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 柔らかい光が、眠りの世界に堕ちている彼女を包む。膝にもたれかかるようにして、寝息を立てている。
 
 
 安心しきったような寝顔は・・・子供の頃から変わらない。
 
 
 そんな妹とは、対照的に。
 無機質な色を湛えた瞳の、。
 
 
 「 ・・・ちゃん 」
 
 
 リナリーより、少しだけ落ち着いた声質の彼女から、昔のような返答は無い。
 
 
 「 リナリーも、神田クンも、アレンくんも・・・みんなみんな、心配しているよ? 」
 
 
 輝いていた髪の艶は、とうに失くなった。
 薔薇色の頬も、生気を無くして薄っすらこけてきたように見える。
 
 
 ” 生の拒否 ”
 
 
 僕自身、ショックには比較的慣れているほうだと思っていたけれど・・・。
 それでも医師の言葉は、胸を深くえぐった。
 その場で俯くことしかできない僕は・・・無力だ。
 ・・・次に、精神的に未熟な彼等に告げるかを迷う。
 が倒れたことは周知の事実。だがそれは、教団を大きく動揺させた。
 
 
 彼女は、多くのヒトを揺るがす存在だったから。
 
 
 「 僕も・・・君をとても心配している者の、一人だ 」
 
 
 僕の手を、に取ってもらえないことくらいわかっている。
 ・・・でも、転びそうになったら支えてあげたいし、助けてやりたいと思う。
 手の差し伸べる行為くらいなら、罪になりはしないだろうから。
 
 
 
 
 そして・・・君に、打ち明けることの無い、密かな想いを抱くことも・・・
 
 
 
 
 リナリーの黒髪を撫でていた手を、そのまま伸ばす。
 サラ、リ・・・と、枯れた音を奏でる糸の向こうに・・・。
 
 
 
 
 コン、コン
 
 
 
 
 聖域に触れようとした指が、ぴたりと止まった。
 僕は、その指で眼鏡を直す。そして、リナリーを起こさないように立ち上がる。
 
 
 「 ・・・アレンくん 」
 
 
 ノックの主は、白髪の新米エクソシスト。
 微笑んで、こんにちは、と丁寧に頭を下げた。
 
 
 「 に、逢いに来ました 」
 「 ・・・彼女も喜ぶよ、きっと 」
 「 あれ、リナリーは・・・?? 」
 
 
 椅子に寄りかかった眠り姫の姿を認めて、アレンくんが頷く。
 
 
 「 ちょうど良かった・・・コムイさん、お願いがあるんです 」
 「 お願い? 」
 「 ・・・少しの間、と、二人きりにして欲しいんです 」
 
 
 断る理由はなかった。リナリーもこのままにしておけないし、部屋に誰かが居てくれるのは助かる。
 けれど・・・なんていうか・・・これは、『勘』だ。
 
 
 「 でも、アレンく・・・ 」
 「 お願いします 」
 
 
 彼はもう一回頭を下げた。
 僕の中で、一度鳴らした警鐘は鳴り止まない。でも・・・断ってしまうのも、気が引けた。
 彼を止めるだけの理由を、持ち合わせていなかったから。
 
 
 「 ・・・・・・じゃあ、僕が戻るまでの間、お願いできるかな 」
 「 はい。ありがとうございます 」
 
 
 僕はリナリーを抱き上げると、アレンくんがの傍らに立った。
 
 
 「 、こんにちは 」
 
 
 語りかける言葉に、後ろ髪惹かれるように。それでも、仕方なく。
 僕は後ろ手に、扉を閉めた。
 
 
 
 
 扉の音は変わらないはずなのに、いつもより無常に、廊下に・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 いや・・・ココロに、響いた気がした・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
満天の星
 
 
 
 
 the innumerable stars in the whole sky
 
 
 第 3 章
 
 
 
 
 
 
 
 
 ・・・”二人きり”という言葉に、警戒されただろうか。( もう一度『君』に逢う為に、僕は此処に立っているんだ )
 
 僕は、こっそりため息をつく。
 でも結果的にはオーライだ。これで、を独り占めすることが出来る。
 目の前のは・・・きっと、まだ僕を見つめ返してはくれないだろうけれど・・・。
 
 
 「 今日はとても天気が良いですね 」
 
 
 コムイさんが座っていたと思われる椅子に、腰をかけた。
 そして、僕はそっと彼女の白い手に触れる。以前より少しだけ痩せた手。
 
 
 それでも・・・の美しさが、衰えることは無い。
 
 
 「 ティムキャンピーも、とても心配そうにしてました。訳あって置いて来ましたけれど 」
 
 
 の命が、このままでは危ない、ということは、教団中の噂になっている。
 誰もが動揺し、彼女のことを本気で心配している。
 早く、一刻も早く彼女が笑顔を取り戻せるようにと、祈っている。
 
 
 
 
 ・・・でも・・・それじゃ、ダメなんです。
 ”祈り”は本当に神様に届くのか、わからないじゃないですか。
 その間に、望みが断たれてしまったら?
 マナの時のように・・・彼女に、置いていかれてしまったら?
 今度こそ、僕は発狂しかねない。身に余る悲しみに耐えられず。
 
 
 だから。
 僕は、こうして貴女と向かい合うことにしたんです。
 
 
 
 
 「  」
 
 
 こっちを向いて。
 
 
 「 僕は、貴女を愛しています 」
 
 
 僕を見て。
 
 
 「 世界中の誰よりも 」
 
 
 僕だけを見て。
 
 
 「 絶対に、を悲しませるようなことはしないと、約束します 」
 
 
 彼女の手を、ぎゅっと握り締めた。
 力のない手は、されるがまま。声無き悲鳴を上げるように、指が天井を仰ぐ。
 は・・・相変わらず、”其処”に居なかったけれど。
 どうかどうか、神様ではなく、彼女に届きますように。
 この告白が、彼女の魂に染み込みますように。
 
 
 
 
 ・・・カタ、ン・・・
 
 
 
 
 いつから居たのかはわからなかったが、殺していたと思われる気配が、
 耳に響いた小さな音から、揺らいでいるのがわかった。
 ・・・僕は、それが誰なのか瞬時に理解する。
 だからこそ、繰り返したのだ。
 
 
 「 僕は・・・ラビよりも、ずっとずっとが好きです 」
 
 
 その愛の告白は、扉の向こうへの宣戦布告。
 彼は、僕がに想いを寄せていることを、知っている。
 彼女が心を開く前も、開いた後も、変わらぬ視線で見つめていることも。
 ・・・僕は、自分の心に決めていました。
 彼女を泣かせることは、たとえの大切なヒトであろうと、この僕が許さない。
 
 
 「 ・・・アレン 」
 
 
 床の軋む音と、扉の開く音がして。
 入ってきたのは、彼女を泣かせた、の大切なヒト。
 ・・・”こんな”状態の彼女を見るのは、きっと初めてなのだろう。
 生気の無い、痩せ細ったの姿に、驚いて・・・そして酷く傷ついた表情を見せた。
 
 
 「 何か用ですか? 」
 
 
 僕はわざと、今頃気づいたように笑顔で振り向く。
 一瞬、ビクリと肩を震わせて俯いたラビは、決心したように真っ直ぐ僕を見つめた。
 
 
 「 アレン 」
 
 
 深い深い、グリーンの瞳。
 隻眼でも両目分の光を放つそれは、以前と同じ色を湛えていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ・・・そう、それでいい。
 
 
 彼が、その色を取り戻すのを、僕は待っていたんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「 は・・・だけは!アレンに譲れないんさ!! 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 続いちゃってて、ごめんなさーい(逃)
 
 
Material:"君に、"
 
 
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