そういや、クラスの女子に借りて読んだ少女漫画に、こんなシーンがあったっけ。
 ( 正確に言うと、無理矢理!押し付けられて、読まされた、だ!! )
 ぼんやりとそんなことを思い出しながら、隣の少女を見下ろす。






「 うっ、く・・・ふ・・・っ 」


 先輩は、泣き止まない。
 涙がぽたぽたと頬を伝って、拭おうとする手首を濡らす。


「 先輩・・・そんなに泣かないで下さいよォ 」


 泣かないハズ、ない、とわかっていても、言わずにはいられない。
 だってもう・・・この状態で30分は経過している。
 いつも通り、部活に行こうと、人通りの少ない裏庭から近道しようとしたら
 先輩がうずくまってたんだ。裏庭の、ホントに端っこの、大きな樹の根元の影で。


「 り、お・・・いいよ、ひくっ、行って、ぶ、かつ 」
「 いや・・・まだ時間あるから、大丈夫ス、けど・・・ 」


 まさか・・・、先輩?
 恐る恐る声を掛けたら、その小さな人影が、肩を震わせて振り向いた。
 顔を赤くして、目を腫らして。とにかく、放っておけなかった。






 ・・・それで、俺はここにいる。


 大好きな・・・先輩が、失恋の痛みから、少しだけ立ち直るまで。






「 へへ・・・予想はし、てた、けどっ・・・思って、たより、辛い、なぁ・・・ 」


 握り締めていた彼女のハンカチは、もう役目を果たしていなかったので。
 スポーツバッグから取り出したタオルを差し出すと、ありがとう、と顔を拭った。


「 失恋が辛くないヒトなんて、いないス 」
「 そう、だね・・・ふふっ、利央ってば、いいこと言うなぁ 」


 先輩が俺以外のヒトに心奪われていた、って事実は、俺の失恋を意味するんだけど。
 今はそんなの、関係ないくらい、胸がズキズキする!
 彼女の、無理やり作った笑顔に、苦しいぐらいムカムカする!!


 なんで、何でそんなに笑おうとすんの?
 辛い時くらい、隣の俺を頼ってくれてもいいんじゃないの?
 俺って・・・そんなに頼りない?それとも年下だから?






 ねぇ、先輩・・・俺、先輩のこと、ずっと好きだったんスよ?






「 ・・・ん、涙、止まった。もう大丈夫 」


 最後の一滴を目尻から拭うと、そう言って勢いよく立ち上がる。
 見上げた俺からは逆光で、表情なんかわかんなかったけど( わかりたく、なかった )
 彼女はスカートの裾を2、3度掃って、照れくさそうに振り返る。


「 ありがと、利央。傍に、いてくれて 」


 ・・・その瞬間、ココロが爆発した。


 先輩の腕を引っ張る。悲鳴が上がる。引き寄せる。抱き寄せる。
 いつもは、先輩後輩とか、マネージャーと選手の関係とか、色んな柵があるけれど
 そんなモノは、一瞬で蒸発してしまった。


「 先輩・・・もっと泣いたり、暴れても、いいんスよ? 」
「 り、おう 」
「 これじゃ傍にいたことになんない。俺、先輩にもっと近づきたい 」


 漫画じゃ、オンナノコは、失恋して慰めてくれたオトコノコの優しさに触れて
 次第に、二人は恋に堕ちていったりするんだけど
 そんなこと・・・現実じゃアリエナイ、って頭の悪い俺にだってわかる
 ( そりゃー・・・恋人になれたら、嬉しいけどさぁ )


 でもさ、ひとつだけ、同じだよ
 レンアイとかオツキアイとか、俺、したことないから、イマイチわかんないけどさ
 ・・・先輩が辛いのを、ただ見てるだけじゃ嫌なんだ
 励まして、元気づけて、いつもいつも、本当の笑顔でいて欲しい










 彼女の、ココロ許せる存在に、なりたいんだ










 彼女が今、どんな顔をしているのか気になったけど、俺には確かめる勇気がなく
 ただ黙って、先輩を静かに抱き締めていた
 と、それまで微動だにしなかったしなかった先輩が・・・・・・


 ・・・そっと、小さな腕を俺の背中に回してきた














 俺は内心、ちょっとだけ・・・漫画どおりの展開を予想してしまったけど
 その未来(さき)のことなんて、誰にもわからない






 俺・・・今は、先輩が笑ってくれてたら、それでいい














明日はきっと、





普通に、笑える




( だからいつか・・・いつかでいいから、一人のオトコとして俺を見て )



Title:"good bye my love"