ミ、ランダ、ミランダ・・・・・・






「 ・・・っと、危ないっ! 」
「 え、あ、きゃぁっ!! 」


 突然響いた声に、我に返ると。
 隣にいた彼女の手が、ガッチリと私の右手を掴んでいる。
 その右手は、包丁を握り締めたまま、左手の親指へと振り下ろされる途中だった。
 気づいた瞬間、私は冷や汗がどっと背中を流れていったけれど。
 それは、彼女も同じだったらしい。


「 ふー、間一髪。大丈夫?ミランダ 」


 額を押さえつつ、が笑った。


「 え、ええ・・・大丈夫よ。心配かけてゴメンネ 」
「 なんのなんの!さ、もう少しよ 」


 はへらを持ち直し、再びかき混ぜていく。
 一生懸命な彼女を見ていると、萎んだココロも次第に膨らんでいくような気がして。
 私も、視線をボールへと戻す。


「 ふふ、そうね 」


 頑張らなきゃ・・・喜んで、もらいたいもの。
 長期任務に出ていたリナリーちゃんが、明日帰ってくる。
 も私も、それぞれの任務でやっぱり長くホームから離れていて。
 3人で一緒に過ごせるのは、本当に久しぶり・・・。


「 ミランダ、かき混ぜるのって、このくらいでいいのかな? 」


 明日帰ってくるリナリーの為に、お茶会の準備をしよう!
 そう提案したのは、だった。
 素晴らしい考えだわ、と賛成したのは、言うまでも無く。
 ジェリーさんに断って、厨房の一角をお借りしている。


「 あ、ちょっと待ってて。今、見るわ 」


 オーブンの温度を確かめようと、扉を開けると・・・。


「 ヒィ・・・っ! 」
「 ミランダ!? 」


 ( 当然だけれども )凄い熱気に圧されて!!
 よろめいた瞬間、偶然床に零れていた水に足を掬われる。
 つるっ、と滑って、ドシン、と尻餅をついて、ベシャ、カララ・・・ンという音がした。


「 うぅ、痛たたた・・・ 」


 思いっきり固い床でぶつけた腰を擦りながら。
 立ち上がろうとした横で、の息を呑む音がした。


 ・・・とても、嫌な予感がした、の。


 恐る恐る・・・振り返る。
 視線の先には、転がったボウル。白い、泡の名残・・・。
 ・・・血の気が引いていく。
 先ほどの乾いた音は、これだったのだ!
 泡立てていたメレンゲのボウルをひっくり返したのだ!!


「 ひぃぃ・・・!ご、ごめんなさ・・・っっ!! 」


 最後は、声にならず。
 の顔も見れず、ただ、涙が落ちていく床ばかり見ていた。


 もう・・・ダメ、だわ。今度ばかりは、嫌われてしまったわ!!
 リナリーちゃんは、もう帰ってくる。
 が企画したお茶会は、開催できない。
 わ、私の・・・・・・失敗、のせい、で・・・!!










 ミ、ランダ、ミランダ・・・・・・










 あの唄は、いつだって私の中で響いている
 失敗やミスをする度に、どこからか聞こえてきて、胸を締め付ける
 そう・・・鳴り止む日なんて、来ないんだわ・・・




 私が、心休まるときなんて・・・永遠に・・・・・・










「 ・・・ミランダ 」


 ぽん、と無造作に置かれた掌に、瞬間、身体が飛び上がった。
 けれど・・・伝わる温かみに、震えが止まっているのに、気付く。
 怖々と、置かれた手の先・・・彼女を、見上げた。


「 落ち込んでいる暇はないわよ。さ、新しいメレンゲ、作りましょ 」
「 ・・・ 」
「 なーに、『 世界の終わり 』みたいな顔、してるのよ!?・・・立てる? 」


 はケラケラと笑って、私の腕をぐっと持ち上げた。
 え、えぇ・・・と、私は曖昧な返事を返して、重い腰を上げる。
 彼女の手が、私のスカートの埃を軽く払って。
 呆然とする私に、にっこりと微笑んだ。


「 メレンゲくらい、すぐ作ればいいのよ。何も心配することはないわ 」
「 で・・・でも、お茶会に間に合わな・・・ 」
「 リナリーなら、ちゃんと待っていてくれるわよ 」
「 あの、私のせいで・・・ 」
「 ミ・ラ・ン・ダ!! 」


 泣き虫の私に、が顔を近づけた。
 そして、ゴチン、と額と額を軽くぶつける( 痛・・・くは、なかった )






「 失敗なんて、誰にだってあるでしょ。
  問題はその先。同じことを繰り返さないように、常に心掛ける! 」






 ね?


 そう言って、パチンっ☆とウィンクした彼女に・・・思わず、ときめいてしまった。
 ドキドキしている私の両手に、新しいボウルを預けると。
 は、再びへらを握り締めて、かき混ぜ始めた。
 ・・・私は、そんな彼女の背中を見つめて・・・ココロに、元気を溜めていく。










 ・・・うん、大丈夫
 もう一度、始めてみるわ・・・ゼロから


 そして、今度こそメレンゲのボウルをひっくり返さないよう、『 心掛ける 』
 の作っている生地と合わせて、ケーキを焼きましょう
 帰ってきたリナリーちゃんが、『 美味しそうね! 』と手を叩いて喜んでくれる
 久しぶりのお茶会は、きっと成功するわ






 そうよ・・・何一つ、怖がることなんて、なかったんだわ






 失敗は、明日への糧だから
 これも、自分が成長していく・・・積み重ねていく、一歩なのだから










「 ねぇ、ミランダ!ちょっと来てーっ 」




 の、私を呼ぶ声
 私を・・・・・・こんな私を必要としてくれる、場所がある




 私は、涙を拭いて・・・元気良く、答えた
















「 ええ!今、行くわ!! 」
















Week!!




= アナタと過ごす、一週間 =




( 貴女と、リナリーちゃんと、支えてくれる皆の為に、私は此処にいる )