持っていた杖で私の顎を持ち上げる。
 睨んだのに、むしろ悦んだようだ。口元を緩めて、私の腿に自分の腰を近づける。
 腿にあたる感触に・・・生理的な嫌悪感を感じて、鳥肌が立つ。
 いつもは気丈な私の根性も、さすがに恐怖を感じて・・・折れてしまいそうだった。




「 ( こんな時・・・いつもだったら、佐助さんが助けに来てくれる、のに ) 」




 頼りになる忍は、上司の命令で遠方へ偵察に出かけている。
 城下に下りることには慣れていたから、こんな危険な目に遭うなんて、想定外だった。
 もしかしたら、佐助さんがこっそり護っていてくれていたのかもしれない・・・と思うと。
 改めて、私のお目付け役である彼にお礼を言わなければならないかも・・・。




「 ここで剥け 」




 と、男が言った瞬間、大男の手が私の襟元に伸びた。
 恐怖で声は上がらなかったけれど、せめてもの抵抗で。
 男の腹を、顔を蹴って、肌蹴るのは肩だけ・・・の状態を必死に保っていた時だった。




「 ・・・殿ーっ、殿ォーっ!!! 」
「 ゆ・・・幸村くんっ! 」
「 そこかッ、ふんっ! 」




 悲鳴を上げて、見張り役の男が吹っ飛ばされたのが見えた。
 彼の背丈よりも長い、2本の紅の槍を携えて・・・現れたのは、幸村くんだった。
 吊るし上げられて、胸元に手をかけられている私の姿を見た途端・・・。








 幸村くんの瞳に焔が宿り、闘気が身体中から迸るのが解った。








「 ・・・貴様ら、殿に・・・赦さぬ!赦さぬゥゥゥ!! 」




 烈火ッ!と叫ぶと、両手の槍に炎が宿るのを見て、大男の力が緩んだ。
 地面に落とされて、尻餅をつく。
 キャン!!という私の悲鳴に、幸村くんがはっとなって駆け寄って来た。




「 殿、大丈夫でござるか!? 」
「 いたたた・・・う、うん、平気。腰を打っただけだから 」
「 ・・・良かった・・・ 」




 目を瞑っていたのは、ほんの数秒だったのに。
 幸村くんによって成敗された輩たちの姿は、なかった・・・ただ、周囲の焦げ臭さは隠せない。
 ヒトのざわめきが、だんだん大きくなってくるのがわかる。
 ここから立ち去らなきゃ・・・と思っていると、私の身体がふわりと浮いた。




「 ひゃ、 」
「 しっかり掴まっていてくだされ 」




 そう断ると、彼は私を抱きかかえたまま大きく跳躍する。
 蔵の屋根まで上ると、ピューイ・・・と指笛を吹いた。




「 佐助から借りたでござるよ 」




 どこからか現れた大烏の脚に掴まると、私を抱えたまま、屋敷へと運ばれる。
 確かに・・・これならざわめきが回避できて、助かるけれど・・・。
 ちら、と見上げた幸村くんは、助け起こしてから・・・私と目を合わせてくれない。
 声音が怒っているようには聞こえない分、逆に怖いかも・・・。


 屋敷へ着けば、奥方様!様!と女中たちが駆け寄ってきた。
 ( ・・・どうやら捜索されていたらしい )
 心配してくれていた彼女たちに謝る暇もなく、幸村くんが周囲に宣言した。




「 は離れに連れて行く故、呼ぶまで、しばし誰も近づくな! 」




 ぎょっとなったのは女中だけでなく、抱えられた私も同じ、だ。
 誰もが固まったままの中で、彼だけが、ざっと庭を突き進んで、離れに向かって歩き始めた。




「 あの・・・幸村、くん 」
「 ・・・・・・・・・ 」




 スパン、と襖を勢い良く開いて、これまた勢い良く閉じると、奥間に私の身体を降ろす。
 部屋の隅においてあった手拭を取って来ると、離れの入り口にある手水に浸して戻ってきた。
 何度呼んでも、何度視線を合わせようとしても、幸村くんは黙ったまま顔を背けている。
 無言で・・・私の掌を、手拭で拭い出した。




「 幸村くん・・・わた「 どうして、誰にも告げずに外へ出たのでございますか? 」 」




 低い声に、肩を震わせると・・・ようやく、幸村くんは顔を上げて私を見つめる。
 ( なんて・・・暗い、瞳を・・・ )




「 護衛もつけずに城下へ出かけるなど・・・佐助は、不在だと申したはず 」
「 い・・・痛、っ! 」
「 そなたの身に何かあった時、この幸村がどんな想いをするか、考えたことはないのでございますか? 」
「 幸村く、ん!痛い!!ご、ごめんなさい!! 」




 ギリ・・・!と掌を握られて、骨の軋む音がした。
 半泣きになった私が謝ると、彼は大きな溜め息をついて、やっと掌を開放する。
 そして、今度はその手拭を、私の顎から首筋へと当てた。




「 ・・・奴らに、どこを触られましたか? 」
「 え、 」
「 某がお助け申した時、殿の肌は粟立っておられた。何かされ申したな? 」
「 べ、別に何も、されて・・・きゃあ!! 」
「 真実かどうか・・・某が、確かめてみせましょうぞ 」




 素早く腰紐を解かれたかと思うと、一気に着物が肌蹴た。
 止める前に、煩いのはこの口かと言わんばかりに幸村くんの唇が声を絶つ。




「 ん・・・んうっ!ゆ・・・き、む・・・ 」




 いつもは、こんな激しい行為を望むようなヒトではない、のに・・・。


 脳震盪でも起こしたような揺れる視界の端に、手拭で私の両手を縛る彼の姿を見た。
 そして、自分も着ていた上着を放り出すと・・・暗いままの瞳で、私を覗き込む。
 唇に吸い付き、鎖骨に小さな花を咲かせ、右手が私の太腿をなで上げた時だった。




「 ・・・ァッ!! 」




 我慢していたのに・・・あの時の『 恐怖 』を思い出して、戦慄が背中を駆け抜けた。
 その瞬間、幸村くんの身体がピクりと反応する。




「 ・・・やはり、な 」




 そう言って、彼は身体を反転させると、私の腿に牙を立てた。
 ( 痛い!どうして、どうして・・・こんなこと・・・!! )
 すると今度は、その噛み跡に舌を這わせて・・・腿の付け根へと顔を埋めた。
 急に襲った快感に、身体も心も追いつけなくて、ただ布団の中に沈む。




「 い・・・嫌ッ、怖い!! 」
「 某を見てくれ、・・・そなたを抱くのは、誰ぞ 」
「 ・・・ゆき・・・幸村、く、ん・・・ 」
「 いつだって、そなたを愛し、支配するのは・・・誰ぞ! 」
「 んんっ・・・あ、ああン・・・っ!!ゆ、き・・・ァっ!! 」




 身体を伝うのは、汗だけじゃない。『 恐怖 』が『 熱 』に解けて、外へと逃げていく。
 幸村くんが、袴に手を入れ『 自身 』を私へとあてがう。
 他人のを当てた腿を拭うように掠めると、そのまま押し込め、私の中を支配する。




「 ゆきっ、ふァっ!!や、あああァ!! 」
「 熱や、快楽だけでは、そなたを想う気持ちを抑えられぬ!某は・・・狂って、いるのか、っ!? 」
「 あン!も・・・もぉ、だ、だ・・・めェッ!! 」
「 ・・・ッ、ぁ・・・!! 」




 恥も理性も捨てて、訪れる快感に身体を開く。腰が浮き上がるのがわかった。
 瞳を閉じる、その瞬間に・・・幸村くんの端正な顔立ちが、険しいものから解き放たれる。


 膨れ上がったその『 想い 』を受け止めた時・・・私も、焦がれてしまうのではないかと思った。

















 快感の波が過ぎ去って、意識を手放してしまいたかったのに・・・。
 それすらも赦されず・・・幸村くんの長い指が、私の顎を持ち上げた。






「 ハ、ァ・・・幸村・・・く、ん・・・ 」
「 ・・・まだ足りぬ。某を愛しているならば、もっと求めてくれ・・・、殿 」
「 愛、してる・・・私、幸村くんのこ、と・・・愛してる、よ・・・ 」








 どこまでも続く、果てない愛


 それは、まるで・・・終わることのない、夢と同じだね・・・
















 今度は私の方から、出来るだけ優しく、彼の唇に口付ける
 ( それだけで、一度達してしまった私の身体は、また彼を求めるように・・・震えた )


 幸村くんは驚いたように・・・一瞬だけ、いつもの優しい顔に戻ってから・・・










 さながら戦鬼のように・・・再び、私の身体に『 刃 』を突き立てた












子羊のナイトメア



( 殿にだけ・・・本当の『 某 』を見せて差し上げましょうぞ )




Title:"ロストガーデン"
Material:"青の朝陽と黄の柘榴"