夜公演が終わった後で呼ばれた事務所の、ソファとローテーブルがある来客スペースに行くとそこには寺尾さんと、左右に少し白髪が残っているだけのつるつる頭で丸眼鏡のおじさんがいた。
 面識はないけど、どこかで見たことのある顔だ。そう思っている僕に近づいてきたおじさんは真顔で、
「伊織くん、君って性格悪いよね?」
「……えっ?」
「さっきの公演見させてもらったら、いつも自分が1番でいたい、誰よりに目立っていたいっていう傲慢さがバンバン出てたよ。まあセンターに立つならあれくらい図太くなきゃダメだろうけどね」
「ちょっと稲川先生、いくら本当のことでもハッキリ言いすぎよお。伊織はうちの看板アイドルなんですからね」
 明らかに面白がりながら寺尾さんが口に出したその名前で、僕は驚いてまたおじさんに視線を移した。
 まさかこの人、演出家の稲川幸也? 何でここにいるの?
「実はアンタに演技指導してもらおうと思ってた人、急に長期で海外に行くことになっちゃってね。そしたら昨日行ったラーメン屋で偶然この稲川先生に会ったからアンタの話をしたら、公演を見てみたいって言われて招待したわけよ」
 やっぱりこのおじさん、稲川幸也だ。30年以上舞台監督や演出を手掛けている大ベテランで、すでに海外でも世界のイナガワとして名前が知れ渡っている。75歳になった今でも演技指導の厳しさは有名だけど、確実に力をつけられるからこの人の指導を受けたいという役者は、芸能界でもたくさんいる。
 僕が俳優を目指したきっかけは中学生の頃に観た、稲川先生が演出した舞台だった。
「稲川先生、伊織はかなりの曲者ですけど根性はありますので、よろしくお願いしますね」
「いやいや、こちらとしても多少性格が悪いほうが鍛えがいもあるし、これから楽しみだよ」
 一時期、俳優になるために得意の歌やダンスを使って名前を売ったことは正しかったのかなって迷ったこともあった。でもアイドルとして活動していたおかげで、こうして稲川先生を紹介してもらえたんだから結果としては良かったのかもしれない。
 僕の性格が悪いっていうことで話が進んでいるのは、ちょっと納得できないけどね。藍川さんや水無瀬みたいなお人好しではないのは事実としても。


***


「あの稲川幸也に演技教えてもらえるなんて、お前すげえな」
「まあね〜! 今日の公演を見て素晴らしいって褒めてくれてさ、是非とも僕を育てさせてほしいって」
 舞台には詳しくない水無瀬でも、稲川先生のことは知ってるみたいだ。
 1週間くらいレギュラー番組のロケや雑誌のグラビア撮影が続いて、なかなか水無瀬とゆっくり過ごせる機会がなかったから、久し振りにこうして過ごせて嬉しい。
 裸で抱き合ってるうちに欲しくなってきて、仰向けになった水無瀬に背を向けて跨ると、勃起した性器の上にじわじわと腰を落としていく。後ろの穴は中までローションで慣らしてあるから、楽に受け入れることができた。
 背後の水無瀬に結合部を見せつけるようにお尻を高く上げて、僕は濡れた音を立てながら腰を振った。
「んっ、あ……っ! 水無瀬のが、奥までずぼずぼ来てるよぉ」
「前はあんなに初々しかったのに、いつの間にこんなドスケベになったんだよ……」
「だって会えない間、ずっと溜まってたからね。早くエッチしたくて、体験談とか読んで色々勉強したんだ」
 もちろんいくら寂しくても、他の男なんか誘ったりしてないよ。僕の身体はそんなに安くないからね。
 何だか前より水無瀬の性器をリアルに感じるって思ってたら、まだコンドーム着けてなかったよね。まあいっか、今度はいつ会えるか分かんないから、このまま初めての中出しエッチ体験させてもらうよ。
 不意打ちで締め付けると、水無瀬の短い呻き声が聞こえた。
「ぐっ……いく、いきそ……っ!」
「ねえ、僕の中どうなってるの? 教えてくれたら中に出してもいいよ」
 楽しくてたまらなくて、僕は笑いながら水無瀬の性器が抜けるぎりぎりまで腰を浮かして、浅いところまで咥え込む。そうやって焦らしてから、またゆっくりと根元まで飲み込んでいく。
「お前の中、すげえ吸い付いてきて、きつくて、熱い……」
「ふふ、イッていいよ」
 僕が許可を出した途端に水無瀬は急に起き上がって、僕をバックで激しく犯してきた。両手で腰を掴まれて、肌がぶつかり合う音と共に奥を何度も打たれる。立場が逆転して、興奮した僕の性器からあふれる先走りが止まらない。
「あ、あっ! はげしっ……いいっ、これ気持ちいっ……!」
 顔を伏せたシーツに、飲み込む余裕のなかった唾液が染み込んで広がる。かなり激しく動いていたらしく、僕の背中に覆い被さってきた水無瀬の身体は汗ばんでいた。密着していると耳元に荒い息遣いを感じて、まるで動物同士の交尾みたいだ。
 もう根元まで入ってるのに更に腰を押しつけてきてくる水無瀬は、今まで見たことのないくらいの貪欲さで僕を追い詰める。普段そっけないところもあるけど、エッチは濃厚で激しいっていう落差もたまらない。
「なかに、中に……ほしいっ」
「全部お前にやるよ、伊織」
 そして僕の中でイッた水無瀬が、熱い精液を何度も奥へと注ぎ込んでくる。僕の内側も搾り取るように水無瀬を締め付けて、最後まで離さなかった。


***


 窓の外が明るくなってきた頃、僕はベッドの上で目を覚ました。
 夜明けの静かな部屋の中で、すぐ隣に寝ているのは僕の大好きな水無瀬。ベタなシチュエーションだけどすごく幸せだ。
 こうしていられる時間は後もう少しで、僕はまた仕事に行かなきゃいけない。夕方からは早速、稲川先生が主宰する劇団の稽古に加わることになる。演技は素人同然の僕はそこでも浮くだろうけど、夢のためなら弱気なことは言ってられない。
 水無瀬も今日は昼公演に向けて、朝から劇場で準備やリハーサルがある。一緒に食べられないかもしれないけど、泊めてもらったし朝ごはんでも作っていこう。こういう形でお礼ができるから、色々と料理できるようになっていて良かったよ。お金よりも愛を込められるからね。
 好きな人のためにこんなに尽くせる僕って最高だよね。性格が悪いだなんて言われたけど、絶対そんなことないよ。


 ねえ、そう思わない?




end.


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