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 ぽかん、と自分の口が開いた。
 
 目の前に降り注ぐ『 白 』。その隙間に見えた転校生。
 彼の口も、あ、と大きく開けられていて、私に向かって掌を広げた。
 
 
 
 
 その手を掴もうとして・・・・・・意識が、閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「 ・・・んんっ 」
 
 
 1回、2回、3回。
 4回目の瞬きで、自分を照らしている蛍光灯の光に目が慣れる。
 殺風景な天井しか映らなかった視界に、ひょこっと現れた顔。
 
 
 「 気がついた? 」
 「 ・・・え・・・、くん?? 」
 
 
 頷いた彼は、少しだけ口の端を持ち上げる。その仕草がとても優雅で。
 見惚れていた私の額に軽く触れて、熱はないよね、と確かめる。
 
 
 「 えっと・・・そっか、私・・・ 」
 「 さん、階段から落ちたの、覚えてる? 」
 「 うん。確か、職員室からプリント持って、階段を下りてて・・・ 」
 「 ちゃんと手を掴んで引き寄せたつもりだったんだけど、意識がなくて 」
 「 あー・・・昨日、あんまり眠れなくて・・・そのせいかも。朝から眩暈がしてたし 」
 「 ごめん・・・俺が、急に飛び出して来たから・・・ 」
 「 そ、そんなことないよ!私がちゃんと前、見てなかったから!! 」
 
 
 プリントを抱えていて、前を見ずに階段を上っていた私と。
 慣れない校舎の階段を降りていた、転校生のくん。
 どちらが悪いかって言ったら、絶対、ワタシ・・・。
 自己嫌悪に陥っていると、ふと、左手に感じる温もり。
 ゆっくり持ち上げてみると、二つの掌。ひとつは自分の、もうひとつは・・・。
 
 
 「 ・・・離そうとしたんだけど 」
 
 
 と、焦ったように顔を赤くするくん・・・けれど!!
 声にならない、とはこのことだ、っ!!私は魚のように口をパクパクさせる!
 あ・・・あの時、伸ばした手をとって、ずっと握っちゃってたんだっ!!!
 
 
 「 ご、ご、ご、めんっ!!! 」
 
 
 慌てて彼の手を解くと、いや・・・と優しくくんが微笑む。
 こ・・・こうやって見ると、くんって、王子様みたいだなぁ。
 転校してきた時からずっとクラスの女の子が騒いでるけれど、わかる気がするな。
 こんなに整った顔立ちのヒト・・・なかなかいないよね。
 
 
 「 ・・・さん? 」
 「 えっ・・・あ、ご、ごめん!その、えっと・・・ 」
 「 どうしたの?? 」
 「 そ、そうだ!くん、マヨナカテレビって知ってる!? 」
 「 ・・・・・・ 」
 
 
 ちょ・・・ちょっと、唐突、過ぎた・・・よ、ね!?
 話題がないとはいえ、無理があったかな。
 なのに、彼はその優しい笑みを崩さずに頷いた。
 
 
 「 知ってる・・・さんは、見たことある? 」
 「 え・・・ 」
 
 
 逆に質問されて、私の肩が震える。
 じっと二人の視線が交差して・・・顔を背けたのは、私のほう。
 
 
 「 うん・・・ 」
 
 
 霧の深い夜に映る、マヨナカテレビ。
 初めて見た昨夜、TVの向こうで、うちの制服を来た女の人が苦しんでいた。
 ・・・くんも、もしかしたら見たのだろうか。小さく息を吐いて、俯く。
 
 
 「 ちょっと、アレ見た後・・・眠れなくて 」
 
 
 今でも瞼の裏に残ってる。フラッシュバックする映像。
 自分のコトじゃないのに。あれが現実かどうかもわからないのに。
 胸がざわついて、眠れなかったの。
 そう言うと・・・くんの掌が、もう一度私の左手に触れた。
 
 
 「 じゃあ、少し眠るといいよ 」
 「 ・・・え? 」
 「 何か、今日も下校時間がズレるみたいだから 」
 「 そうなの? 」
 「 それを伝えに、さんを探してたんだ 」
 
 
 私の掌を、彼の両手が包み込む。じんわりと伝わる温もりに、何かが溶けていく。
 知り合ったばかりの人に、こんなに甘えちゃっていいのかな・・・って、アレ?
 
 
 「 あ・・・の・・・、くん・・・ 」
 「 ん?何?? 」
 「 ど・・・し、て・・・私の・・・名前・・・ 」
 
 
 クラスメイトといっても、まともに話したことなかったのに。
 まだ転校して来て日の浅い彼が、どうして・・・。
 眠気には逆らえず、ゆっくりと思考回路が動きを止めていく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ・・・トクン、トクン、トクン・・・
 
 
 
 
 重なった掌から伝わる規則正しい鼓動が、眠りの世界へと誘う
 
 
 
 
 
 
 
 
 「 いいから・・・今は、少し休みなよ 」
 
 
 「 起きたら、教えてあげるからさ 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 低く、落ち着いた、くんの声が
 
 
 
 
 ぽっかりと開いた、夢の淵でで聴こえた・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
pul・sa・tion
 
 
 
 ( 彼の唇に、あの優しい微笑みが浮かんでいるような気がした )
 
 
 
 
 
 
 
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