蝉の声がうるさいくらいの、夏の中間日。




 あっけないほど・・・早く終わってしまったらしい、野球部の『 夏 』。
 一回戦から観に行く予定だったのに、体調を崩してしまったなんて、ホント最悪だ。
 ベッドの中で熱と戦いながら、それでも一生懸命『 頑張れ頑張れ!! 』って
 野球場まで念力飛ばして、応援していたのに!!
 観戦に行った友達からメールを貰った時・・・
 クラクラしたのは、熱なのか、気分的なモノなのか。


「 くくっ、でさ、そん時のピッチャーの顔って言ったらさー 」


 『 大尊敬の和さんと組めるのは、今年で最後だから 』
 試合当日、熱にうなされるアタシに送られてきた、和さんLOVEメール。
 その和さんとのバッテリーは試合と共にラストを向かえ、準太の夏も終わった。




 きっと・・・準太は、落ち込んでいるだろうな。
 今日の登校日で・・・何て声をかけたらいいかな。


 アタシは、昨日の夜からずっとずっと考えていたのに・・・!!




「 なぁ、、聞いてる? 」
「 はいはい 」




 な・の・に!コイツときたらーっっ!!!




 アタシの親切とか思いやりとか、全部、全部、無駄にしやがって!
 ケロリとした顔で、笑ってるんだもん!!
 口を開けば、その最後の試合の相手高校・・・( ニシウラ、だったかな )
 とにかくそこのピッチャーの顔が面白くてさ、ツボでさ、と。
 永遠に語ること3時間。午前中の登校日は、この話で終わってしまった。


「 すんげえ挙動不審でさ、試合中、ずっとオドオドしてんの 」
「 はいはい 」


 5歩前を進むアタシの後を、のんびりと彼が追いかけてくる。
 いつもの帰り道を歩きながら、準太は喋り続けていた。
 負けた相手校のピッチャーの話とか、どうでもいいの!
 まだ『 悔しかった 』とか愚痴を零すほうが自然じゃない?
 ( それはそれでウザいのかもしれないなぁ )


「 ってば、聞いてんのかよ 」
「 聞いてるってば 」
「 ほんっと面白いのソイツ!思い出すだ、け、で・・・ぷくくっ 」
「 はいはい 」
「 うくっ、ダメだ、笑える、あはははっ・・・ 」
「 はいはい 」
「 あはっ、ふへへへへ、あー、そうだ!!! 」
「 はいはい 」
「 オレと付き合ってよ 」
「 はいはい 」


 ・・・ぴた、り。


 突然・・・足が止まった。
 うぉっと!と、後ろでビックリする声が聞こえて。
 恐る恐る振り返ると・・・準太との距離は、3歩に縮まっていた。


「 ・・・・・・え 」


 準太の、真剣にで、真っ直ぐな視線に、貫かれる。
 今、アタシ・・・どんな表情、しているんだろう。
 周囲の時間は止まっているような感覚なのに、胸の鼓動だけがやたら早い。
 頭はビックリするほどクリアなのに、何にも考えられ、な・・・。






「 『 夏 』が終わったら、に告ろうって、ずっと前から決めてた 」






 勝利を添えることが出来なかったのが、凄く残念だけれど・・・と言って。
 3歩、2歩、1歩・・・。
 2人の距離が縮まって、ついに重なった。
 少し長めの前髪が、私の頬を撫でる。
 固まったアタシは、黙って瞳を閉じることしか出来なかった。












 ・・・どのくらい、経ったのだろう


 やがて、その柔らかい感触が唇を離れて
 目の前の準太が・・・フ、と口の端を持ち上げた












「 、好きだ 」












I see you smile





( そう言って・・・悔しいほど素敵な表情で、あなたは笑った )




Title:"構成物質"
Material:"空色地図"