事件は、食堂で起きた。






「 いつものヤツねン?お待ちどーんっ♪ 」


 ジェリーの野郎が、顔を見るなり蕎麦を差し出すようになった。
 ・・・今日は、温蕎麦の気分だったのに、出てきたのはざる蕎麦だった。
 ( でも蕎麦なんだ・・・とかいう、下らないツッコミはいらない )
 イラっときたのを隠しもせずに、仏頂面で空いている座席を探した。


「 ( ・・・ん? ) 」


 ・・・壁の端から、妙なオーラが出ている。
 混雑した食堂にいる奴らも、何かを感じ取っているのか、
 その一角だけが、空席だった。
 俺は、オーラの中心に向かって歩き出す。


「 ・・・あ・・・ユウ 」


 いつもの覇気は、どこへやら。
 気の抜けた声を出したが、向かいの席に座った俺を見上げた。


「 何やってんだよ、食べねぇのか? 」
「 あー・・・うん・・・ 」


 のトレイには、彼女の大好きなものばかりが載っている。
 教団にいる間は、少しでもストレスを和らげようと、ジェリーなりの
 心遣いなのだろう( 俺には皆無だったが )


「 食べれ、ないの 」
「 ・・・具合でも悪いのか 」
「 そうじゃなくて、その、あの 」


 ・・・俺は、こういうハッキリしない、というか鈍いのが、とてつもなく嫌いだっ!
 ( ただでさえ、今の俺は温蕎麦じゃなかったことにイラついている!! )


 ド、ンっっ!!!


 拳をぶつけると、トレイ上の箸がカチャリと音を立て、汁が波を立てた。
 食堂で食事をしていた教団員が、何事かと俺と振り返り・・・。
 目の前のは、怯えたように顔をひきつらせる。


「 ハッキリしろ、そういうところがウザいんだよっ!! 」


 と言うと、周囲の視線をモロに浴びたが・・・。


「 ・・・・・・ふえ、っ、っく 」






 泣き出した。






「 ちょ・・・おま、泣くことないだろうがっ!! 」
「 う、ひっく、だ・・・だって、ふぇ、ユウ、が、ユウがっ 」
「 ・・・・・・俺のせいかよ!? 」


 お前のせいだー、そうだそうだー、と上がった野次馬に六幻を向ける。
 席を外したかったが、をこのままにはしておけない。
 俺は溜息をひとつ吐いて・・・出来る限り、優しい声で語りかけた。


「 ・・・何で食べないんだよ 」
「 ・・・・・・ 」
「 もう怒らねぇから、話してみろ 」


 まるで疑うように、しばらくじーっと俺を見ていたが( 失礼なヤツだ )
 ず、と団服の袖で涙を拭くと・・・あのね、と口を開く。


「 ・・・今日から、ダイエット始めたの 」






 昨日、任務から帰って来てね、久々に体重計に乗ったの。
 そしたら・・・な、な、なんと、3kgも太っていて!!
 任務地がお菓子の都で、ついついイロイロ食べちゃったんだ。
 でも、教団に帰れば、ジェリーさんが私の好きなものをいっぱい出してくれる。
 気を遣ってくれているのに、断っちゃ申し訳ないし・・・。
 どうしよう、って、悩んでいたところだったの。






 ・・・俺は、眩暈がした。
 出来る限り優しくしてやろう、なんて・・・甘かった!
 キッと睨んで、の胸倉を掴みにかかる。


「 馬鹿か、お前はっ!!グダグダつまらねぇことで悩んでんじゃねえよ!!! 」
「 きゃーきゃーっ!怒らないって言ったのにーっっ!! 」
「 うるせぇっ!!その腐った根性、叩き直してやる! 」
「 ユウに、嫌われたくなんだもんっ!! 」


 ジタバタと暴れていたが叫ぶ。
 俺は無意識に、胸倉を掴んでいた手の平の、力を緩める。


「 太ってたら・・・ユウに、嫌われちゃう・・・ 」


 固く瞑った瞳から、また涙が零れていた。


「 ・・・阿呆が 」


 拳を解くと、の身体がストン、と椅子の上に落ちた。
 彼女は、不思議そうに俺を見上げる。
 ・・・ちっ、コイツは本当に・・・俺のコトが解っていねぇ。


「 ・・・ならねぇよ 」
「 え? 」
「 嫌いになんか、ならねぇから・・・安心して、食えよ 」


 の顔が、みるみる笑顔に変わり、頷く。
 俺はその様子を見て、内心ほっとする。


「 ・・・ユウは、私が太っても、私のこと好き? 」
「 はあ!?・・・ホント、斬るぞこら 」
「 ねぇ、好き? 」


 その一言を聞くまで、何があって話題を逸らさないらしい。
 野次馬の視線が、今度は俺に集中しているのがわかる。
 ( 全員この場で斬ってやりたい衝動に駆られた )
 の瞳が、キラキラと輝いている。
 屈辱的だが・・・俺は、観念して・・・息を吸い込んだ。




 ・・・言わなければ、俺の方が彼女に嫌われてしまうだろう。




「 ・・・・・・す・・・・・・好き、だ 」
「 ユウーっ、私もだよーっっ!大好き!! 」


 微笑んだが、テーブルを飛び越えて、俺に抱きついてきた。
 ( っていうか、食堂のテーブルだぞ、オイ )
 周りから歓声や拍手だけでなく、帽子を投げたり、口笛ではやし立てる者もいた。
 温蕎麦、の言動、終いには極度の野次に。
 とうとう・・・堪忍袋の緒が切れて、俺はイノセンスを振りかざす!








「 六幻、抜刀っ!! 」








 それでも・・・幸せそうに抱きついてきた、彼女を見て
















 やっぱり俺は、彼女に心底惚れているのだと・・・・・・思った
















Week!!




= アナタと過ごす、一週間 =




( 神田こそ解ってない!何があっても、嫌ったりしないよ )