せっかく、練習のない放課後の空き時間を。
 俺はこんな場所で過ごさなきゃならなくなってんだろう・・・。








「 わ、私!今、準太と付き合っているから!! 」
「 そんな・・・この前、誰とも付き合ってないって言ってたじゃんか 」
「 ・・・っ!つ、つい最近・・・そう、昨日から付き合い始めたの!! 」


 オイオイ、いくら何でもそりゃ無謀な言い訳だろーが。
 その苦しい言い訳を、また名案だと思って胸張っているところが・・・俺には、相当イタいヤツに見える。
 だけど、相手も冷静さを失っているんだろう。少しだけ涙を浮かべて、辛そうな表情を浮かべた。


「 ・・・・・・わかったよ 」
「 ( 何をだよ ) 」
「 よかった・・・わかってくれて 」
「 ( ちょ、オイ ) 」
「 私たち、また友達に戻れるよね・・・? 」
「 ( くっさ!そのセリフ、くさいよ!! ) 」
「 ・・・ああ。じゃあ、俺、部活あっから・・・ 」
「 うん・・・頑張って、ね 」


 に振られたオトコは、くるりと踵を返して去っていく。
 俺とアイツは、しばらくその姿を見送っていたが・・・完全に消えたのを見計らって。


「 ・・・準太、もういいよ 」


 と言った瞬間、吹き出す!!


「 ぶふっ!ハハっ、あはははは・・・っ!! 」
「 ったく、もう・・・どうせ会話聞きながら、ひとり突っ込みしてんじゃないかと思ったわよ 」
「 ふひひひふはははっ・・・は、はは、ワリ・・・ 」


 は呆れたように見ているが、最後には『 いつものことだしね 』と呟いた。
 いまだ笑い転げている俺から、ぷい、と顔を背けて、近場の瓦礫に腰を下ろす。
 身体を丸めて、大きなため息を吐いたので・・・俺の笑いも、ようやく、止まった。


「 どうしたんだよ、・・・お前、大丈夫か? 」
「 ・・・・・・だった、の 」
「 ん? 」
「 本当は・・・私、だって・・・好き、だった、の・・・ 」
「 ・・・はァッ!? 」


 目の前のの膝の隙間から、ぽたり、と零れている涙。
 な・・・何だよ、どーいうことだよ、ソレ。そんな話、聞いたことねえぞ!!
 動揺するも、彼女に聞いてみれば・・・自分の親友と、好きなヤツが『 被った 』と言う。
 被ったくらいで引くくらい、お前の想いなんてちっぽけなモンなのかよ!?
 そう言うのは、簡単だ・・・でも。


 俺は、自分の『 親友 』と、想いが『 被った 』ことなんてないから。
 友情を選んだを、一方的に責めることなんて出来ない。


 大体・・・断るだけなら、俺が彼氏役なんか努める必要、なかったんだ。
 幼馴染に頭下げられて、断ることが出来なかったってのもあるけれど・・・。






 コイツ、きっと・・・誰かに、背中押してほしかった・・・んだよな。






「 おい、 」
「 ・・・何よ 」


 ひとしきり泣いた後、涙でぐしょぐしょになった顔を隠すことなく上げる。
 俺は笑わずに・・・彼女に、手を差し伸べた。
 はちょっと驚いた様子で、俺の顔と手を交互に見つめている。


「 ラーメン、食べに行くぞ 」
「 ・・・何で、ラーメンなのよ 」
「 腹が空くと、思考能力が落ちるだろ。部活のみんなでよく行く、美味い店があるんだ。
  折角だから奢ってやるよ・・・の、失恋祝いにな 」


 ぷっとが笑うと、瞑った瞳からもう一度涙が零れた。
 その最後の雫を拭って・・・ようやく、ちょっと晴れたような表情を見せる。


「 ありがと・・・さすが、昔からずんたは優しいね 」
「 準太だっての 」


 しおらしくならないところが、コイツの悪いところだ( ま、とうに諦めたけど )
 教室に鞄を取りに行こうとすると、何かが俺の手を掴む。
 びっくりして振り返ると・・・の掌が、俺の手に絡まっていた。
 少しだけ、こうしてて・・・と呟いた、やけに小さな声を・・・俺は、聞き逃さなかった。


 の頭をそっと引き寄せると、一瞬固まって・・・俺にしがみついて、また泣き出した。






 仕方ないな・・・もう少しだけ『 彼氏 』でいてやるよ。














 やっぱり部活が休みで、こんな場所でよかったかも。


 そうじゃなきゃ、をラーメンにも誘えなかったし。
 誰も来ない場所だからこそ・・・強がりなコイツは、俺の胸で泣くことが出来るんだろうし。












 好きな子を抱き締めて・・・・慰めてやることも、出来なかったかもしれないし、な。












ままごとカップル



( 気持ちを告げるのは、もう少しだけ待ってやるから・・・また、俺に笑顔を見せてくれよな )




Title:"ロストガーデン"
Material:"MIZUTAMA"