まどろんでいた意識が、ゆっくりと覚醒に導かれていく・・・






「 アレン、起きた? 」
「 ・・・うん 」
「 あったかいの、飲む? 」
「 うん 」


 僕の恋人は「 匂いにつられて起きたんじゃないの? 」と意地悪く笑って。
 そっと、湯気の立つカップを僕に手渡す。
 ・・・紅茶かな。すごくいい、匂い( 確かにつられたのかも? )
 一口飲むと、ダージリンの爽やかな味わいが広がった。


「 美味しい 」


 自分の分を入れて、起きぬけの僕の隣に座る彼女。
 ぎし、とベッドが鳴って・・・改めて、彼女を見つめる。


「 ・・・は、どうして服を着てしまったんですか? 」
「 え・・・ええ?どういう意味!? 」
「 だって、の裸をもっと見「 見なくていいのっ!! 」」


 バフ、ンっ!!


 顔面マクラは・・・ちょっと苦しい、です・・・。
 手にしている紅茶のカップ落ちないようにするのに、精一杯。
 ずる、と落ちた枕をベッドに戻すと、ちょっと拗ねた顔の
 僕は少しだけ離れた場所にカップを置いて、身体を起こした。


「 アレ・・・ 」
「 大好きです、 」


 ぎゅっと抱き締めて、愛の言葉を囁く。
 驚きも手伝って、もぞもぞと腕の中で暴れていたが、すぐに大人しくなる。
 はゆっくりと僕の身体に、その身を預ける。
 僕らは身体を寄せて・・・ひとつに、なる。






 いつまでも、こうしていられたらいいのに


 魂までひとつにする術を、僕らは知らなくて
 身体だけでもと、何度も重ねるのに・・・それでも、足りない


 『 しばしの別れ 』が・・・こんなにも、辛い・・・






「 の次の任務は、どこなんですか? 」
「 インド 」
「 僕はフランスです・・・離れ離れ、ですね 」
「 今度はもっと美味しいファーストラッシュ、買ってくるね 」
「 充分美味しかったですよ? 」
「 違う違う、楽しみにしてて♪ってこと 」


 次の目標があれば、僕らはそれを目指して生き延びようとするから。
 最初にそう言ったのは、だっただろうか。
 『 14番目 』のコトを知った時に出来た、僕と彼女のルール。






『 アレンは、私との約束を絶対に破ったりしないでしょ? 』






 ・・・彼女の懸念は、当たってる
 僕だって怖い。この意識が、『 僕 』が失くなってしまうんじゃないかって
 いつか『 14番目 』に乗っ取られてしまうような気がして
 『 しばしの別れ 』が『 永遠の別れ 』になってしまったら・・・?
 もうに、逢えないんじゃないかって。抱き締められないんじゃないかって






 ( 不安だからって、自分の為だけに彼女を抱いている気がして
   僕はいつも・・・自己嫌悪に陥るんだ・・・ )






 俯いた・・・僕の手をとって。
 は、自分の小指を絡めた。
 細い、整えられた形の良い爪を見て、彼女へと視線を移す。


「 なんて顔、してんの?アレン。大丈夫だよ 」
「 ・・・・・・ 」
「 お互い任務頑張って、また一緒に紅茶飲もうね 」
「 ・・・・・・うん 」
「 大好き、アレン 」
「 僕も・・・大好きです、 」












 不安にならないで、なんてことは言わない
 その不安もひっくるめて・・・アレンが、好きだから












 そう微笑んだ、彼女のココロごと抱いて


 僕はベッドから出て、ローズクロスの輝く黒の団服に身を包んだ






神様のゆりかご





( 不安にならないヒトなんていない、だけど二人なら分け合えるでしょ? )






Title:"キンモクセイが泣いた夜"
Material:"七ツ森"