・・・・・・・・おーい、おーい、聞こえてますかー??
あ、よかった。ちゃんと届いているみたい。
月英さんが作ってくれたこの拡声器・・・まいく、って言ってたっけ。
凄い、こんなに遠くまで響くんだ。
えへへ、あとでお礼言っておかなきゃ!・・・っと、その前に( こほん )
こんにちは、私は。
中華という広い『 世界 』の、ほんの片隅にある小国の君主をやっています。
10歳の時に、前君主たるお父様が亡くなって、皇女だった私が君主という位に就きました。
小さい頃に亡くなったお母様一筋だったお父様には、妾もいなくて、子供も私一人。
私以外に王位に就ける身内もおらず、それはそれは不安だった。
物語とかじゃ、こーいう展開の時って大抵官吏の傀儡になって、国が滅んじゃうの!
・・・でもね。
お父様には諸葛孔明という補佐がいて。
私が成長し、独りで政を執り行えるようになるまで、彼が力を貸してくれることになったの。
孔明は、私の補佐に就任するに当たって、ひとつ約束事をしたわ。
「 いいですか、殿。貴女にとって一番大切な事・・・それは『 信頼 』です 」
人を信じること。
優しさや正義、どんな時も光を失わない人間の強さを信じなさい、と諭されたわ。
だけどこれは間違って理解することなかれ。
何でも赦せと言っているのではないし、無理難題を全て受け入れろって言うんじゃない。
私を慕い、集まる者の信頼に、こちらも信頼で礼を尽くせ、ということ・・・だそうだ。
「 貴女の元に集う人の中で、どの人物が『 君主の厚い信頼を得るに足る人物 』か。
殿、貴女自身が貴女自身の目で、見極めるのです 」
「 ・・・私が、ですか? 」
「 そう。人を見極めることこそ、君主として必要な技量です。
正直に申し上げて、貴女は何も知らない温室育ちの皇女。
だからこそ、今後の自分を補佐してくれる相手を自分で取捨選択なさい。
信頼に足る人物には、相応の『 信頼 』を。
それが、殿の為に働く者にとっては、何よりの宝となるはずです 」
にこりと優しく微笑む孔明の言うことを、疑うまでもない。
10歳の私でも解るくらい、彼はこれまで国の為に尽くしてきてくれた。
お父様が亡くなったことを、私と同じくらい惜しみ、悲しんでくれるのも・・・彼しかいない。
だから私は、君主としての最初の一歩を・・・迷うことなく、彼の手を取った。
私が孔明を信じること、それが彼の力になるなら幾らでも信頼を寄せよう。
お願いします、と頭を下げると、孔明は更に低く、床に額をつけて拝礼してくれた。
これほど固く結ばれた彼との約束を違えることは、万に一つもない。
私は・・・孔明を信じて、私の元に集まってくれる人を信じて、生きていく。
そして、いつかお父様とお母様の愛したこの国を、立派に治められる君主になる。
あれから数年経っても、私一人では、まだまだ力不足だけど・・・。
日々、この国に足を運んでくれる人は確実に増えてきた。
人が集まれば街が活気づき、生活が向上していく。
その人たちに聞いたんだけど、今、世間ではこの国の豊かさが噂になっているんだって!
それから、私とこの国を共に守っていきたい、って志願してくれる武将も増えたのよ。
彼らは、まだほんの10数年しか生きていない、頼りない私を、命懸けで守ってくれる。
私の周囲には、どんどん『 信頼に足る人物 』が増えていく。
その事実はとても有難いし、幸せなことだけど・・・これは、名高い孔明のおかげだもの。
皆、彼の噂を聞きつけて集まっただけで、私の力じゃない。
だから、彼の手を煩わせることが少しでも減るように!
来るべき日までしっかり学んで!食べて!遊んで!!
信頼できる人たちと共に、一人前の君主にならなきゃね!うんっ!!
・・・・・・へ、何?月英さん??
ええーっ、遊んで!の件がまずいって、孔明が怒ってるの!?
怒るほどのことじゃないでしょっ!!何を器の小さいことを・・・え?う、うん。
これ以上、帝王学の講義が増えるのはちょっと・・・いや、かなり嫌、だなあ・・・。
こうなれば逃げるが勝ちでしょ!
月英さん、孔明のこと宥めておいてね。協力してよー、ね、お願い!
・・・うわわ、来た!来た来た来たっ!!やっば、めちゃくちゃ怒ってる顔だよ、あれ!
とにかく!!私、頑張るからね!応援よろしくーっ!!
絶対君主に恋してる!
- 始動 -
( 「 お待ちなさい、殿!これ以上遊んでどうするつもりですかッ!! 」「 ( 来たぁぁあ!逃げろ!! ) 」 )
Title:"capriccio"
Material:"Tiny tot"
|