周囲は、春の陽気に満たされていた。
満たされていくのは、カラダも、ココロも・・・全部。
貴女が、傍にいてくれるから
「 うわあ・・・っ!! 」
ベランダに飾られたプランターを見て、が感嘆の声を上げる。
それを聞いて、私は自分でも頬が緩むのが解った。
・・・あまりにも、予想と違わなかったので( それが、とても嬉しかったである )
「 これ、全部クロウリーさんが育てたの? 」
「 そうである 」
赤や黄色、色とりどりの花々。
まるで自分の存在を誇張するかのように、美しく花開かせる。
私は、その手助けをするだけ。
それだけで、花は光を増していくのだ。
「 凄いわ・・・綺麗 」
は花に寄り添って、いい匂い、と呟いた。
「 クロウリー城から持ってきたの? 」
「 いや、そんな余裕はなかったである・・・あの日 」
あの日
彼女の命を、奪ってしまった・・・・・・あの、日
何もかも、焼き尽くしてきた
過去から未来へ、逃げるように
業火の中へ、全てを捨ててきた
もう・・・何も、元には戻らないから
頬に添えられた暖かいものに、ふ、と気づく。
彼女の掌。長い指が、そっと顔を撫でた。
驚きに見下ろすと、がゆっくり微笑む。
「 ・・・泣かないで、クロウリーさん 」
「 あ・・・ 」
地面に落下した涙の跡を、私は見つめた。
彼女が、ポケットから取り出した白いハンカチで、知らずに零れた涙を拭う。
「 ・・・ありがとう、である 」
・・・そういえば、いつかもこんなことがあった。
泣いている私に、差し出されたハンカチと・・・慰めてくれる、甘い声。
亡き人への想いに、黙り込んだ私の隣で、が突然叫んだ。
「 あ!そうだ!! 」
ごそごそ・・・とポケットを再度漁ると。
手応えを見つけたのか、彼女はニンマリと笑った。
「 クロウリーさん、これ、あげる 」
彼女のふっくらとした掌に鎮座したものを、覗き込む。
茶褐色の、小さな粒。
「 種・・・? 」
「 うん、街で売ってたのよ・・・あの、この前、遊びに行った時に買ってきたの 」
は、知っている。
私が教団に来た経緯。エクソシストになったきっかけ。
よく一緒に行動している『 彼 』から聞いたのだと、話してくれたことがある。
( そして・・・彼女がその彼に想いを寄せていることに、気づいたである )
「 何の種であるか? 」
「 ・・・勿忘草 」
「 ワスレナ、グサ・・・ 」
彼女の言葉を、そのままリピートする。
それが、青紫色の小さな花だということを思い出した。
・・・そして。
「 花言葉は” ワタシ ヲ ワスレナイデ ” 」
一瞬、浮かんだ記憶の彼女が・・・・・・微笑んだ
「 ” 私を忘れないで ”、か・・・ 」
消したい、と。消してしまえばいい、と。
そう何度願っても、初めから無ければよかったモノになんか・・・出来ない。
彼女の存在は、私の生きる意味だから。
たとえ過ごした時間は短くとも、心から感謝しているのだ。
「 ・・・やっぱり余計な、お節介だったかな 」
俯いたの肩に、手を置いた。
「 いや、嬉しいである・・・大切に、育てるである 」
そう言うと、彼女は嬉しそうに頷く。
大切に大切に育てて、来年の春には美しい花を咲かせてくれるだろう。
綺麗でありたい、と切望した、あの人のように・・・。
私も頷いてみせて、の耳元にそっと耳打ちした。
「 も・・・ココロの中の、恋の花を、大切に育てるである 」
「 えっ!? 」
バッと身を翻した彼女の顔は、隣に咲いた薔薇のように紅く染まった。
動揺した彼女は、しばらく私を見ていたが・・・諦めて、照れたように微笑んだ。
そして、クロウリーさんには敵わないなぁ、と呟く。
私は満足そうに笑って・・・・・・空を、仰いだ。
彼女の中に芽吹いた、小さな、小さなその花が
想い人の前で、いつか大きく咲き誇りますように・・・
その瞬間、最高に輝くよう・・・私は、少しだけ手助けをする
・・・その役目が、私に出来ると教えてくれたのは
貴女が私に、愛の意味を教えてくれたから
Week!!
= アナタと過ごす、一週間 =
( 風よ、感謝の想いを空の上の彼女に届けて )
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