「 いつぞやの出陣の際に・・・あれは、お前を見たのだと言っておった 」
彼女の、双子の姉のことだ、とぽつりと呟く。
円も竹縄、と宴席を解散した後、月の見える縁側で、秀吉様と2人で呑んでいた。
動きの止まった私を横目に、一目惚れだったとか・・・と苦笑しながら、杯を傾ける。
「 色恋沙汰について語れる権利など、我にはない。しかし・・・ 」
「 ・・・・・・・・・ 」
「 お前は、修羅になるな 」
一気に飲み干した杯を、とん、と置いて、秀吉様は自分の部屋へと戻って行く。
去り行く足音が聞こえなくなるまで、私は額を床につけていた。
・・・秀吉様は・・・自分のようになるな、と言いたかったのだろう。
愛した女性(ヒト)を弱みだと思わず、強さに変えることが・・・私に出来るだろうか。
( ・・・・・・ )
目を閉じるだけで、彼女の笑顔が浮かぶ。
秀吉様の傍で、あの笑顔を守りたいと思う私は・・・なんと、強欲になったものよ。
自嘲気味に哂ったつもりだが、そう歪みもしなかったのは、自分が一番自覚している。
それだけ・・・私の中で、彼女が大切になっている証拠だった。
予定通り3日後・・・秀吉様は、屋敷を後にした。
その日の夜。私は、約束通り・・・寝所を訪れた。
三つ指をついて、畏まって待つの姿に、思わず苦笑が漏れた。
途端、顔を上げると、酷い!と、頬を膨らませる。
「 何だ?また、いつぞやのように突っかかってくるのか 」
「 もうしません。根に持つなんて、三成様は案外しつこい性格なんですね 」
「 な・・・ッ!!貴様、 」
「 今夜は・・・凛にも、完全に席を外してもらっています・・・ 」
「 ・・・・・・・・・ 」
三成様にすべてを委ねると、覚悟を・・・決めましたので。
の頬は染まったが、視線は逸らさなかった。まっすぐに私を見つめて、にっこりと微笑む。
その笑顔に、今度は自分の顔が赤くなっていくのを感じたが・・・私も、目を逸らさなかった。
それが、身を委ねるといってくれた、彼女への『 誠意 』だと思った。
距離を縮めるように、ゆっくりと彼女の向かいに立膝をつく。
よく見れば、睫が、双肩が震えていた。・・・以前も見たはずのに、可愛らしいと思うのは、何故だろう。
「 ・・・怖がるな。私を、信じろ 」
「 はい、三成様・・・ 」
「 ・・・ッ、・・・、 」
味わう余裕のなかった最初の口付けよりも、二度目のほうが甘く感じた。
彼女を抱えて、寝所へとそっと横たわらせる。
寝着を脱ぎ捨て、桃色に染まった美しい肢体を見ていると・・・彼女が、囁いた。
「 私・・・三成様をお慕いしております。だから・・・ずっと傍にいても、いいですか 」
「 ああ、ずっとだ、約束しろ。未来永劫、私の傍を離れることは、赦さない・・・ 」
嬉しい・・・と、細めた瞳から、涙が零れた。
もう泣かせたくはなかったのに・・・いや、今の涙は流しても良い涙、だな。
甘い呻き声。まるで、女を初めて抱いたかのように、その声に反応する自分。
少女だと思っていたの中に・・・初めて『 女 』の部分を見つけて。
大切にしたいという気持ちと、壊してやりたいという衝動が鬩ぎ合い、更に自身の気持ちが高まっていく。
何度果てたか、わからない・・・。
数えるのも馬鹿らしくなってきた頃、髪を掻き揚げた私を見て、彼女が吐息混じりにふふ、と笑った。
「 その瞳・・・最初は、とても怖かった。でも、どうしてこんなに変わったのでしょう。
『 心 』の持ちようひとつで、世界は・・・輝いて、見えるのですね 」
「 ・・・それは、私の台詞だ 」
「 え・・・? 」
「 私の心は、魂は、秀吉様に全て捧げている・・・しかし、今は・・・お前にも・・・。
にも、すべてを捧げたいと・・・そう、思っている・・・ 」
酷い話だと思う。お前が一番だ、と甘い台詞を言ってやれない自分が憎い。
嘘でも言ってやれば、彼女は安心しただろう。けれど・・・嘘を吐きたくないのだ。
お前の前では、ありのままの『 私 』でいたいと思う。
『 』を欲している、本当の『 私 』で・・・。
責められるかと思いきや・・・それは、杞憂に終わった。
の手が伸び、私の頭をそっと自分の胸に抱きしめる。
「 太閤様と同列なんて、恐れ多すぎます・・・でも、すごく嬉しいです 」
「 ・・・・・・ 」
「 だってそれって、三成様の中で『 最高 』ってことですもの 」
・・・胸が熱くなる、とはこのことだ。
彼女には、この先どんなことがあろうとも・・・もう、敵うまい。
柔らかな肌を抱きしめ返せば、くすぐったい!と嬉しそうに笑い声を上げた。
幸せな時間に満ちた『 初夜 』を・・・私は、死んでも忘れない。
raison d'etre
- 存在理由 -
( 身体も心も結ばれて、魂までもが・・・輪廻の先まで繋がってしまえばよいのに )
Material:"24/7"
Title:"TigerLily"
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