世界は、橙色に染まる
 彼も私も足の先から髪の毛の一本一本まで
 ・・・染まる、染まる、染まっていく・・・
「 どうしました? 」
 色が私の身体を侵食し終わると、隣の彼が首を傾げる
 戸惑ったような、ちょっと焦ったような・・・
 彼の微笑みに、私は笑顔を向ける
「 急に黙ったんで・・・気になって 」
「 何でもないよ。心配させてごめんね、アレン 」
 今度はホッとしたような表情
 思わず笑みが零れそうになって、口元に手を添えた
 アレンは気づいたのか、視線をそらすように正面を見据えた
 真っ赤な太陽が、地平線の向こうへと沈んでいく
 私とアレンはその様子を、一本の坂の天辺から見守る
 夕風に棚引く白い煙
 子供が別れを告げる声
 増えていく窓の光
 坂の上から見る景色は、まるで別世界
 日常の喧騒から隔離されて・・・
 死地へと向かう任務から解放されて・・・
 ココには、私たちしか、いない
「 ねぇ、アレン 」
 はい、と振り返ったアレンの髪がなびいた
 その仕草が、綺麗だった・・・とても
 全てが夢現のようなこの”一瞬”を、”永遠”に変えることが出来たなら
「 私たち・・・来世でも逢えるかなぁ 」
 唐突なセリフ
 視線を交えた彼が、きょとんとした顔で私を見つめていた
 瞳には、眉間に思い切り皺を寄せた私が映っている
 ・・・ずっと、彼が好きだった
 過ぎていく季節。募る想い
 打ち明ける勇気のない私を、あざ笑うかのように
 離れ離れになる時は、刻一刻と近づいてくるけれど
 それでも・・・想い続けることは、罪にならないですか?
 アレンは、にっこりと微笑んだ。
 つられて眉間の皺を解いた私に、すっと手が伸びる
「 手を繋いでも、いいですか? 」
 紅と橙の混じった色の掌
 その手が夜色に染まる前に
 私は戸惑いながら、彼の温度に重ねる
 ・・・温かい
 心臓の早鐘を、彼に悟られなければ良いのだけれど
「 きっと逢えますよ 」
「 え? 」
 それが、私の投げかけた問いかけの答えだと気づくのに、時間が要った
 アレンは繋いだ掌を、強く、きつく、ちょっと痛いくらいにぎゅっと握り締めた
「 だっては、僕の運命の人だから 」
 今が、夕暮れ時で良かった
 これならどんなに顔を赤らめても、
 どれだけ照れているか彼にはわからないハズ
 ・・・とっても恥ずかしいハズのセリフなのに
 アレンが言うと、不思議とサマになっちゃうのよね
 そう笑い飛ばす予定だったのに
 零れたのは・・・・・・嬉し涙だった・・・・・・
「 ・・・また逢えます。僕が、必ず探してみせますから 」
 だから、泣かないで
 背中に回された腕が、小刻みに震えていた
 ・・・・・・ああ・・・・・・彼も怖いのだ
 だから、さっきあんなに力強く、私の手を握って
 笑顔の奥で、歯を食いしばったのだ
 この任務がいかに過酷で、危険を伴うか
 彼自身もわかっている
 告げることの無い愛の言葉は、もの言わぬ抱擁だった
 あの夕陽に、溶けてしまえば良い
 世界も、想いも、涙も、彼と過ごした優しい時間も
 ・・・閉じ込めたい程切ない、今この一瞬も
 一つになった彼の影と私の影は、
 紅く・・・・・・坂の下まで伸びていった・・・・・・
涙
を怖がった僕
死
を怖がった君