原因は・・・一時間前に飲んだ、コーヒーのせいだろうか・・・
ぼんやりと天井を見つめているのも、もう飽きた。
窓から見える小さな星を線で繋いでみるのも、もう面倒くさい。
目を瞑って想像の中の羊を数えるのも、もう限界。
「 はぁ・・・眠れない 」
こんな時、どうしたいいのかわからない。
ゴロゴロとベッドの上で、寝返りを打ってみるけれど。
『 睡魔 』の『 す 』の字も襲ってこない。
私は観念して、テーブルの上の水差しを傾ける。
コップに注がれた水を一口、含んだ時だった。
「 ・・・・・・あれ? 」
規則正しく並んだ窓辺に、ひとつだけ、小さな灯が燈っている部屋がある。
・・・誰の部屋か、すぐにわかった。
思わず頬を緩めた私は、椅子にかけてあった団服に袖を通した。
「 ・・・? 」
「 えへへ、窓から灯が見えたから・・・お邪魔だったかな? 」
「 いいえ、貴女ならいつでも大歓迎ですよ 」
部屋の主・アレンは、ドアを開いて奥へと導いてくれた。
私の部屋から見えた窓辺には、カンテラが光っている。
その隣に、山積みになっているのは・・・。
「 ああ、図書室から色々と借りたんです 」
開いてみると、色とりどりの挿絵の描かれた絵本だった。
ピーター・パン、白雪姫、シンデレラ、ヘンゼルとグレーテル・・・。
どの絵本も、誰もが知っている童話の数々。
「 アレンが読んでいるの? 」
「 ええ・・・おかしい、ですか? 」
「 ううん、そんなことないけれど 」
・・・なんか、意外かも。
と言うと、彼はクスクスと笑った。
「 小さい頃は、こういう、当たり前の童話を読む機会がなかったので 」
そう言って、アレンは自嘲的な微笑みを浮かべた。
・・・こんな時、どんな言葉を返したらいいかわからなくて。
戸惑っている私を見た彼は、ああ、と元の笑顔に戻る。
「 すみません、暗い話をして 」
「 あ、違うの!あの、えっと・・・ 」
「 ・・・それで?はどうしたんです? 」
何だか、アレンに言い辛くなっちゃったな・・・。
眠れないから、遊びに来ちゃったなーんて、子供染みた理由。
・・・でも。
彼は、相変わらずにこにこ微笑っていてくれたので。
( それだけなのに。とても嬉しかったんだ )
羽織った団服を、ぎゅ、と握り締めて、私は口を開く。
「 ・・・・・・寝付けなくて 」
「 そうだったんですか 」
じゃあ、これでも飲みます?
奥のキッチンから戻った彼が差し出したのは、ホットミルク。
温いカップに唇を近づけていると、誘眠作用もあるのだと教えてくれた。
「 あ、美味しい 」
湯気が頬を包んで、身体が温まってくる。
ほっと溜息を漏らした私は、手に取っていた絵本を改めて開いた。
・・・小さい頃、私もいっぱい読んだなあ。
素敵な王子様やお姫様、怖い魔女、優しい妖精たち。
ページをめくれば、いつでもどこでも、胸ときめく物語が待っていたから。
「 これはさっき読み終わったんです。は、読んだことあります? 」
「 うん、あるよ。呪いがかけられたお姫様のお話、でしょ? 」
「 ええ・・・『 むかしむかし、あるところに・・・ 』 」
アレンのテノールが、静かに部屋に響く。
私はカップを抱き締めて、ベッドに腰掛けた彼の隣に座った。
真剣に絵本を覗き込む私の様子を見て、クスリと笑う。
「 『 姫の呪いが解けるには、王子のキスが必要だ、と魔女は言いました 』 」
小さい頃の、アレンって・・・どんな子だったんだろう
彼の父親同然だったという、マナと共に
色んな町を転々としたという話は、聞いたことはあるけれど・・・
・・・アレンの旅こそ、冒険の連続だったんじゃないかしら
色んな街、すれ違う人々、そこで起きる出来事を二人で乗り越えて
絆を・・・深めていったんじゃないのかな
物語は、素晴らしい
けれど・・・アレンの中にある、マナとの『思い出』は
誰もが羨む、物語以上の・・・『宝石』、なんじゃないかと・・・思うの
「 ・・・いい、なぁ 」
想像もつかないほどの、深い絆。
私も・・・貴方と、そんな関係を築けたら良いのに・・・。
「 ・・・? 」
「 ・・・・・・ 」
・・・こと、ん・・・
重くなった首を、彼の肩に落とすと・・・耳元で、クスリと声が聞こえた。
浮遊感がしたと思うと、身体が柔らかいものに沈んでいく。
・・・きっと、アレンが自分のベッドに横たわせてくれたのだろう。
眠りの縁で抵抗しようとすると、あのテノールが響いた。
「 ゆっくり、休んで下さいね・・・・・・おやすみ、 」
その後・・・もう一言、アレンが呟いたのだけれど。
優しい言葉に、しがみついていた手をそっと離してしまった私は・・・。
そのまま・・・・・・夢の世界へと、堕ちていった
おやすみなさい、アレン
いつの日か・・・大好きな、アレンと
マナにも負けない『 絆 』を築ける日を・・・・・・夢、見て・・・・・・
Week!!
= アナタと過ごす、一週間 =
( 次の朝、隣に横たわる彼の姿に、とんでもない関係になったことに気づくんだけど )
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