本当に通じ合ってるならば、言葉なんて要らない。




 ・・・なーんて、欺瞞だと思ってたさ。
 だって、言葉にしないと何にも伝わらないじゃないか。
 今回のことがなかったら、永遠に気づかなかったかもな。


 でも、俺・・・理解ったから。


 ユウのアドバイスがあったから、己を奮い立たせて、立ち直れたんだ。
 ジジイと話し合わなかったら、自分の本当の気持ちにさえ気づかなかった。
 アレンに宣言したから、彼は傷つきながらも受け入れ、理解してくれた。








 だから




 ・・・だから、伝えなくては
 一番大切な貴女に、伝えなくては


 ねえ、聞いて。俺、言わなきゃいけないことがあるんさ








「 ・・・・・・っっ!! 」


 なのに、俺ときたら肝心なところで実行に移せない。
 覚醒したばかりの彼女を抱き締めて、愛しい名前を連呼するだけ。


「 ・・・ラビ・・・ 」


 彼女が、俺の名前を呟く。
 しばらく使っていなかった喉が、まだ上手く働かないようだ。
 俺を呼ぶたびに、ケホン、と小さな咳が重なった。
 抱き締めたまま背中を擦ってやると、彼女は俺に身体を預けてくれた。




 もう、二度と・・・


 この声が聞けないかと思ってた
 この腕に抱いてはいけないと思ってた
 こうして、が腕の中にいるのが、まるで夢のよう




 ・・・少し、痩せたな。
 元々痩せていたのに、一層細くなった。
 抱き締めるたびに、の身体が折れてしまうような気がするさ。
 全部、全部、俺のせいだな。




「 ごめんな・・・ 」




 今まで、辛い想いさせて。重荷を、背負わせてしまって。
 優しい君のことだから、俺を傷つけまいと必死だっただろう。
 俺のいないところで、きっと胸の痛みに泣いただろう。






 でも・・・・・・もう、終わりにするさ






「 ・・・聞いて、 」


 泣きじゃくる彼女の肩を抱いて、そっと身体を離す。
 涙を拭って、真っ赤になった瞳で、俺を見つめた。


 深く、吸い込まれそうな、の美しい瞳。
 初めて出逢った時、なんて綺麗な瞳なんだろう、と思ったんさ。
 泣き顔も、怒った顔も、驚いた顔も、笑った顔も。


 過去も未来も、この気持ちは『 絶対 』だから。












 そんな麗しい彼女に・・・・・・万感の想いで、告白する












「 俺、が好きだ 」














満天の星




the innumerable stars in the whole sky



第 6 章








 視線が、交錯する。


 目の前のラビは、驚くほど迷いのない瞳をしている。
 それに比べて、私は・・・きっと呆れるほど揺らいでいるだろう。


「 が、好きだ 」


 彼は、素直に受け入れられずにいる私に、もう一度告白してくれた。
 信じられない・・・信じ、られなく、て・・・。
 あんなに欲していた言葉なのに。夢見ていたセリフなのに。
 直面してみれば、ただ、動揺するばかりで。


「 ・・・あ、イキナリで、迷惑、だったさ? 」
「 そ、そんな・・・こと・・・っ 」


 左右に首を振ると、ラビが瞳の光を緩めた。
 優しいその光に、私は顔を紅くする・・・。


「 こんな、時・・・どうしたらいいか・・わからなくて、って、うわっ!! 」


 俯いた私の頭を、ぐわしぐわしっ!と撫で回す。
 さっきまでの、真剣な雰囲気はどこへやら。
 不満の声を上げる私を見て、ラビは高らかに笑った。


「 いいさ、いいさっ!それでもいいんさっ!! 」
「 ・・・っ、ラビ・・・?? 」


 ・・・どういう、こと?
 見上げると彼は、優しい光を湛えたまま、微笑んだ。


「 俺・・・ずっと、我慢した言葉が、幾つもあったけれど・・・ 」
「 ラビ・・・ 」
「 色んな障害があったけれど・・・でも、もういいんさ 」






 障害


 それはきっと・・・私と、ラビ。二人の間に存在してた、壁のこと
 私たちはとても深い処で、お互いを認めていたように思えるのに・・・
 エクソシストと、ブックマン
 相容れない、お互いの立場が邪魔をしていた






 ・・・・・・で、も?






「 もう、いいって・・・どういう意味なの? 」
「 ・・・そのまま、さ・・・ 」


 彼はその長い指で、瞳に溜まった涙を拭った。


「 諦めないことにしたんさ 」


 夢も、愛も。
 手に掴んだものを、全て諦められるほど。
 零れていくものを、仕方ないと割り切れるほど。
 ・・・俺は、大人じゃないから。


「 ・・・ラビ 」


 彼は、自分で言うほど未熟ではなく。
 私が『 眠って 』いる間に・・・むしろ、ひと回り大きくなった気がする。


「 俺は、ブックマンになるよ 」


 けれど、と一呼吸おいて・・・私を見つめた。


「 それでも、今と変わらず・・・を愛すると約束するさ 」


 緑色の瞳に、私が映っていた。
 泣き腫らした顔をしている。頬も少し、こけていて。
 髪の艶も、肌のハリも、何もかも失くしてしまっていた。








 ・・・あの日


 貴方に・・・絶望、して・・・
 自分の殻に閉じこもってしまった、酷い女
 傷を治そうともせず、じっと抱えているだけ






 そんな私を・・・彼は・・・ラビは、愛してくれていると・・・言う、の?
 そんな私に・・・ラビを、愛していると告げる資格が・・・あるの?








 戸惑う。何も・・・言えない。
 そんな私の心を見透かしたように、ラビはにっこりと笑った。


「  」


 彼は、私の両肩に手を添えると。
 まるで空気を抱き締めるように、ふわりと私を包み込む。
 もたれかかった肩が温かくて、私は瞳を閉じた。


「 の荷物、俺にも預けて 」
「 ・・・荷物? 」
「 そ♪ 」


 不思議そうに尋ねる私に、ラビが言った。


「 あの日、が負った傷を・・・俺も、一緒に背負いたいんさ 」


 一人の少女を、殺してしまった。
 少女の悲しみも、孤独も、未来も・・・何もかも、奪ってしまった。
 ミスとはいえ、赦されない行為に。


「 でも、ラビ・・・ 」


 ・・・傷を負ったのは、貴方も同じなのに。


「 あの事件のことだけじゃないさ。過去の傷も、これから背負う傷も全部。
  辛いことも、嬉しいことも、二人で半分こして。
  どんな時も、の隣で・・・俺も、微笑っていたんさ 」
「 ・・・・・・ラ 」


 ラビ、と。そう声をかけたかったのに。
 プロポーズにも似た愛の告白が、改めて・・・こんなにも嬉しいなんて。
 彼は、慟哭する私の背中を撫でて。
 『 泣き過ぎるのも、起きたばかりの身体には毒さ 』と囁いた。










 ・・・・・・私たちは


 どうして、出逢ってしまったのだろう


 今まで、私の人生の中には、幾つもの出逢いがあった
 生まれた土地でも、過ごした場所でも、エクソシストになってからも
 様々な人とすれ違い、交差し、親しくなり、時には別れがあった










「  」
















 星の数ほど、生命が存在するこの世界で








 惹かれたのは・・・・・・ただ、一人の、存在
















「 ラビ 」




 自分からゆっくりと身体を離すと、そっと彼の頬に口付けした。
 ラビは、ちょっとだけ驚いた顔をして・・・微笑う。
 彼が『 嬉しい 』。
 そのことが『 嬉しく 』て、私も微笑んだ。




「 、好きだ 」






 本日3度目の告白に


 私は、ようやく・・・・・・頷いて見せた






「 ・・・私もよ 」






 きっと・・・生まれた時から捜し求めていた


 見えない星を見つける為に、私たちは今日まで歩いてきた
 心の隙間を埋める存在。足りない何かを補ってくれる存在
 私だけの運命の星が、きっとどこかで光り輝いていると信じて




 その星が幻でないことを・・・重なった唇の熱が証明してくれる




 貴方が、永遠の愛を約束してくれたように


 私も心の底から、誓約するわ














「 大好きよ、ラビ 」














 たとえいつか、別れが来ても




 身体が朽ち果てる時がきても


















 私の愛は・・・・・・永久に、貴方の未来を照らし続けることを


















( 貴方を愛すること、貴方に愛されることを・・・私はもう、恐れない )






Material:"君に、"