なかったことに





してしまいたい!!












 うおおおおおおおお・・・ッッ!!と叫びそうになる衝動を、口を塞ぐことで逃れる。
 自分で口を閉じたのに、どう呼吸したらいいか解らず、そのまま失神しそうになった。
 ( いっそ、失神してしまったほうが、楽だったかも知れぬ・・・ )


 ・・・いや、そんなことをしても、何も解決しないのはわかっている。
 もう済んでしまったことなのだ。どうひっくり返っても、時間は戻らない。
 事実をありのままに受け止めるのだ、幸村・・・とお館様の声が聞こえた気がした・・・。











 うう、で、でも!お館、さばぁっ!!


 この幸村・・・無抵抗のふ、婦女子に、手を出してしまったのです・・・ッ!!!












 ( と、ここより回想でござる! )












「 ねー、幸村ぁ。今日の授業のココ、わかった? 」


 と声をかけてきたのは、の方だった。
 ベッドに寝転んで、買ったばかりの雑誌を読んでいたところに、某を呼ぶ、隣の窓からの声。
 読みかけのページで開いたまま、窓を開けた。


「 某に勉学を聞いても、答えられぬぞ 」
「 威張って言わないでよ・・・あーあ、やっぱり政宗くんに習っとけば良かった 」
「 ・・・何故、そこで政宗殿の名前があがるのだ 」
「 だって、せっかくの隣になったんだもん。成績優秀者を、利用しない手はないでしょ。
  残念ながら、隣の家の幼馴染が、ぜんっぜん頼りにならないからさー 」
「 ま・・・政宗殿に解けた問題ならば、某にも解ける!! 」
「 よかったぁ!じゃあそっち行くから、教えて!ね!! 」


 よっと窓を乗り越えて、ベランダからが身を乗り出す。
 小さい頃は親に見つかればゲンコツものだが、高校生にもなれば自己責任。
 しかし、何度も渡っているとはいえ、いつ落ちてしまうのではないかと、某は気が気じゃない。
 ( には再三注意するが、この方法を止めぬのだ )
 伸ばした腕に飛び込むようにして、彼女の身体が某の胸に納まった。


「 ありがと、幸村 」


 にこ、と微笑む無邪気な彼女に、つい、頬を赤らめる。
 あ・・・ああ、とわざとそっけないフリをして、先に部屋に入る( 頬の辺りが、熱い・・・ )
 はフードのついた、フワフワのニットにショ・・・ホットパンツ。
 ( この前、ショートパンツと言ったら、散々訂正させられたので、いい加減覚えた )
 ニーハイ( とやら )を履いていたが、床に座ると、そこから伸びた生足に嫌でも目がいく。
 顔の熱が冷めず、彼女から顔を背ければ生足に目がいき、慌てて逸らせばと目が合い・・・。
 「 ねえ、ココ、教えて 」と身を乗り出した際に、の胸元がちらりと覗いた時、
 どこにも目線がいかぬ様、最終奥義『 ぎゅっと目を瞑る 』作戦を実行することに相成った!
 ( ・・・こやつ・・・アクマか!? )


 辛抱できたのは、たった30分。


「 あ、わかった!この公式を使うんでしょ 」
「 いや、そこではなく、さっき計算したこの数字をここに当てはめるとだな・・・ 」


 と、ノートを指した互いの指が、触れる。
 ・・・それが、限界。
 意識しなければ何でもないことかも知れぬが、とうとう我慢していたものが表に出てしまった。
 突然立った時に、足が机にぶつかり、ガタン!!と大きな音を立てる。
 がびっくりしたように・・・きょとんと、某を見上げていた。
 ( また、その大きな瞳が愛らしい・・・などと考えてしまう自分が・・・情けない )


「 ゆき、むら・・・? 」
「 ・・・飲み物でも取ってくる。しばし、待たれよ 」


 こくり、と彼女が頷いたのを確認し、某はすぐに踵を返した。
 階段を駆け下りて、台所に到着した時は・・・その場に座り込むかと思った( いや、耐えたが )
 か・・・彼女は無意識かも知れぬが、某も、男、なのだ。
 ああああのような格好で現れては、誘惑されているのかと勘違いしてしまいそうになる・・・。
 ・・・いやいや!昔から良く知る幼馴染にまで、欲情してどうするのだ!!
 これは・・・試練なのでござるか?
 むしろ試練だと思い込んでしまった方が、乗り越えられるような気がする!


 たのもー!と叫びそうな勢いで、ジュースの入ったコップを持って部屋へ戻れば・・・。


「 ( ・・・・・・やはり、試練か・・・・・・ッ! ) 」


 ベッドの上で丸くなって眠る姿に、ぐらりと眩暈を感じた。
 とりあえず倒れる前に、机にジュースを置くと、大きな溜め息が出て・・・とうとう座り込んだ。
 ベッドの縁に腰をかけて、項垂れる。
 すぐ傍に・・・散らばった美しい髪の束を見つけて、へと向き合った。


「 ( 某の前では、警戒を解いてくれているということだろうか・・・ ) 」


 どんなに年月が経っても変わらない、安らかな寝顔とか。
 化粧をせずとも、細い影を生んでいる、細長い睫とか。
 こんなに間近でを見れるのは、某、だけだと思いたい。隣の席の政宗殿、じゃなくて。


 いつだって・・・傍らで、を護る役目は、この幸村だけだと・・・。


 口元にかかった髪を流すつもりで触れた頬に、魔法でもかけてあったのだろうか。
 髪を耳にかけてやると・・・そのまま無意識に・・・指先が、彼女の唇を撫でる。




「 ( ・・・、 ) 」








 その唇に次に触れたものは・・・某の、唇だった。








 ・・・たぶん、恍惚な表情をしていたと思う。
 目の前の彼女を愛でるように、うっとりとした視線を投げかけていると・・・。
 突然・・・ぱちくり、とその両の瞳に、自分の姿が映っていた。
 最初は、なぜ彼女の瞳がこんなに近くにあるのだろう、とか。
 なぜ某の姿を、驚いた表情で見ているのだろう・・・と考えたが。
 動き出した思考回路に、身体の中の血液が沸騰してしまいそうだった。












 ( と、ここで冒頭のシーンに戻るのでござる! )












「 ・・・あ、あ、あああああの、こっこここ、これ、は・・・ 」
「 あーあ、ファーストキス、幸村に奪われちゃった・・・ 」


 身体を起こしたにそう言われ、慌てて土下座しようと床に下りようと腰を浮かせた。
 けれど・・・そんな某の腕を捕まえて、彼女が、逃げないで!と叫ぶ。
 しがみついた腕にバランスを崩し、2人でベッドに逆戻り。スプリングが悲鳴を上げた。


「 な・・・、っ!?何を、言っ・・・ 」
「 逃げないでって、言ったの 」
「 ・・・そ・・・某は、逃げてなど、お、おらぬ!! 」


 そうじゃなくても、某の身体の上でマウントポジションをとっているのは、お主であろう!?
 某の両頬を、瞳を逸らした剥き出しの腿が挟んでいる。
 ・・・逃げたかったが、この『 至福 』に揺らぐ自分がいて( 叱ってくだされぇ!お館様!! )
 何も言えずに、口だけがぱくぱくと金魚のように動いた。
 見下ろしたの唇が、ふ、と緩む。艶を帯びた瞳が、少しずつ近づいてきた・・・。
 大きな黒い瞳に・・・それはそれは、酷く動揺した情けない自分の姿を認めると・・・。




 某にだけ聞こえるように・・・甘く、囁く。










「 本当は・・・大好きな幸村に、ずっと・・・キス、して欲しかったんだ・・・ 」










 作戦、大成功かな・・・?、と呟いたの方から、二度目のキス。




 鼻を突いた、彼女の匂いに・・・理性も、何もかもぷつりと切れて
 離れようとしたの頬を捕まえて、イタズラ好きな彼女の唇に思う存分・・・喰らいついた!






( 一度手に入れたモノを、某、簡単には手放さぬぞ!お覚悟なされよ!! )



Title:"loca"
Material:"NOION"

























































「 あ・・・ふ、んくっ・・・あ、あの、ゆき、む、ら・・・んんっ 」
「 ・・・何だ、・・・はァ、ッ・・・っ、 」
「 ンく、ぁ、は、・・・しょ、初心者、に、んッ、ぁ、こんな・・・激し、いキス・・・し、 」
「 したかった、のであろう・・・?ふう、ァ・・・どうした、もっと舌を・・・ん、ホラ・・・ 」
「 んんんッ!ふあ、ひっ、ふ・・・ッ!!( 絶対、何か黒いスイッチ入っちゃってる!!! ) 」