ここは・・・どこ、なんさ・・・




 俺は、空に浮いていた。
 眼前に広がる、果てない青空。足元に、白い雲が漂っているのが見える。
 いつか落ちてしまうのではないかと、内心ドキドキだけれど。
 自然と、その場所に馴染んできたのは、今の状況が掴めてきたから。


 在り得ない光景・・・・・・そう、これはきっと、夢なんさ


「 ラビ 」


 呼ばれた声に反応すると、いつの間にか姿を現す人々。
 見渡すと、顔馴染みの仲間から、久々に対面する奴まで・・・。
 俺を中心に、取り囲むようにして立っていた。


「 みんな・・・ 」


 何故、と問うのは愚問のような気がした。
 ・・・夢でも良かった。
 二度と逢えない、と覚悟した人の顔を見られるのは、
 こんな状況以外、無理に決まってるから。


「 有難う、ラビ。ようやく世界は救われたよ 」


 一歩前に出たコムイが、そう言った。
 マジか・・・!?と問うと、彼は笑った。
 千年伯爵の目論見は、俺のおかげで潰えたと言うんさ!!


「 ついに、この時が来たか。お前に、ブックマンを譲ろう 」


 横から聞こえた、パンダじじいの声。
 俺は真っ先に自分の耳を疑い、立ち竦んでいた。
 じじいは、微笑んで( 滅多に見れないさ )コクンと頷く。






「 ラビ 」






 澄んだ声が聞こえて、人の波が割れた。
 その波の向こうから・・・真っ直ぐに、俺を見つめる愛しい人。


「 ・・・ 」


 はにかんだ笑顔の彼女が、つい、と一歩前に進むと。
 黒い団服が、清められていくように純白に染まっていく。
 ウェディングドレス姿へと変化したは、俺の前で止まった。


「 私と、結婚して下さい 」


 麗しいドレス姿だけでも、充分俺の胸を高鳴らせたのに。


「 ほ・・・本気なん、さ・・・!? 」
「 ええ、ブックマンもコムイさんも、賛成してくれたわ 」


 二人が、の肩越しに頷いているのがわかる。
 ちょっとでも気を抜いたら、卒倒してしまいそうだった。
 喜びと感動に満ちた胸の内を、どう表現したらいいか、想像もつかない。
 ・・・だから。


「 きゃ! 」
「 嬉しい・・・嬉しいさ!!、愛してる 」


 強く、強く。を引き寄せて、抱き締める。
 驚いた様子の彼女は、次第に頬を緩めて。


「 私も。大好きよ、ラビ 」


 両腕をそっと、俺の背に回す。
 すると、周囲の観客からどっと拍手が沸きあがった。
 抱き締めたのベールが、歓声にふわりと揺れる。


「 悔しいけれど・・・おめでとうございます!! 」
「 やったわね!ラビ、、幸せになってね 」
「 ・・・ま、二人で仲良くやれ 」
「 おめでとうである!! 」
「 良かった・・・お幸せに 」


 アレンが、リナリーが、ユウが、クロちゃんが、ミランダが。
 たくさんの仲間たちが・・・今まで、出逢った全ての人たちが。
 俺の幸せを、祝う。俺の幸せを、共に喜んでくれる。




 鼻をくすぐる、幸福の匂い


 世界が平和で、目標が叶って、愛する人が傍にいてくれる












 泣きたくなるほど・・・俺は、幸せだった・・・




























 ・・・と思ったら、本当に涙が零れた。
 鼻筋を伝った冷たさに、瞳を開く。
 差し込む金色の光は、現実世界に戻った俺を、優しく迎えてくれた。


「 あら、ラビ、起きたの? 」
「 ・・・  」


 数冊の本を机に置いて、俺の向かいに腰掛ける。
 ぼんやりと瞳を擦る俺に、もう少し寝てても大丈夫よ、とは言った。


「 俺・・・寝てたんさ? 」
「 うん、ぐっすり。鼾(いびき)かいてたもん 」
「 嘘っ!? 」
「 嘘よ。でも、ぐっすりは本当 」


 彼女はクスクス笑って、持ってきた本の表紙を開いた。
 ・・・そっか。
 任務明けに、二人で図書室に借りていた本を返しに来て。
 が手続きを取っている間に、窓越しに座って待っていたら、そのまま・・・。
 自分の肩にかけられた、彼女のカーディガン。
 すっかり温くなっている。どのくらい、逃避行していたんだろう・・・。


「 いい夢、見れた? 」
「 ああ 」


 何気なく投げかけた質問に俺が頷いたので、は本から目を離す。


「 どんな夢? 」
「 覚えてないんさ。ただ・・・凄く幸せな気持ちだったのは、覚えてる 」


 心が・・・震えているから。
 

 余韻に浸って、溜まった涙を流してしまいたい気分だった。
 夢の中で、俺は・・・どれだけ、満たされたのだろう。


「 ブックマンのくせに、覚えてないの? 」
「 それとこれとは話が別さ 」
「 確かに 」


 と俺は顔を見合わせて、小さく笑う。
 そして、部屋に戻りましょう、と席を立つ。
 俺は彼女の後に続いて、図書室を後にした。


「 その夢に、私はいた? 」


 廊下に靴の足音を響かせて、が問うた。


「 ああ、いたさ。がいたことだけは覚えてる 」
「 そっか・・・へへ、何だか嬉しいな 」


 照れたように微笑んだ彼女が、一瞬、夢の中の笑顔と重なる。
 忘れたはずなのに。覚えていないのに。
 過ぎった幸福の残像に、ああ、そうか・・・と、思わず納得した。




 隣を歩くの耳元に、俺はそっと囁く・・・・・・














「 がいなきゃ、俺の幸せは成り立たないんさ 」






















( 手探りの未来でも、君はそうやって微笑んでいて )



Title:"ラストレターの燃えた日"