突き抜けるような、青空。
高く昇った真昼の太陽に、俺は目を細めた。
瞼が瞳を半分覆った時、小さな花が笑いかける。
『 ゲオルグ様 』
鈴の鳴るような可愛らしい声で ( それでいて張りがあって )
俺の名を呼ぶ・・・彼女。
ふ、と口の端に笑みが浮かんだ。
一度想っててしまえば、彼女との思い出は止まらず、
( そう思っているのは俺だけかもしれないが )
雪解けを迎えた河のように、嵩を増してココロを支配した。
初対面のは、綺麗にお辞儀してみせた。
・・・なるほど、フェリドやアルシュタートが一目置くのもわかる。
見た目よりも随分としっかりとしていて、不思議と目を惹く少女だった。
俺の起床前に起き、カーテンを開ける。
俺の就寝後に寝て、カーテンを閉める。
『 おはようございます、ゲオルグ様 』
『 おやすみなさいませ、ゲオルグ様 』
戦いの日々。
此処に還れば休まるのだ、と気づいたのはいつからだろう。
それが・・・の傍だと気づいたのも、いつからだろう・・・。
彼女と過ごす( それはとてもわずかな時間だったが )一瞬、一瞬が・・・
宝物、だった
だけど、俺の傍に、今、彼女はいない。
最後の戦いが幕を閉じ、フェリドとの約束も果たした。
国は信頼する者たちの手によって、未来へと歩み始めた。
これで俺も・・・・・・ようやく、先へと進める。
引き止めてくれた者たちの手を払って。
俺は、旅立つ。
戦乱の中、残してきたただ一人の少女のコトだけが・・・気がかりだが。
彼女もまた、共に戦った仲間の手を借りて、未来へと歩むだろう。
彼らなら、心置きなく彼女を預けられる。
・・・きっと。
恋に落ちて、結婚して、子供を産んで、年を重ねて・・・。
人並みの幸せを掴んで、生きてほしいと思うのは、
荒れた渦の中に身を置く、俺のような人生を送って欲しくないと思うからだろう。
どうか、どうか
・・・愛している君だからこそ、幸せになって
「 ゲオルグ様 」
幻、なら良かったのに。
理性はそう呟いたが、感情は追いつかなかった。
息を切らした。肩から重そうなカバンを提げて、正面に立った。
澄んだ瞳が、驚いた俺の顔を覗き込んだ。
「 私も一緒に、連れて行ってください 」
「 ・・・ 」
「 王子とリオンさんに伺ったんです。旅に出るって、国を離れるって 」
「 俺は・・・ 」
「 私には両親も待ち人もいません。今まで通り、ゲオルグ様にお仕えしたいんです 」
「 ・・・俺は、お前が・・・ 」
「 ゲオルグ様が、好きです 」
「 が、好きだ 」
お互い。
言いたいことだけ、言い合ったような、噛み合わない告白。
( でも、伝えたいことは・・・同じ、なんだ )
二人、吹き出して声高らかに笑った。
爽やかに吹き抜ける風が、笑い声を遠い空へと運んだ。
涙が出そうになるまで笑って・・・
本当に、の大きな瞳から涙が転がった。
その瞬間、俺の心臓は跳ねたが、がたちまち抱きついてきたので更に高鳴る。
「 好きです。好きです、ゲオルグ様 」
の背中に手を回して、細い身体をぎゅっと抱き締めた。
「 あぁ、俺もだ・・・を愛している 」
俺にも、彼女にも。
差し伸べられた、数多の手。
その中でも真っ先に。
相手を想うからこそ、一度は離したこの手を。
もう一度・・・・・・繋ごう、二人で。
二人なら、きっと虹の向こうまでだって行けるさ。
俺と歩む人生を、選んでくれた・・・となら
初めて触れた唇は、甘く、せつなく・・・
思い出の『 一瞬 』が、『 永遠 』に変わった瞬間だった
Over the Rainbow
( 貴方の向かう先が、私の未来になる )
Material:"Trooper666"
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