|  
 ・・・夢を、見ていた。
 
 
 
 
 
 大好きな人が私の前から去っていく、それはそれは悲しい夢。
 広い背中が、どんどんちっちゃくなってく。
 私は必死にその人の名前を呼ぶのに、どうして振り返ってくれないの?
 もう傍にいてくれないの?いつもみたいに、優しい声で私を呼んでくれないの?
 
 
 『 さん 』
 
 
 ああ、お願い。もう一度、私を呼ん・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「 ・・・・・・・・・・・・さん、さん 」
 「 ・・・え・・・ 」
 「 さんってば 」
 「 ・・・・・・うぁっ!! 」
 
 
 瞳を開けると、白い世界。
 夢の続きかと思ったけれど、真下から見た太陽の光だったらしい。
 その光を遮るように、人懐っこい笑顔が視界に映った。
 
 
 「 ・・・わか、おーじ、センセ・・・? 」
 「 はい 」
 
 
 ゆっくり伸ばした私の手を、きゅ、と握り締める。
 温かい・・・ひとまわりも大きな、先生の、男の人の掌。
 その手の感触に、少しずつ思考が動き出す。
 
 
 「 えー・・・っと、私、もしかして寝てました? 」
 「 ええ、そりゃもう。ぐっすりでした 」
 「 ・・・嘘。そんなに、ですか 」
 
 
 握り締めた手を引っ張り上げられて、そのまま身体を起こす。
 頬に手をやれば、太陽の熱が宿っていた。
 周囲を見れば・・・どうやら、公園の並木道のベンチでうとうとしていたみたい。
 ( いや、うとうとのレベルじゃなかったのかもしれないけど )
 肩やスカートの上に、数枚の桜の花びらがくっついていた。
 クスクスと口元を緩める先生に、恥ずかしさで胸が一杯になる。
 
 
 「 昨夜、寝付けなかったんですか? 」
 「 あ、大学のレポートを仕上げていて・・・明け方だったんです 」
 「 そうだったんですか。大変でしたね、お疲れ様 」
 「 もう仕上がったんで、全然大丈夫です! 」
 
 
 だって、そうじゃないと気になって、デートどころじゃなくなっちゃうもの。
 高校を卒業して・・・先生と逢える回数は、とても減ってしまったから。
 どうしても、今日は逢いたかったんだもの。
 ( 恋人なんだから、逢おうと思えばいつでも逢えるのかもしれないけれど・・・ )
 声に出しては言えなかったけれど、先生は気付いてくれたのかもしれない。
 握りっぱなしの掌に、少しだけ力が篭る。
 掌だけじゃなくて、まるで心臓まで掴まれたみたいに、私は胸が締め付けられた。
 
 
 「 ・・・私、夢を見てたんです 」
 「 夢、ですか? 」
 「 はい・・・この桜を見上げてたら、何だか思い出してしまったみたいなんです 」
 「 もしかして、去年のこと? 」
 「 さっすが、先生!ピンポンです!! 」
 「 あははは 」
 「 何だか先生が消えてしまいそうで、私・・・しがみつきました 」
 「 ・・・どこにも行かないって、言ってるのに 」
 「 そうですよね。先生は今、こうして私の隣にいてくれてるのに・・・ 」
 「 ・・・あ、さん、そのままにしてて 」
 「 何ですか?? 」
 「 ベンチで寝てたから、前髪に花びらが・・・ 」
 
 
 そう言って先生の指が、そっと私に伸びてきた。
 私は反射的に瞳を閉じて、指先が髪に触れるのを待った。
 なのに降って来たのは・・・・・・甘美なほど柔らかい、唇の感触。
 
 
 「 ・・・せ・・・ん、せ・・・ 」
 
 
 薄く瞳を開けば、穏やかな先生の微笑み。
 その頬が、薄っすらサクラ色に染まっているのを見て、私の顔の熱も上がる。
 
 
 
 
 
 
 「 もう少しロマンティックな状況になってから、と思っていましたが、
 我慢できなくなっちゃいました・・・すみません 」
 
 
 
 
 ・・・だって、あまりにも君が可愛いから。
 呟いた先生の頬に、私もそっと唇を寄せた。
 
 
 
 
 「 私・・・先生の傍にいられて、嬉しいです 」
 「 僕もだよ・・・さん 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 繋いでいた掌の、お互い指を絡めて
 私と若王子先生は、去年と同じように・・・桜並木を歩いていく
 
 
 
 
 来年も、どうか今日と『 同じ日 』を、迎えられますようにと、願いを込めて
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
夢から醒めてもそばにいて
       
      
 ( 桜が終わっても、二人でまた来年の桜を待ちましょうね )
 
 
 
 
 
 
 
 Title:"LOVE BIRD"Material:"NOION"
 
 
 
 
 |