こうして彼女を抱き締めている間も、嵐は続いていた。




 全ての音を掻き消すようなその轟音の中で、は埋めていた私の胸から顔を上げた。
 その頬を濡らすのは涙か、それとも私のコートを濡らす雨雫か。
 真っ赤に腫らした瞳が上目遣いに私を射抜く。吸い込まれるように、彼女へと口付けた。


「  」


 啄ばむように唇へ、潤んだ瞳へ、濡れた頬へ。
 彼女を象る輪郭を確かめるように項へと唇が降りた時、コートを掴む彼女の手に力が篭ったのがわかった。
 私はの顎を持ち上げると、舌先を唇でぺろりと舐める。
 すぐには挿れてやらない。これが合図なんだと、に『 解らせる 』為だ。
 無言のまま彼女が薄く瞳を上げる。吐息交じりにその空洞がぽっかりと開いたのを見て、舌を差し込んだ。


「 んんっ!は、ぁッ・・・ふあ・・・ 」


 私の背中をかき抱くようにしがみついた両手を首元へと導く。
 身体を預けてきたを抱き締めながら、舌根まで差し込んでいた自分の舌を少し緩めてやる。


「 趙、雲・・・ちょお、うん、ぁ・・・ 」


 ようやく、酸素を求められる速度になってきたことにほっとしてか。
 体勢を持ち直すと、は私に応えるように自分から舌を絡めてきた。
 僅かに顔を離すと、追いかけるように舌を伸ばしていたは何とも魅惑的な表情だった。
 口内ではなく冷たい空気の上で伸ばして舌を絡めあう。より一層の生温かさに、背筋がぶるりと震えた。


「 ・・・・・・っ!? 」


 沸き上がる欲に震えたのは私だけではなかったらしい。同じように感じていたのか、突如の腰が落ちた。
 堪らず、ぷっと吹き出すと、彼女は真っ赤な顔をしたまま頬を膨らませたがすぐに解ける。
 ふわりと担ぎ上げられたの中で、驚きの方が勝ったからだ。


「 うわわ!ちょ・・・ちょっと、趙雲ッ!? 」
「 玄関で最後まで致しても構わなかったが、貴女まで風邪を引いたら困る。
  私にしがみついて濡れただろう、一緒に風呂に入って温まろう 」


 ぽかんと口を開いたを抱いたまま、勝手知ったる部屋へと入り、浴室の扉をくぐる。
 冷たいタイルの上に降ろしてもまだ呆然としていたが、私が次々と服を脱ぐ様を見て正気に戻ったらしい。
 下着を脱ぐ直前で、ちょっと待ったッ!!としがみついてきた。


「 さっ、ささささすがに一緒は恥ずかしいよ!わ、私は大丈夫。全然冷えてない、寒くないから!! 」
「 そうか。では私が直に確かめて納得すれば、開放してやろう 」
「 確かめて、って・・・きゃあっ、ば、ばかばか!何するのよー!! 」


 の履いていたスウェットパンツに手をかけると庇うように身を屈める。
 その隙を突いて、上着のジップを遠慮なく下ろす。狼狽させてしまえば陥落させるのは簡単だった。
 おろおろとしているを背後から抱きすくめる。
 互いに一糸纏わぬ姿で抱き合えば、その肌の温もりにこっそり吐息が漏れた・・・。


「 趙雲・・・は、ずかしい、よぉッ! 」
「 今までだって散々見てきたくせに、何を今更 」
「 そっ、それとこれとは違うーっ!! 」
「 違わない。ほら、とにかく浸かってくれ 」


 耳まで真っ赤になったまま絶句している彼女を抱いて、バスタブの蓋に手をかける。
 案の定、沸きたての湯が張ってあり、立ち昇った湯気が水面の上を踊っていた。
 ・・・本当は、私との電話を切った後に一人で入るつもりだったのだろう。
 私はにこりと極上の笑みを浮かべて、湯船へと身体を沈める。
 長いバスタブに横たわると気持ちよさのあまり、大きく息を吐いて肩の力を抜いたように” 見せた ”。
 それを見ていた彼女も気を緩めたか、しぶしぶと身体を縮めて私の股の間にちょこんと座る。


「 いい匂いだな 」


 柑橘系の匂い。蒲公英色の入浴剤は、のお気に入りだ。


「 ああ、そうだ・・・貴女を抱く時に、いつも香っていた匂いだ 」


 言うなり引き寄せると、隙間なく密着した身体にの身体が紅に染まった。
 自分の腰に当たったものに『 思い当たった 』のだろう。


「 先程のキスは気持ちよかった?腰が砕けるほど、心地良かったのだろう・・・? 」
「 な、何言って・・・あっ! 」
「 正直に言ってご覧。私は素直な君の方が好きなんだ。それとも・・・身体に聞いてみようか 」
「 いや、あ、趙雲っ、あ・・・は、はあッ、ぁふ!! 」


 伸びた指がいきなり秘部を撫でたので、は甲高い声を上げた。
 浴室に響いた声に慌てて口を抑えたがもう遅い。
 は快感に身体を丸めて抵抗するが、むしろ秘部は晒され、後ろから触れる指の餌食になっている。
 人差し指を第一関節まで埋める。ちゃぷり、と波を立てて湯が揺れた。


「 ひあぁんっ!んんんっ、だっ、だめぇっ! 」
「 やっぱりキスで濡れていたな。湯じゃないだろう、この滑り感 」


 第一関節だけでなく、ずっぽりと指一本呑みこんだ。
 引き抜こうとすれば後を追うようにの腰が動く。親指で蕾の場所を探し当てると、が啼いた。


「 ま、待ってふぁ、んぁ、あぁん、ぁっ・・・ふあああぁっっ! 」


 口を塞いだ両手は、最早何の役にも立っていない。
 指を増やして内壁をなぞり、掻き回す。が恥ずかしそうにぎゅ、っと瞳を閉じた。
 今は入浴剤で見えないが、ベッドでいつも見ているの裸体を思い出すように私も瞳を閉じた。
 どこを撫でればいいかは解ってる。それほどこの身体を・・・自分は愛でてきた。
 想像する身体と同じ場所にある蕾を突く。の嬌声が響いた。


「 あぅ、も、趙雲、だめ、だめェっ・・・あ、はっ、あっああっ、んンッ・・・ッッ!!! 」


 腕の中で、の身体がどくりと跳ねた。
 指を包む液体が湯の温かみとは違うものになり、ゆっくりと引き抜くと蒲公英色の中に溶けた。
 はあ、はあ、と大きく肩で息をしているを背後から抱き締める。もう、抵抗はなかった・・・。
 汗ばんだ彼女の頬にひとつキスを落とすと、ゆっくりと瞼を持ち上げた。


「 ・・・趙雲、の、ばかぁ・・・お風呂の中で、なんて・・・ 」
「 そうだな・・・すまない。最後まで責任は取るからそれで許してくれ 」
「 えっ、な、に・・・!? 」


 立ち上がると湯が大きく揺れた。ぐったりした彼女の腰を持ち上げて、手を浴槽の淵につかせると・・・絶景だった。
 形の良い尻を高く上げ、両腿の間から覗いた乳房が震えるたびに、ぽたり、と蒲公英色の雫が落ちた。
 突然のことに目を白黒させているだったが・・・やがてはっと顔をこわばらせる。
 これからやろうとしていることにようやく気がついたようだが、それを赦すほど、私は愚かではない。


「 ま・・・待って待って、私、今、達したばかりで・・・! 」
「 待たない。だって、さっきから『 意識 』していただろう?
  触れるたびに腰が揺れてた。本当は、私よりの方が『 したい 』と思っていたんじゃないのか 」
「 ち、違ッ・・・!あッ! 」


 入浴の影響もあってか、達したばかりのの秘部はいつもより桃紅色に染まっていた。
 の呼吸より少し早く蠢いては愛液を滴らせている。指でそっと持ち上げると、くぷぁ、と口を開けた。
 むせ返るほどの『 雌 』の匂い。太腿を伝う涎の洪水に・・・ごくり、と無意識に喉を鳴らしてしまった。
 早く、早く・・・そう、私を誘っているように見えた。
 非難の声を上げていただったが、そこに宛がう気配に・・・息を、呑む。


「 私の方こそ・・・キスした時から、限界だった、っ! 」


 ゆっくり腰を落とす。崩れそうになるは、私の『 言いつけ 』を守って両手で踏ん張っている。
 にやり、と笑って蜜壷の中へと挿れていく。挿入の圧迫に、彼女は切なげに吐息を漏らした。


「 んん・・・ふぁぁ・・・あっ、趙雲、ああぁ、趙雲、趙雲、はぁ、ああんッ・・・! 」


 とうに蜜壷は愛液でいっぱいになっている。ずる、ず、ずるりと私のそれを難なく飲み込んでいった。
 あ、あああァん・・・と声を上げ、の背が反り返る。奥まで辿り着いたのがわかった。
 私は堪らず、は、と息を吐き出した。その間も、彼女は小刻みに震えてひたすら快感に耐えていた。
 ・・・やはり愛しい。自分の中の加虐心に拍車がかかっているのが解った。
 の腰を持ち上げ、反り返った彼女の耳たぶに噛み付いた。


「 ・・・加減してやりたかったが、やはり無理だ。しっかり掴まっているんだ 」


 凍りついたの腰を掴むと、荒々しく動かした。


「 はああぁッッ!やん、ああっ、あっあっあっ!! 」


 苦悶の声がの唇から漏れる。だが・・・『 下 』の唇は歓喜の声を上げた。
 私のモノに吸い付いて、絶対に捕らえて離さない。ぐちょりと歪んだ淫猥な唇が涎のように愛液を零す。
 清らかな白肌と淫らな秘部、光と影のように対の魅力を持つ彼女の身体を抱き締める。
 無意識に揺らした腰を擦り付けるようにして、が快感に喘いだ。


「 んん、ぁあああ・・・趙雲、あん、あはぁ・・・あんっんっ、んやぁ・・・ぁん! 」
「 ふ・・・こういう時は、気持ち良い、だろ?何度もそう教えたはずだ、なあ、・・・ 」
「 あっ、ぁ・・・気持ち、ぁあっ、良い、ひぅうっ!きぁ、気持ち良いっ、んん・・・ 」
「 良い子だ、なら、もっとだな・・・くっ、ぁ!! 」
「 ふぁああああっ、ああっ、あああ!趙雲、ちょ、ぉ、趙雲っ・・・あああぁあぁんッ!! 」




 ここで何度も名前を呼ばれるのは・・・ずる、い・・・ッ!!




 誤魔化すように背筋を細めた舌で舐めた。汗の味がした。彼女はこれも気持ちよかったらしく、嬌声を上げた。
 右手で茂みを掻き分けて蕾を愛撫する。そこは熱く熱を持ち、腫れたように膨らんでいた。


「 ひぅやぁんッ!!そこぉ・・・そこ、らめっ、ああんっあっ!また・・・や、イッちゃ・・・ッッッ!!! 」


 子宮の奥までその一撃をずんっと喰らったが、鼻にかかった声を一際甲高く響かせる。
 奥歯をかみ締めて射精感を耐える。
 今、射精してしまえば、は私の思い通りにならないと、そう自分に言い聞かせて・・・。
 両手の力が抜け、とうとう崩れ落ちたが、私は脱力した彼女の身体を自分の身体ごと冷たい壁に押し付ける。
 ・・・当然、内から抜いていない。頬に張り付いた髪を耳にかけてやり、息も絶え絶えのの唇に自分のを寄せた。
 疲労と快感の余波に漂うに熱い吐息を吹きかけ、ちろちろと舌で耳朶を擽る。


「 ・・・もう一回、イケるだろう・・・?このまま、動くぞ 」
「 ・・・も・・・無理だって、赦して、趙雲・・・んんっ、ん、ッ! 」
「 愛してる、愛しているんだ、・・・ぁ・・・ッ、くぅ!! 」
「 あ、ふあぁッ!いやぁあ、ま、た大きく・・・んぁあ、んあああぅッ!いやぁ、あ、ああん!! 」


 の左脚を持ち上げ、更に奥へ奥へと打ちつける。
 2度の絶頂を向かえ、ぴちゃぴちゃぐちょぐちょと如何わしい音を立てるの秘部。
 加えて足元で湯が揺れるものだから、水音との嬌声が今居る世界の『 全て 』だった。


「 んんっ、あっ、あっあっ・・・趙、雲・・・んっんっぁ、はあっ、ふぁんっ! 」


 彼女の白い指が、ぎり、と力を込めてタイルをなぞる。
 その仕草にがもう一度快感の淵に立ったのだと悟る。感じやすい、卑猥な身体。
 ・・・もちろん、今日まで開発したのは私だ。どこを撫でれば、どこに触れれば悦ぶかは私しか知らない。
 もう彼女は・・・いや、私のは、彼女の身体を知り尽くした私以外の男では満足できないはずだ。
 優越感にずくりと下半身が疼く。反応して、が啼く。啼くと、愛液が溢れる。
 その愛液に促されて、私は腰の動きを早めて大きさを増して、が感じて・・・何て甘美な無限ループ。


「 あ、あんっ、すご、すごいよぉ、趙雲、もう、も・・・や、ぁあ、だめ、も、もぉ、あああっ・・・! 」


 頬を伝う涙を唇で吸い、そのまま舌を差し込んだ。の舌が伸び、ぴちゃりと音を立てた。
 銀糸が唇の端に零れるが、彼女はそれどころじゃない。3度目の快感の予感にがくがくと震えた。


「 ・・・いいだろう・・・っ、私も、もう・・・ッ、あ・・・っ 」
「 あああっ、あ、趙雲っ、あっあっ、私、あぁんっ、愛し、あああ、ぅあぅ、ふぁああん!! 」
「 愛してる・・・愛してる愛してる愛してる・・・ッ、、あああ、ッッ・・・!!! 」


 そこに私の理性などなかった。あれほど縛っていた射精感を一気に高めて、腰を打ちつけた。
 喘ぐが、最後の一突きに白い喉を天井に逸らして達した。


「 ふあっ、イ、くぅッッ!んぁ、あぁっ、あっあっあっ!あぁ!あああぁあぁあぁーッッ!!! 」


 先に頂上へと達した彼女の内壁がぎゅうっと収縮し、私も同時に精を放った。


「 ・・・・・・ッ、っくぅ・・・は・・・ぁッ!!! 」


 元々限界だった。我慢した分の快感といったら・・・私まで気を失うかと思った。
 突き抜けた快楽を少しでも喰らい付くしたくて、数度、の中に腰を打ち付けて・・・ようやく開放する。
 息を整える暇はなかった。至極冷静に努めて、ずるりと引き抜いた。
 ごぽ、と音を立てて、精液が蜜と混ざって滴り落ちる。落ちた滴はそのまま蒲公英色の湯に溶けて漂う。
 愛液にまみれた自分のモノを見ているだけで、また勃ってしまいそうだった・・・。
 一度瞼を閉じて理性を取り戻すと、重ねていたの身体をゆっくりと背中から抱き締めて湯に沈む。


「 ・・・ちょ、ぉ、うん・・・ 」


 息も絶え絶え・・・といったように、ぐったりと伸びた彼女が瞳を閉じる。
 その瞼は一度閉じるとすぐに開くことは無かった。小さい寝息を立てた身体が沈まぬよう抱いていたが・・・。


「 ( このままだと茹るな ) 」


 愛ある調教は多いに奨励するが、苦痛を味わわせる趣味はない。


 を抱き、湯船から出る。浴室の出入口でタオルとバスローブを拾って、そのまま寝室へと向かった。
 整えられたベッドの上にそっと寝かせる。真っ赤になったの身体にバスローブを巻いてやった。
 自分もバスローブを羽織ると、冷蔵庫から持って来たペットボトルの水を口に含んで彼女の唇へと吸い付く。
 こくり、と喉が上下に動いたのを確認して開放すると、幾分楽になってきたのか、眉間の皺が緩くなっていた。
 それを見て・・・今度こそようやく、自分の肩の力も抜く。
 長い髪をかき上げて、疲弊して眠る彼女の隣へと滑り込む。丸まったその身体を包むように抱き締めた。






 こうして抱き締められる『 位置 』に辿り着くまでだって・・・彼女は知らないだろうが、相当苦労したんだ。






「 ( の名前を知るのも、電話番号を聞き出すのも、会話のネタを用意するのだって ) 」


 明るくて、人一倍負けず嫌いで、気さくな彼女は社内でも人気者だったから。
 昨日よりも今日。今日よりも明日、と・・・一歩ずつ、確実にの心に入っていきたくて。
 偶然を装って何度も逢いに行った。短い時間でも話すことが出来れば、その日は有頂天になった。
 逸る気持ちを辛抱強く抑えて彼女と接してきた。振られるのが怖かった。それでも告白せずにはいられなかった。
 誰かに獲られるくらいなら、玉砕しても再度、何が何でも振り向かせて見せると思った。
 私の告白に、笑顔で嬉しそうに頷いたを見て、これでもう杞憂することは何一つ無いと思った・・・でも・・・。


「 ( でも・・・あれは始まりに過ぎなかったんだ。貴女を知れば知るほど、私は溺れていく ) 」


 愛なんて脳内物質の一種だとしても、一度支配されれば麻薬と同じだ。逃れる術の無いものへと変化する。
 私自身が良い証拠だ。だから、貴女のことも支配したい。私が居なければ生きられない、と言わせたい。
 最も・・・貴女が居なければ生きられないのは、私の方。想像を上回るほどの愛で、の全てを愛してる。


「 ・・・・・・好きだ、 」


 額に張り付いた髪を除け、そっとキスを贈る。むにゃ、と口元を歪めて、擦り寄ってきたを優しく抱き締めた。
 ・・・いつまでもこうして抱き締めていよう。ずっとずっと、いつまでも。












「 嫌いになった言われても・・・もう、離してやらないからな 」












 胸の中の彼女から、大好きだと言っていた入浴剤の香りがした。


 眩暈がするほどの幸福感に身を委ねて、私もと同じ夢の中に入るため・・・静かに瞳を閉じた。






爪の先まで溶かしてあげる

( この身体も、心も、魂も・・・いっそ溶けてしまえば、貴女は私のものになるだろうか )




Title:"Shirley Heights"

Material:"青の朝陽と黄の柘榴"