やけに人だかりが出来ていると思ったら、どうやら輪の中心は明彦のようだ。
集まる女の子より、頭ひとつ分高い銀髪が、オドオドしたように揺れている。
あー、そういえば明彦、あーいうの苦手だって言っていたような・・・。
何気ない寮での会話の欠片を、頭の隅からつまんでみる。
遠目にそのとりまきを眺めて、通り過ぎようとした時だった。
「 あ!ああ、悪い、待たせたな 」
「 ・・・へ!? 」
輪をかき分けるように抜け出した彼は、私を見つけて、駆け寄る。
背中をぽん、と叩くと、校門の外へと促すように後押しする。
さなだくぅーん!という甘い声に、明彦が余裕そうに振り返った。
「 それじゃ 」
女の子たちの批判を背に受けながら、私と明彦は学校を後にした。
校門をくぐるや否や、我先にとダッシュする。
駆け込むように列車に乗り込んだ私たちに、周囲の視線が集まった。
「 はぁ、はぁ、は、っ・・・んもう!明彦!!私まで巻き込まないでよね!? 」
「 ん?ああ、すまない 」
「 ・・・っとに 」
額に浮んだ汗を袖口で拭い、明彦は髪をかき上げ、微笑った。
まったく・・・涼しそうな顔しちゃって。
毎日トレーニングしている彼には敵わないなあ。
私なんて息が上がっちゃって、なかなか落ち着きやしない・・・。
2駅過ぎても、どこか苦しそうな私に、明彦が声をかける。
「 ・・・悪かったな、 」
「 そう思うなら、今後は控えて下さい 」
「 ああ、気をつける 」
明彦はそう言って、ふい、と視線を外すと、窓の外を眺める。
横顔の明彦は、鼻筋が通っていて、とてもキレイだ。
色素の薄い髪の色も手伝って、冷静沈着・・・というか、クールに見えるのよね。
「 ・・・なるほど 」
「 何か、言ったか? 」
電車の音でかき消されたと思ったのに。独り言に、明彦が私を見下ろす。
あ、いや・・・と動揺しているのを見て( って、何で私が動揺しなきゃなんないわけ!? )
彼はふ、っと微笑んだ。大きく口を開けるんじゃなくて、優しく、ふわりと微笑む。
「 あ、それよ、それ 」
「 え? 」
「 明彦って、すごくクールに見えるの。動作も、立ち振る舞いも、身のこなしも 」
「 ・・・それが? 」
「 そーいうところが、きっとオトメゴコロをくすぐるのよ!やーん、真田先輩ステキ!みたいな 」
しばらく明彦は『 何を言ってんだコイツ 』的な視線を私に向けていたが( 失礼な )
やがて・・・ぷっと噴き出した!!( 酷い! )
突然の笑いの嵐に、周囲の乗客の視線が、再び彼に注がれる。
「 や、やだ、明彦。そこまで笑わないでよ 」
「 だって、ぷ、ははっっ!!、お前・・・本当に面白いな 」
彼が真っ赤になって笑い転げる姿なんか、滅多に見られない。
恥ずかしさ半分、もの珍しそうにしている私が、明彦の切れ長の瞳に映っている。
邪気の無い、澄んだ瞳。心の中まで見透かされそうで・・・か、と頬が朱に染まる。
明彦は、そんな私に気付くことなく、過ぎていく景色にその澄んだ瞳を向けた。
「 ・・・だと、いいんだがな 」
「 ん? 」
「 オトメゴコロとやらを、くすぐっているのなら、いいんだがな・・・ 」
誰の?、とは聞けなかった。何だか、聴いてはいけないような予感がして。
私が第六感に従って、大人しくしていると、明彦の視線が自分に注がれているのを感じた。
「 ・・・は? 」
「 うわわ、っ!」
ガタタタン・・・!!
電車が大きく揺れて、私の身体が明彦へと倒れこむ。
どん、とぶつかる音がして、彼の左手が転びそうな私の背中を支えてくれた。
お詫びの車内アナウンスを聞きながら、一息吐く。
私は自分の体制を整えるのに手一杯で・・・気づかなかったのだ。
さっきの私みたいに、明彦の頬が・・・いつの間にか、真っ赤に、染まっていたことに。
「 ありがとう・・・・・・あれ、さっき何か言いかけた? 」
「 ・・・いや、別に 」
「 そう 」
「 あ・・・、これから、ラーメンでもどうだ? 」
「 ・・・はがくれラーメン?? 」
「 ああ 」
「 ・・・・・・・・・ 」
「 い、嫌か? 」
「 ううん、いいよー 」
「 ・・・そうか!うん、よし、行こう 」
次の駅を告げるアナウンスが響く。
ああ、ラーメンを食べるならここで降りないと。
明彦は、私の手を掴むと、扉が開くのと同時に、改札まで一目散に走り出した。
手の指先まで真っ赤になった彼の熱が、私にも移る
飛び火したように、身体中の体温が上昇していくみたい
自分の中で、少しずつ鼓動が高鳴っていくのを感じながら・・・
目の前に広がった彼の背中を、追いかけた
彼の世界を変えるひと
( 恋をして、私の世界も引っくりかえる )
Title:"悪魔とワルツを"
Material:"戦場に猫"