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ゆっくりと部屋を満たしていく、朝陽。
 
 
 
 覆われていない左眼を、容赦なく照らされて、オレは寝返りを打った。
 
 
 「 ううー・・・ん 」
 
 
 薄く開けた瞳に、キラキラと光る糸のような細い髪の毛。
 爽やかな日差しを背に佇んだ人影を、そっと・・・気付かれないように。
 ・・・かばちょ!と抱きすくめた!!
 
 
 「 わっ! 」
 「 ーっ、おっはよーんっ☆ 」
 「 ・・・男女共に口説くなんて、相変わらずのサイテー男ですね 」
 
 
 ・・・カナリヤのような可愛い声音が返ってくると思いきや。
 どう考えてみても、男のソレに・・・オレは身体を強張らせた。
 光を浴びて、銀色に光る髪の下に、紅く浮いた星型のアザ。
 少年は、清純そうに見えて・・・どこか腹黒い笑みを顔に貼り付けた。
 
 
 「 おはようございます、ラビ 」
 「 ・・・・・・何で・・・アレンが、ここにいるさ・・・? 」
 
 
 眠気の『ネ』の字も無くなった眼(まなこ)で、微笑んだアレンを凝視した。
 そのアレンがさっと取り出したるは、掌よりひと回り大きい白い箱。
 
 
 「 ・・・これ、なーんだ☆ 」
 「 へ!?な、何だろな・・・ 」
 「 ラビ宛ての、手作りデコレーションケーキです 」
 「 はあぁぁぁっっ!?オ、マ・・・!何でさっ、何で・・・そんなモン・・・っ!! 」
 「 さぁ・・・・・・どうしてでしょうね? 」
 
 
 アレンの背後から、メラリと怒りのオーラが見え隠れしてい、る・・・!!( ひー )
 コホン、とひとつ咳払いをして。
 
 
 「 僕の質問に見事正解できたら、このケーキはラビに差し上げましょう 」
 「 ってか、元々オレの為にが作ってくれたんだろ!? 」
 「 それでは、問題です 」
 「 おーいっっっ!!! 」
 
 
 涼しい顔で、スルーしたアレンは”質問”とやらを発表する ( タチ悪いさ・・・ )
 
 
 「 箱の中のケーキは、1:ショートケーキ、2:ガトーショコラ、3:フルーツタルト、どれでしょう?? 」
 「 それを、どうやって当てるんさ! 」
 「 ・・・そうですね、確かめてみましょうか 」
 
 
 素早くリボンを解き、箱の蓋をがぽっ!と開けた。
 オレは、すかさず箱に襲い掛かる!アレンが、箱を抱えて跳躍する!( そこまでするか、普通 )
 
 
 「 あぁーっっ!!オレのケー、キ・・・がっっ!!! 」
 
 
 箱ごと逆さにひっくり返し、あーんぐり開けたアレンの口にいとも容易く吸い込まれていくケーキ。
 
 
 「 んん、む・・・ガトーショコラ、ですね。さっすが!素晴らしい口当たりです!! 」
 「 ・・・箱が邪魔して、何だったのかすら見えなかったさ・・・ 」
 
 
 満足そうに、指に付着したチョコレートまで舐めて ( チクショー! )
 アレンが最高の笑顔で、にっこりと微笑んだ。
 
 
 「 それでは、談話室に向かって下さい。そこに神田がいます、バカンダが 」
 「 何故そんな展開に・・・っていうか、アレン・・・何気に悪口言ってたよな、今 」
 「 空耳ですよ。とにかく確かに伝えましたから、必ず向かって下さいね 」
 
 
 膨らんだ( ようには見えない、底なしの )胃を撫でながら、アレンはすたすたと退出した。
 
 
 
 
 ・・・オレの・・・清々しい、素敵な一日の始まりは一体ドコへ・・・。
 
 
 
 
 訳のわからない展開に、頭を痛めながら。
 枕元の団服を羽織ると、とりあえずアレンの告げた談話室へと走った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「 逃げも隠れもしないぜ、俺は! 」
 
 
 仁王立ちしている親友の姿に、オレは溜め息を吐いた。
 アレンの言うとおり、談話室に入るなり六幻をオレの喉に突き立てようとするユウ。
 空気に静かに舞った黒髪が静まるのを見届けて、オレは口を開く。
 
 
 「 ・・・なぁ、ユウ。何なんさ、朝っぱらから二人で・・・いつの間に二人、仲良くなったんさ? 」
 「 はっ、馬鹿め!俺がモヤシと仲良くなる日なんか、永久に来ないぜ 」
 「 なら、どうしてこんなことするんさ? 」
 
 
 むぐ、とユウは詰まると・・・ほんのり、頬を紅く染める ( 染めんな!キショっ )
 
 
 「 ・・・・・・の・・・・・・ため、だからだ 」
 「 は!?何でそこにの名前が・・・ 」
 「 ・・・ちっ、始めるぞ!! 」
 
 
 神田は気を取り直したかのように、団服のポケットから小さな箱を取り出した。
 それを高々と、天井へと掲げる。
 
 
 「 これはお前のためにが買ってきた、シルバーリングだ!! 」
 「 だ・か・ら!!!何でンなモン、じゃなくてお前らが持ってんだーっっ!!! 」
 「 俺の質問に答えてみろ!そうすれば返してやる 」
 「 返すとか返さないとか、そーいう問題じゃないさ!!目ェ覚ませ、ユウーっ!! 」
 
 
 ユウも、俺の魂からのシャウトをあっさりとスルーし、声高らかに叫んだ ( 天然・・・ )
 
 
 「 今日身につけている、俺のフンドシの色は、1:赤、2:白、3:黒、・・・どれだ!? 」
 「 知るかーっっっ!!! 」
 
 
 つーか黒フンって、明らかにおかしいさ!?おかしいよな、なぁっ!?
 オレの突っ込みも聞いていないのか、ユウはしばらくして・・・口の端を、ニヤリと持ち上げた。
 
 
 「 答えは・・・・・・フンドシなんか身につけていない、だっ!!わかったか! 」
 「 選択肢の意味ないじゃんかぁぁぁっ!! 」
 「 は、知るか!!! 」
 「 ・・・・・・こンの・・・俺様体質め、が・・・っ 」
 
 
 危うくイノセンスに右手を伸ばしそうになり、堪えた。
 ユウはそのままケースを開けると、リングを( よりによって )右手の薬指にはめようとした。
 しかし剣豪の彼には、少しだけ小さかったようだ ( ザマーミロさ!! )
 諦めたかのように・・・・・・・・・今度は左手の薬指にはめた。
 
 
 「 ちょ、っ・・・ユウ!!左手は勘弁!マジで!!冗談にならないさ 」
 「 はまんねぇんだから、仕方ないだろ 」
 「 お前・・・左手の薬指の意味、知ってんだろ!? 」
 「 あ?知らねぇよ・・・とりあえず、貰ってく 」
 「 ユウーっっ、頼むから返してくれーっっ!!! 」
 
 
 団服の裾を翻した彼が、一度だけ振り返る。
 
 
 「 ・・・科学班室だ 」
 「 へ・・・?? 」
 「 そこに、もいる 」
 「 ・・・・・・が!? 」
 
 
 ・・・この事態を、彼女はどう受け止めているのだろう。
 まさか、彼女が仕組んだワケでもなかろう。
 自分で、オレのために用意した、という品々が、横から持ち去られているのだ。
 
 
 
 
 と、なれば・・・・・・主犯格は、アイツしかいねぇさ・・・っ!
 
 
 
 
 ユウの左薬指事件に、ダメージを負ったハートを奮い立たせて。
 ( きっと )ラスボスがいるであろう科学班室に、オレはダッシュした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 勢い良く、扉を開ける!
 途端、音を立てて視界を覆った白いスモークに、思わず身構えた。
 ・・・これは・・・ドライアイス??
 
 
 「 ふっふっふっふっふ・・・よく来たね、ラビ!! 」
 
 
 低く笑ったその声は、よく知っている人物のものだ。
 場の空気にそぐわないような、軽薄な音楽が耳を突く。
 スモークが少しずつ引いていき、そびえたつコムリンと・・・・・・。
 
 
 「 だが、ここまでさっ!この先は一歩も通さないよ 」
 「 コムイっ!? 」
 「 兄さん、かっこいいわ!・・・・・・もう、いつもそんな風だったらいいのに・・・・・・ 」
 「 リナリーまで!? 」
 
 
 コムリンの両手に鎮座した、ラスボス兄妹。
 呆然と見上げていると、リナリーが天使のように微笑んだ。
 
 
 「 この扉の奥の、班長室にがいるわ。でも・・・ラビには逢わせてあげない 」
 「 何でだよ!?は・・・オレの彼女さっ!! 」
 「 ・・・・・・だから、よ・・・・・・ 」
 
 
 ピ、キ・・・と静かに青筋が、リナリーのこめかみに浮かぶ。
 
 
 「 だってが・・・逢う度に、ラビ、ラビって・・・ラビの話ばっかり・・っ!! 」
 「 よしよし、リナリー。それはラビが悪いよねー 」
 「 ちょっと待つんさーっ!!完っ全、逆恨みだろ、それってえええ 」
 「 ラビを退治して、みんなでちゃんを○○しようねー 」
 「 コムイっ、この夢企画は18禁ナシさーっっ!!! 」
 「 問答無用!お命頂戴!! 」
 
 
 え・・・クイズ形式じゃないのさ?オレ、マジで殺されるんさ!?
 リナリーは微笑みを消すと、黒い炎を宿した眼差しでオレを見下ろした。
 ふと、彼女の首からぶら下げられた、それに気付く。
 
 
 「 リナリー、それは? 」
 「 貴方の生命と天秤にかける、のいる班長室の鍵よ 」
 「 ・・・・・・生命は冗談じゃなかったんさ・・・・・・? 」
 
 
 細かな装飾が施された、小さな小さな、銀の鍵。
 どうやって奪い取ろうかと作戦を練ろうとした瞬間・・・・・・!!
 
 
 「 う、オ・・・っ!! 」
 
 
 コムリンの攻撃!避けた先に待ち構えていたのは、リナリーの『黒い靴』。
 息つく暇も無いコンビ攻撃に、交わすのが精一杯だ。
 そして、高みの見物と決め込むコムイ。オレは、イノセンスを取り出した。
 
 
 「 イノセンス発動!・・・伸っ!! 」
 
 
 ヒュ、オ・・・っ!
 空気を切って伸びた柄の先に飛び乗る。リナリーが追って来ているのがわかった。
 ・・・そうさ、ついて来い!!
 
 
 「 え 」
 
 
 マヌケな悲鳴を上げた、コムイの襟首を掴む。
 ぐるりとひっくり返すと、空を翔けてきたリナリーの目の前に突きつけた。
 
 
 「 ・・・兄さんっ! 」
 「 どうさ、リナリー!!これで攻撃できま・・・・・・ 」
 
 
 言い終わる前に、コムイの顎を割らんばかりの凄まじい蹴りが炸裂した・・・!!( マジか )
 ああああぁぁぁ・・・と無念の悲鳴を上げて、コムイが地面へと落下していく。
 青い顔でその光景を見つめ、そびえたつコムリンの肩へと着地したリナリーへと視線を戻した。
 リナリーは煌煌とした光を瞳に浮かべて、口を開いた。
 
 
 「 ラビ、と別れて 」
 「 ・・・リナリー? 」
 「 私にとって、はとても大切なヒト。そんな彼女の悲しい顔なんて見たくないの 」
 「 の悲しい顔なんて・・・オレだって見たくないさ 」
 「 いいえ、いつかを泣かすわ!ラビなんて遊び人で女好きで○○で××しちゃうのよ! 」
 「 ・・・・・・さっすが兄妹さ・・・・・・ 」
 「 ね?だからその前に・・・ 」
 「 でもな、リナリー 」
 
 
 キッ、と俺は頭上のリナリーを見上げた。
 彼女の親友のリナリーであろうと・・・これだけは譲れない。
 
 
 「 俺、のことを本気で愛してるんさ 」
 
 
 
 
 この想いだけは
 
 
 
 
 ・・・しばらくして。
決して視線を逸らそうとしなかったリナリーが
 おもむろに首に回した手をオレの方へと向けた。
 飛んできたそれを、両手でキャッチ☆
 
 
 
 
 ・・・・・・これは・・・・・・
 
 
 
 
 「 ・・・眠り姫がお待ちよ 」
 
 
 トン、とコムリンの肩を降り、気絶したコムイの回収作業に入る。
 ”サンキュ”とリナリーの背中に投げかけて。
 
 
 
 
 ・・・茨の城の奥にいるという、愛するヒトの元へと、駆けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 部屋の中央に位置する、ふかふかのソファー。
 深く身を沈めているのは、オレの・・・オレだけのお姫様。
 
 
 「  」
 
 
 名前を呼ぶだけで、オレの心はこんなにも弾む。
 艶やかな髪。柔らかそうな肌。濡れた睫。薔薇色の頬。熟れた唇。
 
 
 「  」
 
 
 オレを夢中にさせる、世界中の誰よりも愛するヒト。
 
 
 「 んっ・・・・・・れ、ラビ・・・?? 」
 
 
 ゆっくりと数回瞬きを繰り返し、星のような瞳に俺を映す。
 ココが自分の部屋でないのに気づいたのだろう。辺りを見回して、首を傾げた。
 
 
 「 えーと・・・・・・ここは、どこですかねー・・・? 」
 「 科学班室長室。理由は追々説明するさ 」
 「 あ、もしかして・・・もうお昼なの!?アタシったら何でこんなに爆睡してんの? 」
 
 
 きっと一服盛られてのかもな、と言おうとして・・・ヤメタ。
 それよりも、今は抱き締めたい。
 ・・・こんだけ( なぜか )朝っぱらから苦労して、やっと逢えたんだからさ♪
 驚いた顔のが、はっと気づいたように、腕の中でもがいた。
 
 
 「 ・・・・・・ラビ 」
 「 ん? 」
 「 お誕生日、おめでとう、ね 」
 
 
 
 
 ・・・何だ。彼らがオレを襲う理由なんて、こんな簡単なコトだったんさ。
 
 
 
 
 緩めた腕から、身体を起こして。
 オレを見上げるの顔に咲いた、満面の笑み。
 
 
 
 
 
 
 
 
 もう一度、きつく抱き締めると、は”ぎゃ!”と非難の声を上げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ハピバ!!
 
 
 
 
 ( 彼女の微笑みが、オレにとって最高のプレゼントさ☆ )
 
 
 
 
 
 
 「 あれれ、せっかく作ったケーキと、プレゼントするハズだった指輪がない・・・・・・ 」
 
 「 ・・・・・・い、いらないさっ!が傍にいてくれれば、オレは満足さ〜・・・( トホホ ) 」
 
 
Material:"CIS"
 
 
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