「 じゃあ、プレゼントと寄せ書き、で、いいかな? 」
「 ああ、それでいいと思う 」


 放課後の静かな教室に、カチカチと芯を出す音がして。
 彼女は手帳にメモをとる。男には書けないような丸っこい字で。
 書きながら『 プレゼント、と、寄せ書き・・・ 』と声を出している様がおかしかった。
 ( 本人、声に出してるなんて気付いていないんだろうな、と思うと余計に )


「 もう・・・真田くん、なあに?? 」
「 ・・・え? 」
「 口元、すんごい緩んでる。人を見て笑うなんてサイテー 」
「 え、あ、いや・・・、これは違うんだ 」


 じと目になった私に、必死に弁解する真田くんが面白くて。
 ( だって、いつもポーカーフェイスの真田くんが、だよ!? )
 とうとう堪えきれずに噴き出した私を、今度は真田くんが非難する番。


「 、お前・・・ 」
「 ははっ!ご、ごめんね、冗談だってば冗談 」
「 ふう・・・ま、いいか。ほら、続き 」
「 そうだったね。えと、先生の誕生日は今月の終わりだから・・・ 」
「 プレゼントを渡すなら、誕生日の前が良いだろう 」
「 そうだね、じゃあこの金曜日、ホームルーム終わった時にでも・・・ 」
「 なら、買い出しは、その前だな 」
「 それまでに、クラスのみんなからお祝い金を徴収しないとね 」


 が開いたスケジュール帳のカレンダーを見ながら。
 俺と彼女は、てきぱきと段取りをつけていく。
 ・・・こういうことには、イマイチ、俺は疎いほうなんだが。
 ( 美鶴の方がリーダー性があって、いつも頼ってしまうため )
 彼女のリードが上手なおかげで、物事がひとつずつ順調に決まっていく。
 俯いた拍子に、の髪が光を帯びた。


「 ・・・真田くん、ってさ 」
「 なんだ? 」
「 隣のクラスの・・・桐条さんと、仲、良いよね 」
「 美鶴のことか? 」
「 ・・・う・・・うん 」
「 寮が同じだからな。それに、付き合いも長い 」
「 そ・・・なん、だ 」
「 ああ。気がついたら、といったカンジだがな 」


 真田くんがふ、と笑ったような気配がした。
 気配だけで、私は俯いた顔を上げることが出来なかった。確かめる勇気がなかった。
 ( 嬉しそうだったり、満足そうな表情だったら、私、どうしたらいい? )
 ちょっとだけ黙りこんだ私の髪に、彼が触れる。
 それだけで・・・身体が、震えた。


「 ・・・? 」
「 ご・・・ごめん、何でも、ない 」
「 ・・・いや・・・あ、この日・・・ 」
「 えっ? 」
「 お前、空いているか? 」
「 う、うん。大丈夫、だけど・・・ 」
「 なら、プレゼント、俺と買いに行かないか?・・・二人で 」


 ・・・平静に、聴こえただろうか。
 今言ったセリフは、寮で順平に仕込まれたモノだ。
 放課後、彼女と、担任の誕生日会について相談する、と言った時に
 『 真田さーん、どうせならクラス代表って立場を利用しないとっ! 』
 とニヤついた順平( あとでシメる )が、イロイロと伝授してくれたのだ。
 意中の人と、二人きりになる・・・方法。


「 ・・・うん、いいよ 」
「 ほ・・・本当か? 」
「 ホント 」
「 そうか・・・うん、行こう 」
「 駅で待ち合わせる?寮から遠い?? 」
「 いや、駅前で構わない。昼の12時でいいか? 」
「 いいよ 」
「 昼食、一緒に食べて、それから買い物に行こう 」


 お誘いだけでも嬉しいのに、食事して買い物だなんて。
 私・・・幸せすぎて、卒倒しちゃう、かも。
 デートみたいだ、って思ったら、どんどん顔が赤くなってく。
 ( ダメよ、私!そんな想像したら、本当に引き返せなくなっちゃう )
 真田くんが指す、スケジュール帳の日付を見ながら、頬が緩むのを感じた。


「 じゃあ、昼12時に駅前で 」
「 うん・・・あ、あの、真田くん・・・ 」
「 何だ 」
「 ・・・か・・・ 」
「 か? 」
「 髪から・・・手を、離してもらえると・・・ 」


 俯いた拍子に、光が彼女の上を疾るのが美しくて。
 思わず手に取っていた、柔らかな髪。
 そっと持ち上げると・・・恥ずかしそうに、真っ赤に頬を染めていた、君。
 上目遣いの視線に、俺の心臓が跳ね上がる( あまりに愛らしくて )
 実際は身体ごと跳ね上がって、椅子から転げ落ちそうになった。


「 さっ、真田くんっ、大丈夫!? 」
「 あ・・・ああ・・・す、すまない、 」
「 ううん、だいじょう、ぶ 」
「 ・・・・・・それじゃ、今日はこれで 」
「 うん・・・ありがとう 」
「 何が? 」
「 一人じゃなかなか、こういうこと決めるの苦手で 」
「 それを言うのは俺の方だ。俺も、がいてくれて、助かった 」
「 ・・・ホント? 」
「 ああ。、ありがとう 」


 真田くんの言葉は、まるで魔法。私・・・すごく幸せな気分だ。
 目の前の彼は、唇の端をあげて、こちらに微笑みかけている。
 だから私も、彼に最高の笑顔で微笑んだ( 幸せな魔法がかかっているうちに )
 慌てて視線をそらした真田くんに気付かずに、私は隣にあった鞄に手をかけた。






 スケジュール帳を閉じる前に、一瞬だけ『 その日 』を確認する


 ああ、待ち遠しいな。あっという間なんだろうけど、永遠にも似た時間










 ・・・なにはともあれ












あしたまたね





( 家までこっそりスキップして帰ろう! )






Title:"Seacret words"
Material:"ミントBlue"